マラリア

出典: Jinkawiki

マラリアは、熱帯・亜熱帯地域に広く分布する感染症で、世界100ヶ国以上の国で流行している。世界全体でマラリア罹患は年間3億~5億人、死亡は年間150万~270万人と推定されている。そのほとんどは熱帯アフリカの小児であるが、インド亜大陸、東南アジア、オセアニア、中南米、そのほかにも広く分布する。また、海外旅行者の発症も年間で1万~3万人程度いるといわれている。

20世紀前半においてはヨーロッパ各国でも多数の患者が発生していた。日本でも、かつてはマラリアの流行があり、100年ほど前には年間20万人の患者が発生していた。その後、衛生状態の改善や積極的な治療と媒介蚊の対策が功を奏し、1959年を最後に国内発生の報告はない。現在では、海外で感染した患者が、毎年100名前後報告され、死亡例も年間3例程度はあるとみられる。それ以外に日本人の現地での発病や死亡も無視できない。特に、途上国援助、若者の旅行形態の変化などは重要な原因である。


目次

病原体と感染経路 

有性生殖原虫(生殖母体)を有するヒトを蚊(ハマダラカ)が吸血すると、蚊の体内で原虫が増え、唾液腺に原虫がスポロゾイトとして移行し、他のヒトを刺したときに感染させる。原虫の種類によって、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵型マラリアの4種類に分類される。中でも熱帯熱マラリアは緊急対応が必要な病気である。 

まれに輸血や針刺し事故による感染もある。



症状

1週間以上の潜伏期間の後、悪寒、震えと共に体温が上昇し、1~2時間続く。その後、悪寒は消えるが、体温は更に上昇し、顔面紅潮、呼吸切迫、結膜充血、嘔吐、頭痛、筋肉痛などが起こり、これが4~5時間続くと発汗と共に解熱する。これを熱発作と呼ぶ。この熱発作の間隔は、感染するマラリアの種類によって異なり、三日熱、卵型マラリアは48時間、四日熱マラリアは72時間ごとに起こるが、感染初期では発熱が持続する傾向が多い。また、三日熱、卵型、四日マラリアは基本的に良性マラリアであり、発熱とそれによる症状はあっても、生命が危険になることは通常ない。

しかし熱帯熱マラリアは、他のマラリアと異なり高熱が持続する傾向があり、平熱まで下がることはほとんどない。また、症状も重く治療が遅れると意識障害、腎不全などを起こし、死亡することもまれではない。



治療方法

抗マラリア薬を投与する。感染した地域によって、マラリア原虫の薬剤耐性が異なるので、その地域性を考慮した薬剤が選択される。特に熱帯熱マラリアでの薬剤耐性は重要問題である。



温暖化との関連

暖かくなると、マラリア病原体の成長速度が早くなり、短期間で活性化する。またマラリア媒介蚊の寿命が延びる。これは、マラリア病原体が活性化するまで生き延びた媒介蚊が人を刺す、言い換えると一人の患者から次の感染が起きる可能性が高まることを意味する。さらに、暖かくなると媒介蚊の成長速度が速くなる。蚊は卵→幼虫→さなぎ→成虫と成長していくが、幼虫からさなぎ、さなぎから羽化して成虫になるまでの時間が短くなる。温暖化が進めば、世代交代が早まり、これまで比較的密度の低かった温帯地域でもマラリア媒介蚊の密度が高まることを意味しており、日本についても、宮古・八重山諸島にわずかに生息しているコガタハマダラカが、生息範囲を拡げるだけでなく、生息期間、密度を高める可能性がある。日本のような温帯地域の場合、温暖化により蚊の生育に最適な25℃、28℃へ近づくこととなり問題といえる。

だが、日本でマラリアが再流行する可能性は低い。

媒介蚊については、温暖化により日本でも流行を引き起こすのに十分な条件が整うことになる。残された要因は、輸入マラリア患者がどの程度増えるのか(感染源の増加)、人々の生活圏がどこまで蚊の生息地域に近づくのか(ヒトと蚊の接触機会の増加)、である。現在、年間100名弱の輸入マラリア患者が報告されているが、これらの患者が日本全国に、しかもその多くが都市部に散っていき、仮に治療を受けなかったとしても、媒介蚊に刺される可能性は極めて低い。 世界のマラリア流行地域をみると、流行の限界となっている地域には大きく分けて2つあることがわかる。一つは自然条件によって流行が押さえられている地域で、アフリカやニューギニアの高地にあたる。マラリア流行地域の中にありながら、一定以上の高地では気温が低すぎて媒介蚊が生息できず、マラリアが流行していない。こういった地域では温暖化の影響が確実に現れ、マラリアの流行が起こり得ると考えられている。もう一つは、日本をはじめ温帯地域にある多くの先進国で、公衆衛生という堤防で守られているため、本来ならマラリアが流行してもよい気候風土なのに流行が起きていない地域である。こういった地域では、温暖化による直接影響ではなく、温暖化によって社会・公衆衛生状況が崩壊することの危険性が問題となる。しかし現実の日本は、温暖化によって社会・公衆衛生状況が崩壊するほど脆弱ではなく、また都市化の進行によって20年、30年前のように夕方外にいると蚊にさされるといった環境に戻ることも考えにくいため、実際にマラリアが再流行する可能性は低いといえる。



参考

http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/07_mala.html

http://www.forth.go.jp/mhlw/animal/page_i/i04-20.html

http://www-cger.nies.go.jp/qa/22/22-2/qa_22-2-j.html


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