国際人権法

出典: Jinkawiki

目次

国際人権法

人権を国際的に保障するための法規の総称。人権に関する条約や宣言、そしてその実施を確保するための人権保障システムを考察の対象にする学問分野なのである。

国際人権法の展開

日本において国際人権法が強く意識されるようになったのは、インドシナ難民の受け入れをきっかけにしてであった。1975年4月、ベトナムの統一に伴って大量のベトナム人が難民として国外に避難した。その中から米国船舶に救助された難民9名が日本にも上陸してきた。それを皮切りに、続々とボートピープルの日本上陸が始まる。そして、政情不安を恐れる米国その他先進諸国政府からの強い要請により、ベトナム難民の日本定住を正式に認めるようになった。内外からの圧力が高まるなか、難民条約への加入は1981年10月に実現した。そしてこの条約を国内的に実施するため出入国管理法制が抜本から改められ、その結果、日本の入管史上初めて「難民」という概念が法定化された。それまで日本では、外国籍を持つものは、たとえ永住資格を持っていようと国籍の違いを理由に社会保障を一切享受できないとされていた。この不合理な差別に対しては以前から国内で粘り強く異議が申し立てられていたが、いずれも制度的改革をもたらすまでにはいたっていなかった。その制度的変革が、難民条約加入という「国際人権法との遭遇」によって、まさに一夜にして実現した。


国際人権法の概観

国際人権基準は普遍的に実現されるべき人権内容を明示している。地球上のどこにいても、人は人である限り、同等の価値を持ち、同等の取り扱いを受ける。これが国際人権法の基本理念である。しかし、わたしたちは世界政府のもとで生きているわけではない。いかに「国際」人権と銘打とうと、それは、結局のところ、各国の国内において実現されるしか術がない。これを言い換えれば、国際人権基準は「国内的実施」を予定されているということになる。国内的実施という場合、まず考えるのは、国際人権基準を国内法体系に組み入れるということである。そのやり方には大別してふたつあり、ひとつは国際人権基準を実現するため特別に国内法を制定すること、もうひとつは国際人権基準をそのまま国内法化してしまうということである。そのいずれを採用するかはそれぞれの国によって異なろうが、日本のように両方のやり方を採用できる国であっても、既存の国内法との抵触が考えられる場合には、別途国内法を制定しておくほうが立法政策上好ましい。実際のところ、日本のこれまでの例を見ても、条約の締結にあたっては、国内法との齟齬が生じないよう既存の国内法との整合性をあらかじめチェックすることが一般的であるこうして、難民条約への加入にあたっては出入国管理及び難民認定法や国民年金法・児童手当手法が、女性差別撤廃条約の批准にあたって男女雇用機会均等法や国籍法などが新たに制定・改正されている。もっともその一方で、立法整備が不十分に終わる場合も少なくない。そのような場合には国内裁判が威力を発揮することになる。状況に応じて、国際人権基準を裁判所で「直接適用」するか、あるいは既存の国内法規を解釈する指針として「間接適用」するか、戦略が練られなければならない。国内法制の違いもあって一概には言えないが、日本を含む多くの国で、裁判が利用されるケースは今後いっそう増えていくでしょう。なお、国際人権基準の国内的実施には、立法府・司法府だけでなく、行政府も関わっている。この点でとくに、行政機構に組み込まれた種々の委員会や調停機関などの果たす機能にも着目しておきたい。一方、国際人権基準が各国で実現されているかどうかを国際的に監視し、実現されていない場合にその方向への努力を促すのが「国際的実施」である。


参照

ブリタニカ国際大百科事典

「テキストブック国際人権法」 阿部浩己, 今井直著 東京 : 日本評論社, 1996.4


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