スウェーデンの就学前教育

出典: Jinkawiki

就学前教育(しゅうがくぜんきょういく)とは、学校教育において初等教育より前の段階にある教育のことである。日本では就学前に入ることの出来る施設として、幼稚園と保育所(園)があり、現在は小学校へ就学するほとんどの子どもが、そのいずれかを卒園している。日本よりも多様な就学前教育の様式が存在し、多くの子供に利用されている。

就学前教育の代表的なものにプリスクール(pre-school)がある。プリスクールは、子どもの親が仕事や勉強に出掛けている間、子ども達をケアし、また特別なニーズを持つ子供をケアしている。スウェーデンのchild care全体の目的は、「高い水準の教育活動により子どもの発達と技能の習得を支援・促進し、国の成長に対する良好な条件の整備に寄与すること」である。つまり、常に教育と統合されたケアが意識されているようである。プリスクールの1日の保育時間の長さは、親の仕事時間に合わせて変えられる。子ども達は登録され、親は保育料を払う。この保育料は、全額負担ではなく、利用者負担は19%(2000年)と低くなっている。残りは市町村である地方自治体(コミューン)が負担する。また、移民の多いスウェーデンは、スウェーデン語があまり出来ない子供にも彼らの母国語で教育を行っている。


近年の就学前教育の動向

1998年1月1日より、就学前保育に関する管理が、国レベルにおいて社会庁から学校庁に移された。同日に施行された「学校法」の中に就学前保育に関することが組み入れたのに伴い、就学前保育が学校教育体系の第1段階として位置づけられることになった。つまり、保育園が働く親のための施設という位置づけから、子どもが学ぶための施設という考えに変わったのである。従って、就学前保育のカリキュラムも、他の初等中学のカリキュラムとの繋がりの中で構成されることとなった。また、充実した各種サービスを組み合わせて利用することで、仕事と子育ての調整を行うことが可能になったのである。それまでは、「社会サービス法」(1982年施行)が就学前保育についての基本法であった。

この改革により、2点大きく変わったことがある。1つは、それまで保育園あたりに対して費用が支払われていたが、現在は幼児一人に対して支払われるようになった点である。保育園の規模は地方自治体によって異なるため、財源不足の保育園が増加し、満足いく保育が行われないようになったためであった。2点目は、保育内容に関しての改善である。それまでは、園内などの施設内での保育が中心であったが、自然の中で遊び、活動することが幼児にとって最も大切なことであるということが学術的に証明され、多くの保育園では外で行う活動が増加した点であった。植物や動物、自然を学ぶために郊外に出掛けたり、アイススケートやクロスカントリー、水泳なども習慣の活動の中に含まれている。園外を活動する経験や体験は、日本よりもはるかに豊富である。

所管が社会庁から学校庁へ移されたことの背景には、学校教育における子ども達の学習能力が以前に比べてかなり落ちていることを人々が認識していることが考えられている。これは、生活態度の面も同様である。また、これまでは社会福祉サービスを中心に行ってきたが、受け入れ面での基盤もほぼ整備され、ほとんどの家庭で保育施設を利用出来るようになった結果、教育的な内容の面が強く求められるようになったからではないか、という解釈もある。幼児保育を実際に行うのは地方自治体(コミューン)であり、中央省庁は基本的な指導理念やカリキュラムを提示する立場であるため、中央における行政面での効率化は実際の運営面での混乱は生じないという点からも、このような所管移動が行われたのではないかと考えられている。


教育施設の種類

代表的な保育様式として、以下の4施設が挙げられる。

1、デイケアセンター (day care centres, daghem)

日本の保育所に当たる施設である。スウェーデンでは、有給で雇用されていたり、あるいは勉学中であったりする親の0歳~6歳の子どもにケアを提供する。通常は6:30~18:30まで開園しており、月曜から金曜まで年間を通して開かれている。他の年齢の子ども達と一緒に成長することが子ども達にとって一層価値があると考えられているため、いくつかのタイプの混合年齢グループ、つまり縦割り的なグループで保育されている。これに比べて、日本では同年齢別のグルーピングが一般化している。グループは、1~3歳までの幼児グループ (infant groups, or toddler groups)、通常2歳半~6歳までの子ども達が入れる兄弟姉妹グループ (sibling groups)、そして就学前のすべての年齢の子どもや低年齢の子どもでも入り得る拡大兄弟姉妹グループ (extended sibling groups)がある。1グループの人数の上限は18人である。1つのデイケアセンターには50~60人ぐらいの子ども達がいることが多いため、このようなグループやセクションと呼ばれるものは、4つ程度存在することが多い。3歳末満児が入れるかどうかは、自治体によって異なるが、大部分の自治体では入れる。それぞれのグループには、通常は3人のスタッフがいる。その内2人は、プリスクール教員 (pre-school teacher, forskollarare) であり、1人は日本の保育士に相当するチャイルドケア・アテンダント (child care attendant, barnskotare) である。または、1人がプリスクール教員、2人がチャイルドケア・アテンダントの場合もある。

2、パートタイム・グループ (part-time group, deltidsgrupper)

これは半日制の保育様式施設のことである。日本の幼稚園に該当し、4~6歳を対象とする。1日のうち、午前又は午後に3時間のみ通園出来る。デイケアセンターでの保育と同じ内容を、半日制という枠内で提供する。就学前教育施設では、プリスクール教員とチャイルドケア・アテンダントの両方がチームを作って子どもの保育に当たっている。

3、オープン・プリスクール (open pre-school, oppen forskola):開放型プリスクール

親が子どもの面倒を見ることが出来る家庭を対象として、子どもの遊び相手や親の情報交換の場を提供することを目的とする。親子が共に、利用したい時に利用できる。オープン・プリスクールが開かれるのは、週に数日であり、定期的に出席する必要もない。ここには自治体(コミューン)で雇われたプリスクール教員がおり、子ども達のためにいろいろな活動を組織したり、親に助言をしたりしている。2000年秋の時点で、スウェーデンには約800のオープン・スクールがあるようだ。

4、ファミリー・デイケア (family day care, familjedaghem):家庭保育室

両親が就業・勉強のため面倒が見ることが出来ない児童への保育を目的とする。自分の子供を含めて4人まで、家庭で子どもを預かる。

また、この他にもスウェーデンでは、小学校に入る前の1年間に学校に入る前の準備段階として7歳から通う小学校で教育を受けられる制度がある。この制度の目的は、児童が早期に小学校生活に慣れて、7歳から小学校に正式に通う時になったら、すぐに雰囲気になれるためだと考えられている。


今後の保育サービスの課題

今後のスウェーデンにおける保育サービスの展望として、政府は3つの優先課題を挙げている。

1、就学前教育の普遍化

プリスクールにおける教育が生涯教育の最初のステップであるという立場を取れば、学校に行く児童とそうでない児童がいるという問題であるという立場から、4歳以上の児童について、最低3時間の就学前教育を無料で与える、という考えである。

2、失業者の児童に対する就学前教育の提供

プリスクールや家庭保育室の利用は、「親が就労や勉強をしていること」が基本条件なため、失業者の児童にはこれらのサービスが原則として保証されていない。地方自治体の中にはこれに対応してきているところもあるが、何らかの形で原則を改正する必要がある。

3、親の負担費用の抑制と格差更正

費用設定は地方自治体に委ねられているが、最近の調査では格差が増加し、親の費用負担も全体として増加傾向にあるため、これを是正する必要がある。


参考文献:「第3回 文教大学 海外人間科学 北欧研修」資料・現地レポート、広辞苑、http://www1.odn.ne.jp/fpic/familio/familio034_topics.html http://www.meijitosho.co.jp/shoseki/tachiyomi.html?bango=4-18-938514-1 http://www.niph.go.jp/wadai/mhlw/1999/h1137011.pdf


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