社会保障
出典: Jinkawiki
2012年2月10日 (金) 15:15の版 Daijiten2009 (ノート | 投稿記録) ← 前の差分へ |
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社会保障とは、疫病・負傷・出産・老齢・死亡・業務災害・失業・多子・貧困などの場合に、個人に代わって国家が一定の保障を行うことを通し、国民生活を安定させることを目的とする国家政策である。保障の種類や水準、実施方法などは国によって異なる。
世界における社会保障制度
1.歴史
・エリザベス救貧法(イギリス、1601年)
救貧法とは、困窮者の生活を救済するために制定された法である。この考え方をはじめて体系的に確立したのがエリザベス救貧法であり、貧困は個人の責任とする立場に立って、労働能力のある貧困者は作業所に収容して強制的に労働させ、労働能力のない貧困者を救済するというものであった。
・疾病保険法(ドイツ、1883)
ビスマルクによって制定された世界最初の社会保険である。この法が制定された背景には、失業による貧困が増大すると、貧困は個人の責任ではなく社会の責任であるとして、労働者が相互扶助の組合をつくり、労働運動を起こすようになったことがある。これに対してビスマルクは、労働運動を弾圧(ムチ)する一方で、懐柔策として疫病保険などの社会保険(アメ)をはじめた(アメとムチの政策)。後に制定された労働者災害保険法(1884)、老齢・廃疾保険法(1889)と合わせて、ビスマルクの社会政策3部作といわれている。
・社会保障法(アメリカ、1935)
1933年、アメリカのローズヴェルト大統領は、大恐慌を克服するために経済保障委員会を組織し、対策を検討させ、その答申に基づいて経済者開放が立案され、老齢年金や失業保険などが実現した。後に、議会においてこの法を社会保障法と呼ぶべきだとし、世界ではじめて「社会保障」という言葉が使われた。
・ベバリッジ報告(イギリス、1942)
社会保険のあり方を検討するために設けられた社会保障制度改革委員会の委員長ベバリッジは、「社会保険および関連制度」という報告書を作成した。これに基づき政府は、戦後、「ゆりかごから墓場まで」をスローガンにした社会保障制度を確立した。これまでの社会保障は貧困者救済や労働者対策の社会保険のみであったが、ベバリッジ報告書では、社会保険(強制保険料を拠出)、国民扶助(無拠出)、任意保険の3つの方法を組み合わせて行われるべきだとし、国民すべてを対象とした権利として社会保障を確立した。
2.各国の社会保障制度
・イギリス
ベバレッジ報告に基づき、戦後の労働党政権のもと、家族手当法(1945年)、国民保険法(1946年)、国民保健サービス法(1946年)などが実施された。後に、サッチャー政権により大幅に見直しが行われた。
・北欧諸国
1960年代以降、社会保障制度が急速に整えられた。国により多少異なるが、老齢保障、医療保障、母子・児童福祉、障害者福祉などは共通に発達している。社会保障費の国家予算に占める割合が高く、高福祉・高負担が特色である。
・ドイツ
世界で初めて社会保険を実施した国であり、社会保険を中核としている。
・フランス
保険制度を中心に、伝統的に家族手当を重視している。
・アメリカ
個人主義思想と民間保険が発達しているため、公的な社会保障制度はあまり整っていない。
日本における社会保障制度
1.歴史
大日本帝国憲法下では、権利としての社会保障という考え方はなく、恩恵的性格が濃厚だった。
・恤救規則(1874年)
労働能力のない者(老齢・重病・13歳以下)にコメ代を給付するという貧民救済のための法律。
・救護法(1929年)
恤救規則に代わって制定され、1932年に実施された救貧法。
これらの他にも、健康保険法(1922年)、国民健康保険法(1938年)などが制定されたが、軍事色が強かったり、恤救規則の延長でしかなかった。
そして、戦後に憲法第25条「生存権」が規定され、権利としての社会保障が確立した。社会保険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生の4つの施策が行われるようになり、日本の社会保障制度は急速に拡充された。
2.社会保障制度の内容
日本の社会保障制度には、①社会保険②年金保険③公的扶助(生活保護)④公衆衛生の4つの部門がある。
①社会保険
疫病・負傷・出産・老齢・障害・失業・死亡などが原因で仕事の機会を失ったり、労働能力を喪失または減少させたりしたとき、加入者と国の拠出保険料を基金として一定の給付を行う制度。
・健康(医療)保険
疫病・負傷・分娩などに必要な医療や経済的な損失に対して、費用の給付を行う。日本では、1961年に国民がいずれかの医療保険に加入する国民皆保険が実現した。国民健康保険、健康保険、船員保険、各種共済組合などがある。国民健康保険と健康保険の保険給付は本人・家族7割となっている。
・年金保険
老齢・障害・死亡などで失った所得を保障し、生活安定や福祉向上を目的とする社会保障。日本では、1961年に国民がいずれかの年金に加入する国民皆年金が実現した。また、現役時代に老後に向けて積み立てておく積み立て方式と、現役世代がそのときの高齢者の年金を負担する賦課方式の中間である修正積み立て方式をとっている。国民年金、厚生年金保険、各種共済組合がある。
・介護保険
介護が必要になった国民に対して、在宅(居宅)や施設で介護サービスを提供する新しい社会保険制度。介護保険法が1997年に制定され、2000年から実施された。主な内容は、①市町村・特別区を運営主体としている②65歳以上を中心に40歳以上を対象に含む③介護費用1割を利用者負担とし、残りを公費・保険料で半分ずつ負担する④要介護認定は介護認定機関が行うなどである。2005年、介護保険法が大幅に改正され、介護予防サービスなどが新設された。
・雇用保険
失業したときに一定期間保険金を受けることができる。
・労働者災害補償保険
雇用されている者が全額会社負担で加入し、業務による傷病のときに保険金が支給される。
②公的扶助(生活保護)
社会保険の対象とならない生活困窮者などの最低限の生活を確保することを目指し、国家が生活を援助する制度である。生活保護法に基づき、所得保障として現金給付を行う生活扶助・住宅扶助・教育扶助・葬祭扶助・生業扶助・出産扶助と、医療現物サービス給付としての医療扶助・介護扶助とがある。
③社会福祉
貧困者や障害者・児童・高齢者など、援護育成を必要とする社会的弱者が自立し、その能力を発揮できるように、国・地方公共団体などが行う諸活動のことである。日本の社会福祉事業は、児童福祉法(1947年)・母子及び寡婦福祉法(1964年)・老人福祉法(1963年)・老人福祉法(1949年)・身体障害者福祉法(1949年)・知的障害者福祉法(1960年)などの法律に基づいて行われている。
④公衆衛生
疫病を防ぎ、広く国民の健康の保持・増進をはかるために営まれる活動のことである。国や地方公共団体が、国民の健康を守るために保健所を中心に伝染病予防対策などを行う公衆衛生と、生活環境の整備や公害対策・自然保護を行う環境衛生がある。
3.問題点
社会保険制度は、すべての部門があり、一応整ってはいるが、社会の変化に対応できていない部門がある(たとえば、少子高齢化による若年層の負担率増加など)。 医療保険の問題点としては、高齢化に伴う国民医療費が増加しているが、対応しきれていないというのがある。 介護保険の問題点としては、①低所得者にとっては1割の介護費用負担が大きく、実際に介護保険を利用する人はまだまだ少ない②在宅介護は家族の負担が大きいため、施設入所を希望する人が多いが、施設数が不足している③要介護認定にばらつきがあることなどがある。 公的扶助(生活保護)の問題点としては、高齢化や所得格差の広がりから生活保護受給世帯が急増しているため、保障額が増加しているというのがある。 社会福祉の問題点としては、都道府県や市などには社会福祉全般を所管する専門機関として福祉事務所があるが、業務内容の複雑化に対応した機構改善がなされず、専門職員としての社会福祉主事などの不足などがある。
参考・引用文献
浜島書店編集部(編著)2005最新図説 現社 浜島書店
用語集「現代社会」編集委員会(編) 2008 用語集「現代社会+政治・経済」清水書院