子どもの発達

出典: Jinkawiki

認識と感情

「認識」とは物や人についての構造をつかませることである。「感情」とは人間にとって行動を起こさせるきっかけとなるものであり、精神力の源となる。「認識」には良くも悪くもかならず「感情」がつきまとう。なぜなら、「認識」という活動は行動または行為の一種であるため、エネルギー(=精神力)を必要とするからである。各行為には精神エネルギーの支出が伴う。また、知性のはたらきと情意のはたらきの間には微妙な関係があり、知性のはたらきと情意のもつエネルギー支出とは、バランスがとれないことのほうが多い。たとえば「わかる」というのは認識で、「やめる」というのは行為であり、エネルギーを必要とする。ここで不都合が生じたために「わかっちゃいるけど、やめられない」という事態が起こるのである。行為は「感情」から起こるため、感情のメカニズムを知ることで事態は転換しうる。すなわち、「認識」と「感情」は子どもの精神発達の大切な要素をなしている。


子どもの発達段階 6段階

年齢によって段階的に分別でき、それぞれに知的発達、情的発達で分けられる。この発達段階はおおまかな区分であり、±2歳程度の変化はある。しかし、段階は順序がある。一つ前の段階が達成され、次の段階へ進むのであり、この順序が守られないと何らかの不都合が生じるのである。知能はエネルギーの「構造」的側面であり、情意はエネルギーの「かたまり」または「量」としての側面である。ただし、感情発達は遅れることがあり、知能の発達が感情に影響を与え、感情事態が「構造化」することもある。「発達」は自然的(内発的)であるのに対し、「学習」は特殊な状況下でのみ起こる外発的なものである。認識の発達には「操作」という概念が深く関係している。「操作」とは事物現象の心的コピーすなわちイメージをつくることである。「操作」のはたらきには「保存」という操作の出発点となるはたらきがある。

・第一段階

第一段階は人間がこの世に生れてすぐの段階で、遺伝的構成でなっている。知能発達には、反射と本能があり、情意発達には本能的諸傾向と情動がある。反射は条件反射のことである。本能は生体の均衡維持能力のことであり、食物本能と性本能をさす。第一段階では感情だけがある。

・第二段階

第二段階は生後すぐから六カ月ごろまでの期間である。この時期はまだ受身的であり、能動性はない。つまり条件反射の時期である。知能発達には力、最初の諸習慣、いくらか分化した知覚のように、生後に形成される諸能がある。情意発達には快・不快のような知覚と結びついた諸相が出てくる。条件反射は子どもが元々持っている一定の枠組み(シェマ)のなかに、条件刺激がうまくおさまること(=同化)によって成立する。シェマを新たな条件刺激によって変化させることを「調節」という。調節によって、新たな刺激は子どもに「了解」されたことになる。触覚器官の認識の上で感情は生じ、中枢器官の作用によって、感覚を感じるため、快・不快は「感覚感情」といわれる。

・第三段階

第三段階は六カ月から二歳の時期である。知能発達では感覚運動的知能、情意発達では「努力」「疲労」「悲しみ」「喜び」という初歩的規制がある。手足を使って何かをできるようになり、物と物の関係をなんとなく理解し、因果を客体化するようになる。認識と感情は同時に体験される。

・第四段階

知能発達では前操作的諸表象であり、情意は直観的情意である。前操作的とは心像による知性の活動を中心とし、言語的知性に先立って個人に発展するものである。対して、情意では親に対する愛情などの基本的な社会感情や、道徳的感情が出現する。すなわち対人感情が芽生え発達する時期である。

・第五段階

第五段階は知能では「操作」ができるようになり、情意では規範的情意がある。操作とは頭のなかの思考で、数や関係について論理的に考えられるようになる。情意では「意志」が発生し発達する。また、規則の成り立っている精神「立法の趣意」によって規則を解釈できるようになる。操作という論理作業ができるようになったため、感情のほうにも大きな変化が起こるのである。

・第六段階

第六段階は知能では形式的操作ができるようになり、情意では理念的諸情操ができるようになる。第五段階で培った思考を発展させ、複数の要素を組み合わせた抽象的な論理的思考ができるようになる。情意では対人感情から「集団感情」が理解できるようになり、「性格」が成立し、個人としての役割を見出しはじめる。

 発達段階をふまえて、感情教育をおこなうには、認識と感情教育について理解することが必要である。感情は、認識的構造を作り出すことはできないが、それの成立をはやくしたりおそくしたりできる。感情は知能がはたらくための重要な基盤となるからである。また、感情は論理をつくりだすことはないが、論理を退行させることがある。さまざまな感情をわきださせ、知性を照らし合わせて考えることで情操がのびていく。つまり、知能と情意は連携しているのである。また、子どもに道徳教育よりまず芸術教育を経験させることで、感情の保存を自力で道徳の領域へと適応させることも大切である。


参考文献

・波多野完治「子どもの認識と感情」(岩波新書)

・「発達と保育」(実教出版)


  人間科学大事典

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