コラージュ療法

出典: Jinkawiki

目次

コラージュ療法とは

芸術療法の一つである。 コラージュ(collage)とは、フランス語で、糊付け(すること)を意味する。これはピカソ(1912)をはじめとする現代美術の重要な技法の一つである。すなわち雑誌やパンフレットなどの既成のイメージをハサミで切り抜き、台紙の上で再構成し、糊づけするというきわめて単純明快な方法である。そしてコラージュ療法の由来はもともとは美術技法の一つだった。


歴史

1970年代にアメリカのサイナイ病院の作業療法士Jane Mitchellがマガジン・ピクチャー・コラージュの創始している。日本でコラージュを利用した治療報告例としては山中(1986)がある。これはクライエントが自発的にコラージュを作成したものである。

治療技法として積極的にコラージュを導入したのは、1987年12月の森谷による東海精神神経学会の発表からであろう。その後1989年11月に日本芸術療法学会での森谷(1990)と杉浦・入江(1990)が同時にコラージュ療法を提案。以後、協力して、研究を進める。普及に弾みがつく。 とくに森谷は、箱庭療法の研究実践から、持ち運べる「箱庭」というコンセプトから発想してコラージュ療法に取り組んだ。哲学者の中村雄二郎(1984)の言葉が大いに参考になったようだ。


特徴

コラージュ療法の特徴として、手軽で持ち運びが容易であり,かつ手続きが簡単である。多くのイメージを取り込める可能性があり,具体的なメッセージを 持つ。言語表現より的確で、具象的である。芸術療法には絵を描いていく療法もあるが、これは絵を描くことが苦手な人でも導入しやすく、必要な道具も極めて少ない点があげられる。しかし、箱庭療法と異なり,イメージの図柄が繰り返し使えない点もあげられる。


種類

①家族コラージュ 母親と子が同時にそれぞれの作品を完成するものが母子相互(同時制作)法である。お互いの切り抜くものを気にして、作品について話していく。

②交換コラージュ療法 クライエントとセラピストが交互に制作していき、交流する方法。対面して行うのではなく、クライエントは宿題のように、家に持ち帰りやってくることもできるため、クライエントに対する負担は軽い。

③連想コラージュ療法 グループで制作する方法。友人の作品を見て話あう。他者理解、自己肯定感や存在感の向上が期待できるものである。

④コラージュ日記 1日1ページ、コラージュを制作していく。山中康裕氏(1941年~)が自らの心の癒しとして考案したもの。


実践方法と解釈

用意するもの 糊,ハサミ(先の丸いもの),雑誌・パンフレットなどの切り抜き,台紙(大きさはA4 から四切画用紙),ペンなど。

手順①材料を探す ・カラー写真と無彩色の写真 カラー写真:現実に近い感情や感覚 白黒・セピア写真:遠い過去、現実離れした時間や空間の感覚 黒色:無意識的なもの・未知のもの・受け入れがたいもの・不安や死に関するもの ・文字 文字がイメージを誘発することもある。

手順②台紙を選ぶ ・台紙の色 赤や黒などの強烈な原色:原初的な感情が存在 紫や暖色系:葛藤的な状態や高揚した気分が背景にある 寒色系や中間色:心身や対人関係が安全になり、やすらぎや穏やかさが訪れる

手順③素材を選ぶ ・写真を選ぶ段階の治療的な意味 知らないうちに「ありのままの自分」うあ「(過去や未来ではない)今の自分」や「(他人ではない)自分自身」と向き合い、 自分を生きるように方向づけられる。写真をみて選ぶということが、「ありのままの自分」や「本当の自分」に 近づく第一歩となる(杉野)。

手順④素材を切る ・素材を切る時の危険性への配慮 ハサミで切る行為は、安全性の高い「コラージュ法」の中で、もっとも危険で暴力的な局面である(中井)。 また、素材の切り方に本来必要で大事な部分が切り取られてしまうことで、実験検討力の歪みや、非現実的な傾向が表わされることもある。

手順⑤アイテムを配置する ・アイテムを配置するプロセスの治癒的な意味 複数のアイテムが組み合わされる時は、それぞれのアイテムの内容を画用紙のどこに配置されたかで、クライエントの在り方や 内的世界のバランスを知ることができる。画用紙のどこに配置するか決める時、クライエントの感覚がフル稼働されると思われる。 この段階においても、クライエントが程良い感覚を取り戻すのに意味のある内的調整機能が自然発生的にわかることもある。

手順⑥アイテムを貼る ・貼ることの意味 のりで貼る段階は「今・こここで」のありのままの自己の心情や存在の在り方を、作品としてゆるぎない形に留め、 内的なものを外在化する。

・のりの使い方、種類 のりの使い方一つとっても、精神的な安定さや不安定さ、粗雑さや繊細さが反映する。また、のりは何種類か用意して 選択できるようにしておくと、のりの使い方や選び方に作者の心情が反映できることもある。

手順⑦作品に題名をつける この段階で、意図することなく何気なく貼っていたアイテムたちが関連付けられ、漠然としたイメージがまとめられ、 統合へと方向づけられる。無意識的だったものが意識化され、そのような時には対象を手なずけ、自己を客観視し、自己と対象との一体感を持てているといえる。

手順⑧自分の作品を説明する 説明を聞いて初めて思いがけない意味にづけに気づかされることもある。また、「示すことができるが語ることはできない」段階のクライエントは、説明がまったくないか、一言だけ、ということもあるが、 説明できないことを尊重すること、一言にこめられた心情を理解することが大切になる。

手順⑨他者の作品の説明を聞く グループで行った場合、グループ内でルールを決めてこれを行う。

手順⑩作品を飾り眺める クライエントが持って帰ることで、家族がその作品を見ることができる。治療の意義を理解してもらうこともでき、作者は 以前の作品と比べることで変化に気づくことができ、過去の自分と今現在の自分の違いを発見することもある。


引用・参考文献 実践ですぐ使える絵画療法 コラージュ療法 著:杉野健二 2011 黎明書房 コラージュ療法入門 著:森谷 寛之,入江 茂, 杉浦 京子, 山中 康裕


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