「宴のあと」事件

出典: Jinkawiki

「宴のあと」事件は、プライバシー権と表現の自由との間で争われた訴訟である。わが国においてプライバシー権を初めて取り上げ、それが法によって保護されるものとして承認したものである。

事実の概要

「宴のあと」とは、三島由紀夫が連載した小説の題名である。この小説は、外務大臣を務め、また戦後衆議院議員にも当選したことのある野口雄賢という男と、有名な料亭「雪後庵」の女将であり、後に野口の妻となった福沢かづという女を主人公とし、2人の結ばれた家庭、特に野口が革新党から推されて東京都知事選挙に立候補したが、選挙に惜敗したこと、その後福沢が雪後庵を再開するために野口に背き、ついに2人は離婚したことを描いたものである。  原告、有田八郎は、ここに描かれた主人公である野口が、原告をモデルにしたものであることは明らかであり、この小説が原告の私生活を描き、またそれを描いたものとして読者に受けとられることに不満をもち、それを単行本として刊行することを中止するように、被告平岡と連載中の雑誌の発行人中央公論社に申し入れた。中央公論社はこれを承諾したが、平岡はこれを拒否し、さらに被告新潮社と結んで、これを出版させた。なお新潮社は、それがモデル小説である旨の広告を繰り返して、発売した。そこで、原告がプライバシー権侵害を理由として謝罪広告と損害賠償を請求した。(賠償のみ認容、後に和解)


判旨

東京地方裁判所は一部認容、一部棄却という判決を下した。判決の争点が3つある。

・プライバシー権が認められるか ・プライバシー権侵害の成立基準 ・プライバシーと表現の自由

・プライバシー権が認められるか-「近代法の根本理念の一つであり、また、日本国憲法のよって立つところでもある個人の尊厳という思想は、相互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保障されることによってはじめて確実なものとなるのであって、そのためには正当な理由がなく他人の私事を公開することが許されてはならないことは言うまでもならないところである。」

・プライバシー権侵害の成立基準-「プラバシーの侵害に対して法的な救済が与えられるためには、公開された内容が(イ)私生活上の事実、または私生活上の事実らしく受けとられるおそれのある事柄であること。(ロ)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること。(ハ)一般の人々に未だ知られていないこと。を必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快・不安の念を覚えたことを必要とするが、公開されたところが当該私人の名誉・信用という他の法益を侵害するものであることを要しないのは言うまでもない。」

・プライバシーと表現の自由-「言論、表現等の自由の保障とプライバシーの保障とは一般的にはいずれかが優先するという性質のものではなく、言論、表現等は他の法益すなわち名誉、信用などを侵害しないかぎりでその自由が保障されているものである。このことプライバシーとの関係も同じである。」


参考・引用文献

『伊藤真の判例シリーズ① 憲法』 伊藤真 監修 伊藤塾 著   弘文堂

『憲法判例 第4版補訂2版』 戸松秀典 初宿正典 編著   有斐閣


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