非合理エスカレーション

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2010年8月6日 (金) 22:22の版
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== シュービックのドルオークション == == シュービックのドルオークション ==
- 以下は非合理エスカレーションの一例として有名な、マーティン・シュービックの考案した「ドルオークション」と呼ばれるゲームを、日本版として円単位に修正したものである。+以下は非合理エスカレーションの一例として有名な、マーティン・シュービックの考案した「ドルオークション」と呼ばれるゲームを、日本版として円単位に修正したものである。
- これから、この2000円札をオークションに掛けます。このせりに参加するか、傍観するかは、ご自由です。競り値の付け方は、100円単位でお願いします。最も高い値を付けた方が、この2000円札を競り落とせます。今回のオークションが伝統的なものとひとつだけ違うのは、2番手の値を付けた人も、その金額を支払うことです。ただし、もちろんこの紙幣はもらえません。たとえば、Aさんが300円、Bさんが400円で競りが終わったら、私が、Bさんに差し引き1600円払い、第2位の値段をつけたAさんは、300円、私に支払うことになります。+:これから、この2000円札をオークションに掛けます。このせりに参加するか、傍観するかは、ご自由です。競り値の付け方は、100円単位でお願いします。最も高い値を付けた方が、この2000円札を競り落とせます。今回のオークションが伝統的なものとひとつだけ違うのは、2番手の値を付けた人も、その金額を支払うことです。ただし、もちろんこの紙幣はもらえません。たとえば、Aさんが300円、Bさんが400円で競りが終わったら、私が、Bさんに差し引き1600円払い、第2位の値段をつけたAさんは、300円、私に支払うことになります。
- 以上のルールで、オークションにかけるとどうなるか。最初はAさんが1000円の値を付ける。この時点で落札できれば、Aさんには1000円分の利益があがる。しかし、そこでBさんがすかさず1200円の値をつける。すると、Aさんは第2位の値段をつけたことになってしまい、2000円札は手に入らず、さらに1000円を支払うはめになる。その大損をなんとか回避したいAさんは、負けじと1600円の値をつける。1600円で落札できれば、まだ400円分の得があろう。しかし、条件はBさんも同様で、ここで引き下がってはBさんは1200円の損をする。なので、Bさんは思い切って2000円の値をつける。2000円で2000円を落札できれば、利益はないが損もしない。損をするよりましである。しかし、ここでBさんに落札されてしまうと、Aさんは1600円分の損をしてしまう。それは困ると、Aさんは2100円を値をつける。2100円払って2000円を手に入れるのだから、100円分の損は出るが1600円の損よりましである。しかし、やはりそれではBさんが2000円分の損をしてしまう。Bさんはあわてて2200円の値をつける。もちろん、200円分の損ではあるが、2000円分の損よりはましだ。それに対して、Aさんが2500円の値を付ける。それに対して、Bさんは3000円の値を付ける。気がついたときには、どちらも大損しかしない値段にまで吊り上ってしまうのである。+以上のルールで、オークションにかけるとどうなるか。最初はAさんが1000円の値を付ける。この時点で落札できれば、Aさんには1000円分の利益があがる。しかし、そこでBさんがすかさず1200円の値をつける。すると、Aさんは第2位の値段をつけたことになってしまい、2000円札は手に入らず、さらに1000円を支払うはめになる。その大損をなんとか回避したいAさんは、負けじと1600円の値をつける。1600円で落札できれば、まだ400円分の得があろう。しかし、条件はBさんも同様で、ここで引き下がってはBさんは1200円の損をする。なので、Bさんは思い切って2000円の値をつける。2000円で2000円を落札できれば、利益はないが損もしない。損をするよりましである。しかし、ここでBさんに落札されてしまうと、Aさんは1600円分の損をしてしまう。それは困ると、Aさんは2100円を値をつける。2100円払って2000円を手に入れるのだから、100円分の損は出るが1600円の損よりましである。しかし、やはりそれではBさんが2000円分の損をしてしまう。Bさんはあわてて2200円の値をつける。もちろん、200円分の損ではあるが、2000円分の損よりはましだ。それに対して、Aさんが2500円の値を付ける。それに対して、Bさんは3000円の値を付ける。気がついたときには、どちらも大損しかしない値段にまで吊り上ってしまうのである。
このように、シュービックのドルオークションでは、互いに得をしようと、あるいは損を抑えようとするあまり、人間は自分の感覚と判断を誤ってとんでもない選択をし、それに固執し続けてしまう。そしてその結果、お互いにとって悲劇的な結末をよんでしまう。このような競合する他者に勝ちたいと互いに思うことが悲劇的な結果を生み出す現象を、マックス・H・ベイザーマン、マーガレット・A・ニールという心理学者は、「非合理エスカレーション」と呼んだ。 このように、シュービックのドルオークションでは、互いに得をしようと、あるいは損を抑えようとするあまり、人間は自分の感覚と判断を誤ってとんでもない選択をし、それに固執し続けてしまう。そしてその結果、お互いにとって悲劇的な結末をよんでしまう。このような競合する他者に勝ちたいと互いに思うことが悲劇的な結果を生み出す現象を、マックス・H・ベイザーマン、マーガレット・A・ニールという心理学者は、「非合理エスカレーション」と呼んだ。
== 非合理エスカレーションと冷戦 == == 非合理エスカレーションと冷戦 ==
- 非合理エスカレーションによって、冷戦時代の米ソを説明することができる。軍拡競争により膨れ上がっていく軍事費は、しかし先に止めてしまえば「軍事力に劣る」という巨大な危機を招くため、軍事費が国家を破滅させかねないほどに際限なく増やさざるを得ない。核弾頭の廃棄が進まないことも同様である。+非合理エスカレーションによって、冷戦時代の米ソを説明することができる。軍拡競争により膨れ上がっていく軍事費は、しかし先に止めてしまえば「軍事力に劣る」という巨大な危機を招くため、軍事費が国家を破滅させかねないほどに際限なく増やさざるを得ない。核弾頭の廃棄が進まないことも同様である。
また、2009年のCOP15でも、中国とアメリカの間で類似の事例が起こっている。COP15では、二酸化炭素の削減について結局ほとんど何も決まらなかった。アメリカは、自国だけが削減して損をするのが嫌だったし、中国も自国だけが削減して損をするのが嫌だった。このままでは、致命的な終結が訪れかねないというのに。このように、非合理エスカレーションは国家戦略の説明に用いられることもある。 また、2009年のCOP15でも、中国とアメリカの間で類似の事例が起こっている。COP15では、二酸化炭素の削減について結局ほとんど何も決まらなかった。アメリカは、自国だけが削減して損をするのが嫌だったし、中国も自国だけが削減して損をするのが嫌だった。このままでは、致命的な終結が訪れかねないというのに。このように、非合理エスカレーションは国家戦略の説明に用いられることもある。
== 参考文献 == == 参考文献 ==
-家森信善・小川光(2003) 『基礎からわかるミクロ経済学』 中央経済社+家森信善・小川光(2003) 『基礎からわかるミクロ経済学』 中央経済社<br>
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田尾雅夫・石田正浩・唐沢穣・益田圭・高木浩人 『「会社人間」の研究 : 組織コミットメントの理論と実際』  田尾雅夫・石田正浩・唐沢穣・益田圭・高木浩人 『「会社人間」の研究 : 組織コミットメントの理論と実際』 
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非合理エスカレーション

 非合理エスカレーションとは、競合する他者に勝ちたいと思うあまり、非合理的に競争が過剰に増幅され、互いに大きな損をする結果を招く現象のことである。


シュービックのドルオークション

以下は非合理エスカレーションの一例として有名な、マーティン・シュービックの考案した「ドルオークション」と呼ばれるゲームを、日本版として円単位に修正したものである。

これから、この2000円札をオークションに掛けます。このせりに参加するか、傍観するかは、ご自由です。競り値の付け方は、100円単位でお願いします。最も高い値を付けた方が、この2000円札を競り落とせます。今回のオークションが伝統的なものとひとつだけ違うのは、2番手の値を付けた人も、その金額を支払うことです。ただし、もちろんこの紙幣はもらえません。たとえば、Aさんが300円、Bさんが400円で競りが終わったら、私が、Bさんに差し引き1600円払い、第2位の値段をつけたAさんは、300円、私に支払うことになります。

以上のルールで、オークションにかけるとどうなるか。最初はAさんが1000円の値を付ける。この時点で落札できれば、Aさんには1000円分の利益があがる。しかし、そこでBさんがすかさず1200円の値をつける。すると、Aさんは第2位の値段をつけたことになってしまい、2000円札は手に入らず、さらに1000円を支払うはめになる。その大損をなんとか回避したいAさんは、負けじと1600円の値をつける。1600円で落札できれば、まだ400円分の得があろう。しかし、条件はBさんも同様で、ここで引き下がってはBさんは1200円の損をする。なので、Bさんは思い切って2000円の値をつける。2000円で2000円を落札できれば、利益はないが損もしない。損をするよりましである。しかし、ここでBさんに落札されてしまうと、Aさんは1600円分の損をしてしまう。それは困ると、Aさんは2100円を値をつける。2100円払って2000円を手に入れるのだから、100円分の損は出るが1600円の損よりましである。しかし、やはりそれではBさんが2000円分の損をしてしまう。Bさんはあわてて2200円の値をつける。もちろん、200円分の損ではあるが、2000円分の損よりはましだ。それに対して、Aさんが2500円の値を付ける。それに対して、Bさんは3000円の値を付ける。気がついたときには、どちらも大損しかしない値段にまで吊り上ってしまうのである。 このように、シュービックのドルオークションでは、互いに得をしようと、あるいは損を抑えようとするあまり、人間は自分の感覚と判断を誤ってとんでもない選択をし、それに固執し続けてしまう。そしてその結果、お互いにとって悲劇的な結末をよんでしまう。このような競合する他者に勝ちたいと互いに思うことが悲劇的な結果を生み出す現象を、マックス・H・ベイザーマン、マーガレット・A・ニールという心理学者は、「非合理エスカレーション」と呼んだ。

非合理エスカレーションと冷戦

非合理エスカレーションによって、冷戦時代の米ソを説明することができる。軍拡競争により膨れ上がっていく軍事費は、しかし先に止めてしまえば「軍事力に劣る」という巨大な危機を招くため、軍事費が国家を破滅させかねないほどに際限なく増やさざるを得ない。核弾頭の廃棄が進まないことも同様である。 また、2009年のCOP15でも、中国とアメリカの間で類似の事例が起こっている。COP15では、二酸化炭素の削減について結局ほとんど何も決まらなかった。アメリカは、自国だけが削減して損をするのが嫌だったし、中国も自国だけが削減して損をするのが嫌だった。このままでは、致命的な終結が訪れかねないというのに。このように、非合理エスカレーションは国家戦略の説明に用いられることもある。

参考文献

家森信善・小川光(2003) 『基礎からわかるミクロ経済学』 中央経済社
田尾雅夫・石田正浩・唐沢穣・益田圭・高木浩人 『「会社人間」の研究 : 組織コミットメントの理論と実際』 

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