アメリカの大学入試制度3
出典: Jinkawiki
公立学校の場合
カーネギー教育振興財団が、1980年代に100万ドルと3年間かかって行った質問紙調査(大学教師·学生·大学職員·高校生·親) と訪問調査(29大学)の結果によると、大学進学を希望する最上級生1000人の中で、何故大学へ行きたいのかという問いに対して、9割までが、「より満足のいく職業につくため」と答えている。また大学が「特定の職業」の準備教育をしてくれるから、「よりよい職業につくのに役立つから」と答えた生徒もほぼ同じで9割ぐらいいる。しかし、親たちは子どもたちとは違った見方をしている。進学希望の高校最上級生をもつ親たちは、「幅の広い、魅力的な人間」を育て1価値観や信念を確立する機会」を提供してくれるという理由で、大学に価値を認める傾向が強い。つまり、高校生たちはよい職業につく ために大学へ進学を希望するのであり、反対に親たちは特定吩野の職業につくことは重要な目的でないと、大学進学の目的に相異がみられる。 上記のような目的で進学する4年制大学におけるアメリカの大学入学選抜の第一の特色は、私立大学では一般に定員制を採用しているのに対して、州立大学には定員がないことが多い。ハイスクールの成績をA-B-C-Dの段階にわけて、州立大学の場合は、それぞれの大学が最低の基準を定め、資格ある者のうちから、州内の居住者を優先して入学許可を行っている。
例えば、州立インディアナ大学では、州内居住者は上位上の成績の者、州外居住者は1/4以上の成績の者といけ、その枠内の者に入学を許可している。しかし、カンサス州太刀大学では、州内居住者であれば、ハイスクール卒業生のすべてに入学許可するという開放政策をとっている。また、ミシガン大同窓生の子弟およびミシガン州在住の子弟を優先させるので、入学の2/3は同州在住の子弟である。各州に総合計画を作り、大学へ進学する者の数を前もって調査し、人的·物的の面に渡った設備を用意する。それゆえ、毎年の州立大学入学者は一定しておらず、入学者の増加に伴って、設備を拡張し、教員数の増加を行うことになっている。カリフォルニア州の高等教育総合計画によると、認定高校の卒業生の1/8がカリフォルニア大学へ入学し、残りの上位1/3が州立カレッジへ進学する。それ以外の者は、本人が希望すれば短大やコミュニティ・カレッジへ入学することができる。
ハイスクールの成績がよくないからといって、浪人してカリフォルニア大学へ入学する機会を待つことは許されない。しかし、短大やコミュニティ·カレッジ、あるいは州立カレッジへ入学した学生が、2年後にカリフォルニア大学の第3学年に転学することは可能であるが、この場合、取得単位や成績に条件がついているので容易なことでない。調査によると、カリフォルニア大学へ入学した学生の標準テストの得点の平均は、ジュニア·カレッジ入学者よりも120点高いことが示されている。カリフォルニア州とニューヨーク州では、同様な総合計画によって、ハイスクール卒業者の8割以上が、つまり進学希望者のすべて学へ進学する機会を与えられている。そして、カリフォルニ等教育連絡協議会は、公立高等教育機関の三系統の学生入学状況と、その後の進路、また、学校間および各系統の学生の移動の問題について研究を行っている。効果的なガイダンス、健全な入学政策、利用可能な教育機関のうち適切なものを選択することなど、すべてはこのような研究の成果にかかっている。
大学入学試験委員会(CEB)は、1970年代を通して、1960年代以降の大学進学の拡大とそれに伴う学力低下現象への対応策として、多くの州が州立大学の入学許可基準を引き上げる措置をとったことが報告されている。例えば、フロリダ州では、1986年秋の新学年度から、州立9大学の入学許可基準を次のように引き上げることを決定している
1 GPA(ハイスクールでの成績の平均で、5点満点で示される)の最低水準を2.5とする
2 標準テストの最低得点を、SAT (標準適性検査)の場合は900点 ACT (標準学力検査)の場合は19点(17点、36点満点)とする。
3 ハイスクールで取得すべき最低単位数を19 (14)とする。
4 新しくスライド制の基準を導入する“これはGPAが20でも、テストの得点が高ければ、反対に、テストの得点が低くても、GPAが2。5以上ある場合は入学を許可する。
このように、以前から定めていた基準を改定してやや厳しく変更している。また、オハイオ州のように、柔軟な入学という政策は破棄されたわけではないが、高校生たちにもはや無条件に公立大学に入学できるのでないことを示し、適切な進学準備の必要になった州もある。1982年の全米中等学校長連盟の調査によると、27州の公立大学システムで入学要件の変更や見直しが行われた結果、オハイオ州では教育者たちが、中等学校と高等教育の関係の再検討を行い、州教育委員会とオハイオ州立大学理事会が高校から大学への進学に関する検討のための助言委員会を催した。そして、この委員会がオハ材州の全高校で英語と数学の強化をする必要のあること、高校進学カリキュラムに4年間の国語と3年間の数学の履修を含めるよう勧告し、私立·州立大にこれらのコースを必修とするよう勧告した。
私立大学の場合
私立大学の場合は、一般に定員制をとっているので、毎年入学定員が決められていて、選抜方法も各大学で自由に行われている。私立大学は学校差が大きいため、一流大学と評価されている東部にあるアイヴィ·リーグの大学等では厳しい競争率となっている。例えば、ハーバード大学では入学の基準に両親がハーバード出身であることを考慮に入れるけれども、学問上の適性を重くみることはいうまでもない。例年全米800以上の公·私立のハイスクールから7500名位の志願者があって、1/6弱の約1200名が入学を許可されている。西部のカリフォルニア州にあっても、スタンフォード大学の競争率も厳しく、東部のアイヴィ·リーグ同様の規準である。さらに、MITは定員が定められておらず、ある水準以上の学生を入学させる方針をとっているが、志願者が多いので、第一次 二次の選抜を行い、900名位の入学者を許可している。女子大学でもレベルの高い大学などは、学業成績、級の順位、テストのごく上位の能力のある志願者のみが入学選抜の対象になることを定めている。しかし、これに反して、私立大学の場合には水準の低い小規模の共学大学や宗教立の別学大学もあり、志願者も定員に比べて多くなく、広き門で入学が比較的容易な多くの大学があり、定員を定めていると否とに拘わらず、そのレベルの上下の差はわが国の私立大学よりも著しく、それがアメリカの大学の一つの特色になっている。 第二の特色は、公·私立大学を問わず、大学の入学に関する事務は、大学常置の独立した機関である「入学選抜事務局で行われることである。この事務局には、専門の大学行政官や事務職員がいて、志願者はいっさいの書類をここへ送り、選考と入学者の決定は行われる。ゆえに、大学入学の選抜に関して、多くの大学では、委員会が主になって行い決定するが、その他の各学部の教授はわが国の大学と異なり、一切この仕事に携わらないことになっている。これが一般的な入学選抜の方法であり、その他に、カリフォルニアのある大学では学生とともに会議の席に一緒に並んで分担する場合や、留学生を含む遠方の志願者の近くにいる同窓生の面接をも参考にする場合もある。入学者の決定は、専門家である入学担当官が主になって決定するのであるから、多くが博士号を取得していたり、大学院で高等教育を専攻した者もいる。専門家として絶えず入学選抜の方法について研究を続けており、単に入学のことのみでなく、入学後の成績とハイ·スクール時代の成績との関係や、入試の成績との関係などを調査している。さらに、ハイスクールの教育内容や教育水準を正確に把握するような体制がとられており、ハイスクールの進路指導を充実させ、生徒の進学に適切な助言を与えている。アメリカの大学の場合は、数が多い学部レベルの入学者の決定を独立した専門機関で、専門職員によって行うことによって、雑用を省き分業して入学者選抜のプロセスの合理化と適正化をめざしていると考えられる。
第三の特色は、大学入学のための最も重要な選考基準は、一定の必修コースの履修と、学業成績の平均点とクラス内の席次であるが、古い歴史をもつ適性検査SATや、学力検査ACT標準テストが、社会のほとんどの大学で入学選択に用いられている。前者は、毎年約160万高校生が受験するということで、言語部門と数学部門とに分かれる客観テストである。後者は、毎年約100万人の高校生が受験しており、このテストは英語、数学、社会、科学や自然科学の4領域に分かれており、学生の達成度を測ろうとするもので、少なくとも間接的にはカリキュラムとつながりをもっている。これらの標準テストを取り扱っている機関は、大学入試協会(CEEB)や、米国大学検査協会(ACTP)をはじめとする民間の独立した非営利団体の独立した事業団体である。その他、教育検査サービス(ETS)、米国科学研究協会(ASRA)や全米特別奨学協会(NMSP)などの機関である。これらの諸機関は、わが国の大学入試センターと異なり、民間の純粋な非営利団体で、検定料を主な収入源として、独立採算制をとりながら、教育界に貢献している。第一次大戦末期に、大学入試に関する国家的計画の必要性が問題になり、その必要性からCEEBが生まれ、試験の実施を委託されるETSが第二次大戦後の1948年に創設された。そして、その他の教育上の各種試験受託施設は、いずれも第二次大戦後に組織されている。
多くの高校生たちは、このテストの成績が悪いと、高校の成績とは関わりなく、よい大学に入れないと聞かされて、心配しているが、実際は、高校時代の学業成績の平均点と席次が入学許可の重要な要素で、高校の成績が低い場合とか、その点数の低い志願者を除く、ボーダーラインでの決定をする時に使用されることが、わかっている。第四の特色は、原則としてハイスクールの卒業証書がなければ、大学入学は許可されないのが普通であるが、アメリカの大学には「早期入学」と、「早期決定計画」というものがある。前者は、ハイスクールのジュニア·クラスでも、とくに優秀な成績をおさめ、優れた学力と能力のある生徒は、スクールの卒業を待たずに、ジュニアクラスを修了した後、直ちに大学へ入学させる制度で、4年制のハイスクールでは3年、3年のハイ·スクールでは2年のクラス修了である。実施の方法は大によって多少異なっているが、ハーバード大学やプリンストン大学では、これらの生徒はジュニア·クラスの3月か5月にSATを受け、3月か5月か7月に3つの学力テストを受けて、10月に大学へ入学願書を提出し、面接を受けて、その年中に入学者が決定することになっている。この場合、他の大学へ出願することはできないことになっており、2年修了で大学へ入学が許可されるのである。後者の方法も成績のすぐれた学生で、その大学のみを志願している志願者を対象にして行われるので、これは3年になるとすぐに10月1日までに出願し、その年の12月末までに次年度の入学者を決定している。奨学金授与を希望する志願者は、この方法で出願することが原則になっている。このような制度は、アイヴィ・リーグの選抜の厳しい私立大学を中心に行われてきたが、今日では州立大学でもこの制度を取り入れている。さらに、ハーパード大学等では、ハイスクール在学中にカレッジレベルの勉強をやり出した学生は、専攻別の2年生への入学が可能である。
この場合は、3年の5月にCEEBが課しているAdvanced Placement Testsを受けねばならないことになっている。これは入学のために必ずしも必要でないが、入学後のクラスやコースを決定するのに用いられる。そして、大学2年に入学した学生は、集中した専攻分野における勉強をやり始めることになっている。このような学生は、大学入学後3年以内に学部レベルの勉強をして、大学院へ進学するのが普通であろうが、人によっては4年間かかってもよく、また、大部分は、大学院のコースを選択してもよいことになっている。上のように、アメリカの単線型の学校制度は、すべての者に広く高等教育(大学レベル)の機会を与えるべきであるという理念から、中等教育の段階で入試を行わず、すべてのハイスクール卒業生は、望むならばその能力に応じて、なんらかの形の中等後教育としての高等教育に近づけるという、開放的な制度になっている。それゆえ、わが国の場合と異なり、中等教育では大学入試のための準備教育はそれほど行われていない。中等教育としての卒業要件を充たすために、中等教育本来の勉強に励む。そして、一般教育とゆるい専門課程の4年間の学部課程を修了した後に、本格的な専門教育は大学院で修めることになっている。大学へ入学することは、よい就職につくためと明確にわり切っていても、大学入学が凵的でなく、4年間しっかり勉強しないと卒業ができないこと、とくに、1年から2年に進級できないことは、やはり本来の大学教育のあるべき姿でないかと考える。ユニバーサルで多様化した高等教育体系の中で、学部課程の教育は大切である。
参考文献
ビッグ・テスト アメリカの大学入試制度 知的エリート階級はいかにつくられたか ニコラス レマン 早川書房(2001)
アメリカの教育 村田鈴子 信山社(1997)