言語問題
出典: Jinkawiki
2014年7月17日 (木) 18:17の版 Bunkyo-studen2008 (ノート | 投稿記録) ← 前の差分へ |
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- | == ニュージーランドにおける言語問題の例 == | + | == ニュージーランドの人口と言語について== |
- | == ''ニュージーランドの人口と言語について'' == | + | |
ニュージーランドの公用語は、英語、マオリ語、ニュージーランド手話である。マオリ語は1987年のマオリ語法により、ニュージーランドの公用語として認められた。ニュージーランドは、大きくヨーロッパ系67.6%、マオリ系14.6%、アジア系9.2%、太平洋島国系6.9%という民族別人口構成となっている。ちなみに、ニュージーランドではパケハ(非マオリつまりヨーロッパ系の白人)の割合が多く、次いでこの国の先住民であるマオリが多い。 | ニュージーランドの公用語は、英語、マオリ語、ニュージーランド手話である。マオリ語は1987年のマオリ語法により、ニュージーランドの公用語として認められた。ニュージーランドは、大きくヨーロッパ系67.6%、マオリ系14.6%、アジア系9.2%、太平洋島国系6.9%という民族別人口構成となっている。ちなみに、ニュージーランドではパケハ(非マオリつまりヨーロッパ系の白人)の割合が多く、次いでこの国の先住民であるマオリが多い。 | ||
ニュージーランド人が話す言語に着目すると、人口の約95.9%が英語を話し、次いで4.1%がマオリ語を話している。現在では、行政やビジネス、教育現場など様々な場面で、英語がニュージーランド社会の優勢言語であることは言うまでもない。しかし、英語を話せない者は2.2%いる。 | ニュージーランド人が話す言語に着目すると、人口の約95.9%が英語を話し、次いで4.1%がマオリ語を話している。現在では、行政やビジネス、教育現場など様々な場面で、英語がニュージーランド社会の優勢言語であることは言うまでもない。しかし、英語を話せない者は2.2%いる。 | ||
- | == ''マオリ社会とマオリ言語について'' == | + | |
+ | == マオリ社会とマオリ言語について == | ||
マオリは、19世紀前半からのパケハの人口増大と、マオリ土地戦争やイギリスが持ち込んだ病気によるマオリ人口の激減により、当時優勢であったマオリ語は英語に取って代わられ、マイノリティ言語となってしまった。マオリ語の衰退には、大きく「教育」と「都市化」が関わっていると考えられる。まず、教育の側面に着目すると、1867年の原住民学校法で教育言語は英語であるとされ、徐々に学校でのマオリ語使用は禁止されていった。この原住民学校は100年近くにわたり同化政策を担う存在として存続したが、マオリたちへの影響は大きく、マオリ語の話者は減少し続けた。もう一つの要因としての都市化とは、第二次世界大戦後に見られるようになったマオリの都市への大流失を指す。よりよい生活を求め都市へ移動するマオリの数は増加したが、パケハが中心となっていた都市における西洋文化にマオリが適応することは容易ではなかった。就業においてもマオリは低賃金労働者が多く、パケハとの間に収入や生活レベルの格差がもたらされていた。そこで、マオリとパケハとの格差是正のため、1960年、更なる同化政策として英語教育を勧告するハン報告書が発表された。パケハ中心の生活にマオリが溶け込むには英語能力の養成が不可欠であるとされ、マオリが第一言語をマオリ語から英語にしていくことが政策的に示されたといえる。 | マオリは、19世紀前半からのパケハの人口増大と、マオリ土地戦争やイギリスが持ち込んだ病気によるマオリ人口の激減により、当時優勢であったマオリ語は英語に取って代わられ、マイノリティ言語となってしまった。マオリ語の衰退には、大きく「教育」と「都市化」が関わっていると考えられる。まず、教育の側面に着目すると、1867年の原住民学校法で教育言語は英語であるとされ、徐々に学校でのマオリ語使用は禁止されていった。この原住民学校は100年近くにわたり同化政策を担う存在として存続したが、マオリたちへの影響は大きく、マオリ語の話者は減少し続けた。もう一つの要因としての都市化とは、第二次世界大戦後に見られるようになったマオリの都市への大流失を指す。よりよい生活を求め都市へ移動するマオリの数は増加したが、パケハが中心となっていた都市における西洋文化にマオリが適応することは容易ではなかった。就業においてもマオリは低賃金労働者が多く、パケハとの間に収入や生活レベルの格差がもたらされていた。そこで、マオリとパケハとの格差是正のため、1960年、更なる同化政策として英語教育を勧告するハン報告書が発表された。パケハ中心の生活にマオリが溶け込むには英語能力の養成が不可欠であるとされ、マオリが第一言語をマオリ語から英語にしていくことが政策的に示されたといえる。 | ||
- | == ''移民の所得水準について'' == | + | |
+ | == 移民の所得水準について == | ||
社会において、ある程度の社会水準を維持していくためには当然職に就くことが大前提である。しかし移民にとって職を見つけることは困難である。その理由として、ニュージーランドにおける仕事と経験不足、職場におけるコミュニケーションに必要不可欠な英語能力の問題が挙げられる。つまり、就職には高い英語能力が求められていると言える。ニュージーランド労働局(2009)の調査では、英語を最も話せる移民の割合を出生地別で見ると、英国・アイルランド、北アメリカ、南アフリカが高く、一方北アジア、太平洋島国系が低いことが分かった。また、英語を不得意とする割合は後者が多く占めている。このように、英語を第一言語として流暢に使いこなすことのできる英国などからの移民は比較的所得が多く、高い英語能力を有する割合が比較的小さいアジア系などの所得は低い傾向にある。すなわち、言語と所得には少なからず関係性があると考えられるであろう。言い換えれば、英語能力に欠ける移民は、マイナスとして格差の影響を受ける可能性があるということになる。 | 社会において、ある程度の社会水準を維持していくためには当然職に就くことが大前提である。しかし移民にとって職を見つけることは困難である。その理由として、ニュージーランドにおける仕事と経験不足、職場におけるコミュニケーションに必要不可欠な英語能力の問題が挙げられる。つまり、就職には高い英語能力が求められていると言える。ニュージーランド労働局(2009)の調査では、英語を最も話せる移民の割合を出生地別で見ると、英国・アイルランド、北アメリカ、南アフリカが高く、一方北アジア、太平洋島国系が低いことが分かった。また、英語を不得意とする割合は後者が多く占めている。このように、英語を第一言語として流暢に使いこなすことのできる英国などからの移民は比較的所得が多く、高い英語能力を有する割合が比較的小さいアジア系などの所得は低い傾向にある。すなわち、言語と所得には少なからず関係性があると考えられるであろう。言い換えれば、英語能力に欠ける移民は、マイナスとして格差の影響を受ける可能性があるということになる。 | ||
- | == ''ニュージーランドにおける言語と格差の課題'' == | + | == ニュージーランドにおける言語と格差の課題== |
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以上のことから、経済的格差という視点から見ると、言語は一人の人間性が生きる上での人権問題に関わることが分かる。言語は経済性や効率性のみで捉えられるものであってはならない。場合によっては、個人が自らとは根本的に異なる言語・文化を取り入れることで、その人の思考様式、価値観及びアイデンティティを揺るがすことも十分にあり得る。これは教育にも負の影響を及ぼし、学業不振や進学率低下、更には失業率上昇や所得格差をも引き起こす。したがって、今後のニュージーランドの格差問題については、言語の視点からの考察が極めて重要である。ニュージーランド国民の全体且つ継続的な英語能力の向上を目指す「言語の一元化」か、あるいは非英語母語話者数の増加を起因とする「言語の多元化」かの予測は少々困難である。しかし言語は教育、雇用にも関連する問題であり、格差が生じた場合、健康、犯罪等の重大な社会問題にも発展しかねないという認識が、ニュージーランド全体に持たれることが必要となってくる。人権としての言語圏の尊重が、ニュージーランドにとっての課題と言えるであろう。 | 以上のことから、経済的格差という視点から見ると、言語は一人の人間性が生きる上での人権問題に関わることが分かる。言語は経済性や効率性のみで捉えられるものであってはならない。場合によっては、個人が自らとは根本的に異なる言語・文化を取り入れることで、その人の思考様式、価値観及びアイデンティティを揺るがすことも十分にあり得る。これは教育にも負の影響を及ぼし、学業不振や進学率低下、更には失業率上昇や所得格差をも引き起こす。したがって、今後のニュージーランドの格差問題については、言語の視点からの考察が極めて重要である。ニュージーランド国民の全体且つ継続的な英語能力の向上を目指す「言語の一元化」か、あるいは非英語母語話者数の増加を起因とする「言語の多元化」かの予測は少々困難である。しかし言語は教育、雇用にも関連する問題であり、格差が生じた場合、健康、犯罪等の重大な社会問題にも発展しかねないという認識が、ニュージーランド全体に持たれることが必要となってくる。人権としての言語圏の尊重が、ニュージーランドにとっての課題と言えるであろう。 | ||
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+ | == 参考文献== | ||
『言語と貧困』松原好次 山本忠行 2012 明石書店 | 『言語と貧困』松原好次 山本忠行 2012 明石書店 | ||
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目次 |
世界の言語問題
世界各地には、土地を収奪された挙句、民族固有の文化や言語も奪われ、様々なものとの関係性を断ち切られ貧困化していった先住民たちがいる。生活の基盤である土地を奪われ貧困化していった先住民たちが次に直面したのが、固有の文化・言語に対する優勢民族からの蔑視である。先住民言語を貶める法規定によって、先住民に対する差別が固定化していった点は、とりわけ着目するべきことである。また、支配的民族からの抑圧を受ける形で、自らの言語を捨て去ろうとする動きが生じた点も見逃せない。
ニュージーランドの人口と言語について
ニュージーランドの公用語は、英語、マオリ語、ニュージーランド手話である。マオリ語は1987年のマオリ語法により、ニュージーランドの公用語として認められた。ニュージーランドは、大きくヨーロッパ系67.6%、マオリ系14.6%、アジア系9.2%、太平洋島国系6.9%という民族別人口構成となっている。ちなみに、ニュージーランドではパケハ(非マオリつまりヨーロッパ系の白人)の割合が多く、次いでこの国の先住民であるマオリが多い。 ニュージーランド人が話す言語に着目すると、人口の約95.9%が英語を話し、次いで4.1%がマオリ語を話している。現在では、行政やビジネス、教育現場など様々な場面で、英語がニュージーランド社会の優勢言語であることは言うまでもない。しかし、英語を話せない者は2.2%いる。
マオリ社会とマオリ言語について
マオリは、19世紀前半からのパケハの人口増大と、マオリ土地戦争やイギリスが持ち込んだ病気によるマオリ人口の激減により、当時優勢であったマオリ語は英語に取って代わられ、マイノリティ言語となってしまった。マオリ語の衰退には、大きく「教育」と「都市化」が関わっていると考えられる。まず、教育の側面に着目すると、1867年の原住民学校法で教育言語は英語であるとされ、徐々に学校でのマオリ語使用は禁止されていった。この原住民学校は100年近くにわたり同化政策を担う存在として存続したが、マオリたちへの影響は大きく、マオリ語の話者は減少し続けた。もう一つの要因としての都市化とは、第二次世界大戦後に見られるようになったマオリの都市への大流失を指す。よりよい生活を求め都市へ移動するマオリの数は増加したが、パケハが中心となっていた都市における西洋文化にマオリが適応することは容易ではなかった。就業においてもマオリは低賃金労働者が多く、パケハとの間に収入や生活レベルの格差がもたらされていた。そこで、マオリとパケハとの格差是正のため、1960年、更なる同化政策として英語教育を勧告するハン報告書が発表された。パケハ中心の生活にマオリが溶け込むには英語能力の養成が不可欠であるとされ、マオリが第一言語をマオリ語から英語にしていくことが政策的に示されたといえる。
移民の所得水準について
社会において、ある程度の社会水準を維持していくためには当然職に就くことが大前提である。しかし移民にとって職を見つけることは困難である。その理由として、ニュージーランドにおける仕事と経験不足、職場におけるコミュニケーションに必要不可欠な英語能力の問題が挙げられる。つまり、就職には高い英語能力が求められていると言える。ニュージーランド労働局(2009)の調査では、英語を最も話せる移民の割合を出生地別で見ると、英国・アイルランド、北アメリカ、南アフリカが高く、一方北アジア、太平洋島国系が低いことが分かった。また、英語を不得意とする割合は後者が多く占めている。このように、英語を第一言語として流暢に使いこなすことのできる英国などからの移民は比較的所得が多く、高い英語能力を有する割合が比較的小さいアジア系などの所得は低い傾向にある。すなわち、言語と所得には少なからず関係性があると考えられるであろう。言い換えれば、英語能力に欠ける移民は、マイナスとして格差の影響を受ける可能性があるということになる。
ニュージーランドにおける言語と格差の課題
以上のことから、経済的格差という視点から見ると、言語は一人の人間性が生きる上での人権問題に関わることが分かる。言語は経済性や効率性のみで捉えられるものであってはならない。場合によっては、個人が自らとは根本的に異なる言語・文化を取り入れることで、その人の思考様式、価値観及びアイデンティティを揺るがすことも十分にあり得る。これは教育にも負の影響を及ぼし、学業不振や進学率低下、更には失業率上昇や所得格差をも引き起こす。したがって、今後のニュージーランドの格差問題については、言語の視点からの考察が極めて重要である。ニュージーランド国民の全体且つ継続的な英語能力の向上を目指す「言語の一元化」か、あるいは非英語母語話者数の増加を起因とする「言語の多元化」かの予測は少々困難である。しかし言語は教育、雇用にも関連する問題であり、格差が生じた場合、健康、犯罪等の重大な社会問題にも発展しかねないという認識が、ニュージーランド全体に持たれることが必要となってくる。人権としての言語圏の尊重が、ニュージーランドにとっての課題と言えるであろう。
参考文献
『言語と貧困』松原好次 山本忠行 2012 明石書店
falcon.