飢餓
出典: Jinkawiki
2009年5月28日 (木) 14:01の版 Bunkyo-student2008 (ノート | 投稿記録) ← 前の差分へ |
最新版 Bunkyo-student2008 (ノート | 投稿記録) |
||
1 行 | 1 行 | ||
+ | == 飢餓とは == | ||
+ | FAO(国連食糧農業機関)は、'''飢餓'''を「生きるための最小エネルギーである基礎代謝量の1.2~1.4倍以下のエネルギーしか摂取できない状態」と定義している。1.2倍以下の人口は3.5億人、1.4倍以下は実に5億人にもなり、世界人口の約10人に1人になる。また、飢餓とは、食糧の不足によって栄養失調が続き、体調の維持が困難になっている状態である。栄養失調の状態を経て、それが原因で死んだ場合、餓死といわれる。飢饉の際には地域全体が飢餓状態となる。 | ||
- | == 飢餓 == | ||
- | FAO(国連食糧農業機関)は、飢餓を「生きるための最小エネルギーである基礎代謝量の1.2~1.4倍以下のエネルギーしか摂取できない状態」と定義している。また、飢餓とは、食糧の不足によって栄養失調が続き、体調の維持が困難になっている状態である。栄養失調の状態を経て、それが原因で死んだ場合、餓死といわれる。飢饉の際には地域全体が飢餓状態となる。 | ||
+ | == 飢餓の現状 == | ||
+ | 8億5400万人が飢餓に苦しんでいる。これは世界人口の17%にあたり、人数は年々増え続けている。衝撃的なことに、世界中にはすべての人が食べるために必要な量の2倍にも達している。従って、私たちには全ての人々が十分に食べ物を得られるようにする必要がある。しかし、すべての人々が食べ物にアクセスできているわけではなく、自分自身や家族の生活を維持するために必要な資源を得られていない人たちも多くいる。 | ||
+ | |||
+ | その結果、 | ||
+ | ①5秒に1人の子どもが飢餓に関係する原因で命を落としている | ||
+ | ②開発途上国の5人に1人は、慢性的な栄養不足 | ||
+ | ③慢性的な飢餓は、災害、疾病、戦争よりも多くの人々の命を奪っている | ||
+ | |||
+ | 世界のリーダーたちは、2000年の国連ミレニアムサミットにおいて、「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる」ことを約束した。約束の達成期限まで、残り半分しかない。しかし、飢餓人口減少のスピードは、過去20年間と比べて遅くなってきている。また、最近の傾向は特に気がかりだ。1990年代中盤には2600万人が減少したが、2003年には2300万人の増加が続く。世界の飢餓は解決には程遠く、状態はむしろ悪くなっている。 | ||
+ | |||
+ | |||
+ | |||
+ | == 飢餓の原因 == | ||
+ | 世界中で人々が飢餓に苦しみ続けていることには、多くの理由がある。まず、農村地域では土地、水、農薬、農作物の種子へのアクセスが十分にないこと。加えて、土地の強奪や民営化、女性を無視した不正な相続の習慣が飢餓をさらに悪化している。現在、世界の飢餓人口の70%は農村地域に住んでいる。同様に、不公正な貿易のルール、農業補助金やダンピングが地域の農業を弱らせ、食料安全保障を徐々に蝕んでいる。また、各国政府はすべての人が持つ健康に生きるために「食べる」という権利を保証し、実現するという責任を果たす術を持っていない。加えて、食料や原油価格の高騰、気候変動、バイオ燃料の推進、投機マネーなどの影響が飢餓をさらに深刻なものとしている。 | ||
== 飢餓人口 == | == 飢餓人口 == | ||
- | 地球上で栄養不良・飢餓にもとづく死亡数は、他のいかなる原因による死亡数より多い。 | + | 地球上で栄養不良・飢餓にもとづく死亡数は、他のいかなる原因による死亡数より多い。世界で飢えによる死者は年間1500万人もいる。飢餓が最も多いのは南アジアで、最も深刻なのはアフリカである。飢餓が最も問題になるのは乳幼児と妊婦・授乳婦である。南アジアでは子どもの2人に1人、アフリカでは3人に1人が飢餓である。栄養不足による妊産婦の死亡率も高い。飢餓に陥った子どもは、死を免れても免疫能の低下により感染症にかかりやすく、また意欲や好奇心が低下し、遊びや仕事への欲求や探究心が低く、知的発達も遅れる。このようなことから、飢餓は、社会的・経済的負担を高め、その結果として地域の開発を遅らせている。経済状況の悪化は栄養不良を招くであろうが、栄養不良もまた経済の悪化を招く。 |
+ | |||
+ | |||
+ | |||
+ | == わが国の飢餓時代 == | ||
+ | 明治から第二次世界大戦前の食生活は、米・いも・麦などに依存するきわめて貧困な食生活であった。砂糖・食用油・果物・肉・牛乳・卵・魚介類などが一時増加しつつあったが、昭和初期には世界経済恐慌の影響を受け、さらに第二次世界大戦前の軍事経済優先政策により、食糧事情は悪化し国民の食生活は質的に急速に低下していった。 | ||
+ | 第二次世界大戦の終結直後は、食糧生産の低下や外地からの引き揚げ等による人口増により、全国的に飢餓と栄養失調が蔓延し、きわめて深刻な食糧不足になった。緊急食糧対策の資料とするため、また国民の栄養向上を目指して、1945年12月に、連合軍最高司令官から日本政府への指示により、東京都内35区で栄養調査が実施された。この結果、配給によるエネルギー供給は1230キロカロリーで必要量の半分程度しかなかった。これにより1947年1月から、貧困児童や虚弱児童だけでなく全児童を対象として学校給食が実施されるようになった。翌1948年には、全国的な規模で国民栄養調査が実施されるようになり、調査結果は連合軍司令部にも報告され、援助食糧補給の資料とされた。1949年ころには、食糧事情もしだいに好転してきた。 | ||
+ | |||
+ | |||
+ | |||
+ | == 食料問題 == | ||
+ | 食糧問題のもっとも深刻な事態は、言うまでもなく、飢餓である。開発途上国のうちには、飢餓のために生命線上を彷徨し緊急の食料援助を求めている人々の数もけっして少なくはない。1990年のFAO理事会は、「飢饉・慢性的飢餓・栄養不足」に直面している人口を約四千五百万人と推定した。また、エチオピア、スーダン、ソマリア、他11のアフリカ諸国、バングラディシュ、アフガニスタン、カンボジア他アジア8カ国、ラテン・アメリカのペルー、ニカラグア、ハイチ、合計22の国が緊急食料援助を必要としていることが明らかにされている。 | ||
+ | 食料問題については、一国の内部での格差が非常に重要であることを忘れてはならない。食糧不足の被害をもっとも強く受けるのは、常に社会の弱者である。国際食料政策研究所の推定によれば、世界の飢餓人口の80~90%は農村の貧困層である。その中でもとりわけ、女性や子どもは最大の被害者となっている。厳しい食糧不足のもとでは、家族のなかでの分配すら問題なのである。 | ||
最新版
目次 |
飢餓とは
FAO(国連食糧農業機関)は、飢餓を「生きるための最小エネルギーである基礎代謝量の1.2~1.4倍以下のエネルギーしか摂取できない状態」と定義している。1.2倍以下の人口は3.5億人、1.4倍以下は実に5億人にもなり、世界人口の約10人に1人になる。また、飢餓とは、食糧の不足によって栄養失調が続き、体調の維持が困難になっている状態である。栄養失調の状態を経て、それが原因で死んだ場合、餓死といわれる。飢饉の際には地域全体が飢餓状態となる。
飢餓の現状
8億5400万人が飢餓に苦しんでいる。これは世界人口の17%にあたり、人数は年々増え続けている。衝撃的なことに、世界中にはすべての人が食べるために必要な量の2倍にも達している。従って、私たちには全ての人々が十分に食べ物を得られるようにする必要がある。しかし、すべての人々が食べ物にアクセスできているわけではなく、自分自身や家族の生活を維持するために必要な資源を得られていない人たちも多くいる。
その結果、 ①5秒に1人の子どもが飢餓に関係する原因で命を落としている ②開発途上国の5人に1人は、慢性的な栄養不足 ③慢性的な飢餓は、災害、疾病、戦争よりも多くの人々の命を奪っている
世界のリーダーたちは、2000年の国連ミレニアムサミットにおいて、「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる」ことを約束した。約束の達成期限まで、残り半分しかない。しかし、飢餓人口減少のスピードは、過去20年間と比べて遅くなってきている。また、最近の傾向は特に気がかりだ。1990年代中盤には2600万人が減少したが、2003年には2300万人の増加が続く。世界の飢餓は解決には程遠く、状態はむしろ悪くなっている。
飢餓の原因
世界中で人々が飢餓に苦しみ続けていることには、多くの理由がある。まず、農村地域では土地、水、農薬、農作物の種子へのアクセスが十分にないこと。加えて、土地の強奪や民営化、女性を無視した不正な相続の習慣が飢餓をさらに悪化している。現在、世界の飢餓人口の70%は農村地域に住んでいる。同様に、不公正な貿易のルール、農業補助金やダンピングが地域の農業を弱らせ、食料安全保障を徐々に蝕んでいる。また、各国政府はすべての人が持つ健康に生きるために「食べる」という権利を保証し、実現するという責任を果たす術を持っていない。加えて、食料や原油価格の高騰、気候変動、バイオ燃料の推進、投機マネーなどの影響が飢餓をさらに深刻なものとしている。
飢餓人口
地球上で栄養不良・飢餓にもとづく死亡数は、他のいかなる原因による死亡数より多い。世界で飢えによる死者は年間1500万人もいる。飢餓が最も多いのは南アジアで、最も深刻なのはアフリカである。飢餓が最も問題になるのは乳幼児と妊婦・授乳婦である。南アジアでは子どもの2人に1人、アフリカでは3人に1人が飢餓である。栄養不足による妊産婦の死亡率も高い。飢餓に陥った子どもは、死を免れても免疫能の低下により感染症にかかりやすく、また意欲や好奇心が低下し、遊びや仕事への欲求や探究心が低く、知的発達も遅れる。このようなことから、飢餓は、社会的・経済的負担を高め、その結果として地域の開発を遅らせている。経済状況の悪化は栄養不良を招くであろうが、栄養不良もまた経済の悪化を招く。
わが国の飢餓時代
明治から第二次世界大戦前の食生活は、米・いも・麦などに依存するきわめて貧困な食生活であった。砂糖・食用油・果物・肉・牛乳・卵・魚介類などが一時増加しつつあったが、昭和初期には世界経済恐慌の影響を受け、さらに第二次世界大戦前の軍事経済優先政策により、食糧事情は悪化し国民の食生活は質的に急速に低下していった。 第二次世界大戦の終結直後は、食糧生産の低下や外地からの引き揚げ等による人口増により、全国的に飢餓と栄養失調が蔓延し、きわめて深刻な食糧不足になった。緊急食糧対策の資料とするため、また国民の栄養向上を目指して、1945年12月に、連合軍最高司令官から日本政府への指示により、東京都内35区で栄養調査が実施された。この結果、配給によるエネルギー供給は1230キロカロリーで必要量の半分程度しかなかった。これにより1947年1月から、貧困児童や虚弱児童だけでなく全児童を対象として学校給食が実施されるようになった。翌1948年には、全国的な規模で国民栄養調査が実施されるようになり、調査結果は連合軍司令部にも報告され、援助食糧補給の資料とされた。1949年ころには、食糧事情もしだいに好転してきた。
食料問題
食糧問題のもっとも深刻な事態は、言うまでもなく、飢餓である。開発途上国のうちには、飢餓のために生命線上を彷徨し緊急の食料援助を求めている人々の数もけっして少なくはない。1990年のFAO理事会は、「飢饉・慢性的飢餓・栄養不足」に直面している人口を約四千五百万人と推定した。また、エチオピア、スーダン、ソマリア、他11のアフリカ諸国、バングラディシュ、アフガニスタン、カンボジア他アジア8カ国、ラテン・アメリカのペルー、ニカラグア、ハイチ、合計22の国が緊急食料援助を必要としていることが明らかにされている。 食料問題については、一国の内部での格差が非常に重要であることを忘れてはならない。食糧不足の被害をもっとも強く受けるのは、常に社会の弱者である。国際食料政策研究所の推定によれば、世界の飢餓人口の80~90%は農村の貧困層である。その中でもとりわけ、女性や子どもは最大の被害者となっている。厳しい食糧不足のもとでは、家族のなかでの分配すら問題なのである。
≪参考文献≫
- 飢餓 丸井英二編 ドメス社
- 飢餓と難民 犬養道子著 岩波書店
- 「飢餓」と「飽食」 野間佐和子著 講談社