ノンフォーマル教育

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-'''ノンフォーマル教育'''とは、学校教育(フォーマルエデュケーション)の枠組みの外で、特定の集団に対して一定の様式の学習を用意する、組織化され、体系化された(この点でインフォーマルエデュケーションと区別される)教育活動を指す。+'''ノンフォーマル教育'''とは、フォーマル教育は、制度化された学校教育制度内での教育活動のことを指す。また、インフォーマル学習は、日常の経験などに基づく、組織的ではない学習過程全般である。これに対し、ノンフォーマル教育とは、正規の学校教育の枠外で、ある目的をもって組織的に行われる教育活動のことで、充分な教育を受けていない子どもや成人を対象としている。
-:ノンフォーマル教育という語が注目されたのはP.H.クームスによる“World Educational Crisis”(1968年)においてであった。クームスは、いかなる場所で、いかなる方法で学ばれるか、またそれが学校教育のなかに見いだされるか否かにかかわらず、教育を学習と同義ととらえるとしたうえで、教育をフォーマル、ノンフォーマル、インフォーマルの3つの様式に分類した。ノンフォーマルエデュケーション自体は1960年代に出現したものではなく、この形態の教育はむしろ学校教育よりも歴史は古い。現代においてこの語が持つ意味は、教育=学校という考えが一般的となっている状態で、学校教育の限界性を認識し、学校以外の組織的教育の重要性を指摘していることである。ただし、1960年代には、学校教育が十分に普及していなかったアジア、アフリカ、ラテン・アメリカ諸国で、農村開発に貢献するための、あるいは貧困層の基本的要求に対応する教育戦略として構想された。+ 
 +:ノンフォーマル教育(NFE)という語が注目されたのはP.H.クームスによる“World Educational Crisis”(1968年)においてであった。クームスは、いかなる場所で、いかなる方法で学ばれるか、またそれが学校教育のなかに見いだされるか否かにかかわらず、教育を学習と同義ととらえるとしたうえで、教育をフォーマル、ノンフォーマル、インフォーマルの3つの様式に分類した。ノンフォーマルエデュケーションそのものは1960年代に出現したものではなく、この教育形態は学校教育よりも歴史は古い。現代においてのNFEの意味は、教育=学校という考えが一般的となっている状態で、学校教育の限界性を認識し、学校以外の組織的教育の重要性を指摘していることである。ただし、1960年代には、学校教育が十分に普及していなかったアジア、アフリカ、ラテン・アメリカ諸国で、農村開発に貢献するための、あるいは貧困層の基本的要求に対応する教育戦略として構想された。
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# '''組織''': フォーマルエデュケーションのように統一的な組織ではなく、学習者や地域の状況に対応して、多様で柔軟な組織が要求される。教育の領域に留まらず、社会・経済的諸活動と統合されるという見地から、農業、労働、福祉、保健・衛生などの他の領域との協力関係が重要である。 # '''組織''': フォーマルエデュケーションのように統一的な組織ではなく、学習者や地域の状況に対応して、多様で柔軟な組織が要求される。教育の領域に留まらず、社会・経済的諸活動と統合されるという見地から、農業、労働、福祉、保健・衛生などの他の領域との協力関係が重要である。
# '''経費''': 物的条件について、学校や地域開発センターなど既存の施設設備を活用することが可能である。人的条件に関しても、指導者としての資格要件は厳密ではなく、地域のさまざまな専門家を活用できる。また、パートタイムであることが多いため、職務時間外に学校の教師を利用することも可能である。コミュニティ開発計画と結びつく場合には、教育以外の財源から経費を引き出すこともできる。 # '''経費''': 物的条件について、学校や地域開発センターなど既存の施設設備を活用することが可能である。人的条件に関しても、指導者としての資格要件は厳密ではなく、地域のさまざまな専門家を活用できる。また、パートタイムであることが多いため、職務時間外に学校の教師を利用することも可能である。コミュニティ開発計画と結びつく場合には、教育以外の財源から経費を引き出すこともできる。
- このように、ノンフォーマルエデュケーションの特徴を整理したとしても、実際のプログラムは多種多様であり、その機能についても見解が分かれる。一つは、単に組織的教育機会提供の拡張に過ぎず、フォーマルエデュケーションの補完的機能を果たすのみであるとするものである。これに対し、ノンフォーマルエデュケーションの特質への着目が、フォーマルエデュケーションの柔軟化を促進し、両者を統合した新たな教育制度を構築することができるとする考えがある。+ このように、NFEの特徴を整理したとしても、実際のプログラムは多種多様であり、その機能についても見解が分かれる。一つは、単に組織的教育機会提供の拡張に過ぎず、フォーマルエデュケーションの補完的機能を果たすのみであるとするものである。これに対し、NFEの特質への着目が、フォーマルエデュケーションの柔軟化を促進し、両者を統合した新たな教育制度を構築することができるとする考えがある。
 + 
 +== 世界的な援助の潮流 ==
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 +NFE はその必要性が認識されていながらも、「投資の見返りが明確でない、評価・モニタリング機能が確立されていない」などの理由で、国際的援助の介入が昔も今も少ない分野である。しかし、「万人のための教育」目標を達成するためにもNFE の重要性を無視することはできない。NFE に対する援助は限定的ではあるものの、一定に継続されているのも事実である。例えば、1990 年代後半には、基礎教育の定義が学校教育に限られてしまったことで、多くの青少年、成人の基礎教育の機会が無視されていた。その反省から、近年中途退学児童のための基礎教育プログラムや成人基礎教育プログラム、さらにはコミュニティー・スクールの開設などにたいし盛んに支援が行われるようになったのである。2002年のカナナスキスサミットで採択された教育開発援助に関する提言には、就労児童の教育機会を保障するにはNFE アプローチが必要であると明記された。注目すべき点としては、NFE を生涯教育の一環として捉えるドナーが増えていることである。特に、総合的な農村開発プロジェクトではNFE を取り入れた援助が主流になりつつある。2003 年は「国連識字10年」の開始年であり、さまざまな国連機関・国際金融機関が識字・NFE 全般への支援に重点を置き始めている。
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 +== ノンフォーマル教育におけるJICA の取り組み事例 ==
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 +===ネパール「子どものためのコミュニティ主体型ノンフォーマル教育プロジェクト」(2004~2008 年)===
 +ネパール政府は、「万人のための教育」目標に従って、2015 年までに初等教育の完全就学と修了を達成することを目標にし、国家5カ年計画(2002-2007)においても初等教育の義務化を計画する。しかし現在、ネパールの初等教育の純就学率は約80%で就学できていない残りの約20%は、社会的、経済的、文化的な要素から就学がもっとも困難であるといわれている女子、低カースト、少数民族などの子どもたちであるといわれている。これらの子どもたちの置かれている状況を考慮すると、始から正規の学校教育への進学、編入を目指すのではなく、ノンフォーマル教育を経て正規システムに進む過程が有効であると考えられている。そのため、政府機関をはじめ様々な組織や機関が子ども向けのノンフォーマル教育プログラムやプロジェクトを実施しているが、成果は未だ十分にあがっているとはいえない状況である。このプロジェクトでは、政府機関のノンフォーマル教育センターと共同で、現地NGO やコミュニティと協力しながら、プログラムの効果をあげるためのパイロット活動を行なっている。
 +===活動の内容===
 +# 政府関係組織の体制整備や人材育成。
 +# 社会的に不利な立場にいる子どもたちの就学にはコミュニティの理解やサポートが必要であるため、コミュニティを主体とした教室運営の促進。
 +# 過去の有効な事例や経験をお互いに情報交換して利用し合い、効果的にプログラムを進めるための関係者間のネットワーク確立。
 +:このパイロット活動の結果から、政府の子供向けノンフォーマル教育プログラムはどのように行われるべきかというモデル作成を検討。将来的には、このモデルの普及によって、就学困難な子どもたちの正規学校教育へアクセスが改善されることを目指している。
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 +== 参考文献 ==
 + 
 +*P. H. Coombs & Manzoor Ahmed, Attacking Rural Poverty -How Nonformal Education Can Help, Johns Hopkins University Press, 1974 
 +*渋谷英章「低開発諸国におけるNonformal Educationの検討」日本生涯教育学会年報.第1号、ぎょうせい、1980年
 +*渋谷英章「インドにおけるNonformal Educationの論理構造」筑波大学教育学系論集、第7巻、1983年
 +*『生涯学習研究e事典』http://ejiten.javea.or.jp/content.php?c=TmpZeE1ERXk%3D

2009年1月30日 (金) 03:50の版

ノンフォーマル教育とは、フォーマル教育は、制度化された学校教育制度内での教育活動のことを指す。また、インフォーマル学習は、日常の経験などに基づく、組織的ではない学習過程全般である。これに対し、ノンフォーマル教育とは、正規の学校教育の枠外で、ある目的をもって組織的に行われる教育活動のことで、充分な教育を受けていない子どもや成人を対象としている。

ノンフォーマル教育(NFE)という語が注目されたのはP.H.クームスによる“World Educational Crisis”(1968年)においてであった。クームスは、いかなる場所で、いかなる方法で学ばれるか、またそれが学校教育のなかに見いだされるか否かにかかわらず、教育を学習と同義ととらえるとしたうえで、教育をフォーマル、ノンフォーマル、インフォーマルの3つの様式に分類した。ノンフォーマルエデュケーションそのものは1960年代に出現したものではなく、この教育形態は学校教育よりも歴史は古い。現代においてのNFEの意味は、教育=学校という考えが一般的となっている状態で、学校教育の限界性を認識し、学校以外の組織的教育の重要性を指摘していることである。ただし、1960年代には、学校教育が十分に普及していなかったアジア、アフリカ、ラテン・アメリカ諸国で、農村開発に貢献するための、あるいは貧困層の基本的要求に対応する教育戦略として構想された。


目次

概要

ノンフォーマル教育(NFE)とは「正規の学校教育以外に、ある目的をもって組織された教育活動」のことである。普通、対象となるのは現在学校教育を受けていない、または、過去に(十分な質の)教育が受けられなかった人々で、成人も子供も対象となる。NFE の最大の特徴は、その「教育・学習」内容・規模・対象者・実施方法などが多種多様であること。例えば教育内容には識字から職業訓練まであり、学習・教育方法もコミュニティの識字クラスから通信教育までとさまざまな領域にわたる。また、修了後の付与資格や実施機関等も一様ではない。それでも、大多数のNFE は基礎教育の核である識字能力(Literacy)と計算能力(Numeracy)の獲得と、実生活に根ざした、より実践的かつ有益なライフ・スキル(生活に必要な技能)の修得を中心に据えている。途上国の子どもを対象にしたNFE 活動の多くには、学校教育による基礎教育の普及を補完するという目的がある。一方、成人を対象にしたものでは、識字教育をはじめ、社会生活に必要な意志決定、問題解決、批判的思考、効果的なコミュニケーション等の能力、さらには簡単な職業訓練や衛生教育・環境教育・HIV/AIDS 教育など生活に必要なさまざまな知識や技術(ライフ・スキル)を伝えるために実施されている。さらには、学習内容に人権・平等・自由と責任・寛容と連帯といった概念の把握、民主化の方法論、住民参加の手法等の習得も含まれることがある。このようにNFE は教育分野のみならず、保健や環境など地域社会全体の開発課題に大きく貢献すると同時に、何らかの事情により就学断念や中退を余儀なくされた人々に基本的人権としての基礎教育の機会を提供するという重要な役割を担っているのである。

特質

【特質】

  1. 目的・対象: 社会のさまざまな集団の学習要求に応えることを目的とし、年齢、経済的状態、学歴など、参加する要件に厳しい制限はない。したがって、フォーマルエデュケーションの対象とならない者にも、広範に教育機会を提供することができる。
  2. 教育内容: 目的意識が明確な学習者の、学習要求、生活環境に対応して内容が編成される。学習者の生活で直ちに生かされる知識・技能が中心的内容となる。内容の系統性よりも、既存の学問領域にとらわれない問題解決型の構成でなければならない。
  3. 組織: フォーマルエデュケーションのように統一的な組織ではなく、学習者や地域の状況に対応して、多様で柔軟な組織が要求される。教育の領域に留まらず、社会・経済的諸活動と統合されるという見地から、農業、労働、福祉、保健・衛生などの他の領域との協力関係が重要である。
  4. 経費: 物的条件について、学校や地域開発センターなど既存の施設設備を活用することが可能である。人的条件に関しても、指導者としての資格要件は厳密ではなく、地域のさまざまな専門家を活用できる。また、パートタイムであることが多いため、職務時間外に学校の教師を利用することも可能である。コミュニティ開発計画と結びつく場合には、教育以外の財源から経費を引き出すこともできる。

 このように、NFEの特徴を整理したとしても、実際のプログラムは多種多様であり、その機能についても見解が分かれる。一つは、単に組織的教育機会提供の拡張に過ぎず、フォーマルエデュケーションの補完的機能を果たすのみであるとするものである。これに対し、NFEの特質への着目が、フォーマルエデュケーションの柔軟化を促進し、両者を統合した新たな教育制度を構築することができるとする考えがある。

世界的な援助の潮流

NFE はその必要性が認識されていながらも、「投資の見返りが明確でない、評価・モニタリング機能が確立されていない」などの理由で、国際的援助の介入が昔も今も少ない分野である。しかし、「万人のための教育」目標を達成するためにもNFE の重要性を無視することはできない。NFE に対する援助は限定的ではあるものの、一定に継続されているのも事実である。例えば、1990 年代後半には、基礎教育の定義が学校教育に限られてしまったことで、多くの青少年、成人の基礎教育の機会が無視されていた。その反省から、近年中途退学児童のための基礎教育プログラムや成人基礎教育プログラム、さらにはコミュニティー・スクールの開設などにたいし盛んに支援が行われるようになったのである。2002年のカナナスキスサミットで採択された教育開発援助に関する提言には、就労児童の教育機会を保障するにはNFE アプローチが必要であると明記された。注目すべき点としては、NFE を生涯教育の一環として捉えるドナーが増えていることである。特に、総合的な農村開発プロジェクトではNFE を取り入れた援助が主流になりつつある。2003 年は「国連識字10年」の開始年であり、さまざまな国連機関・国際金融機関が識字・NFE 全般への支援に重点を置き始めている。

ノンフォーマル教育におけるJICA の取り組み事例

ネパール「子どものためのコミュニティ主体型ノンフォーマル教育プロジェクト」(2004~2008 年)

ネパール政府は、「万人のための教育」目標に従って、2015 年までに初等教育の完全就学と修了を達成することを目標にし、国家5カ年計画(2002-2007)においても初等教育の義務化を計画する。しかし現在、ネパールの初等教育の純就学率は約80%で就学できていない残りの約20%は、社会的、経済的、文化的な要素から就学がもっとも困難であるといわれている女子、低カースト、少数民族などの子どもたちであるといわれている。これらの子どもたちの置かれている状況を考慮すると、始から正規の学校教育への進学、編入を目指すのではなく、ノンフォーマル教育を経て正規システムに進む過程が有効であると考えられている。そのため、政府機関をはじめ様々な組織や機関が子ども向けのノンフォーマル教育プログラムやプロジェクトを実施しているが、成果は未だ十分にあがっているとはいえない状況である。このプロジェクトでは、政府機関のノンフォーマル教育センターと共同で、現地NGO やコミュニティと協力しながら、プログラムの効果をあげるためのパイロット活動を行なっている。

活動の内容

  1. 政府関係組織の体制整備や人材育成。
  2. 社会的に不利な立場にいる子どもたちの就学にはコミュニティの理解やサポートが必要であるため、コミュニティを主体とした教室運営の促進。
  3. 過去の有効な事例や経験をお互いに情報交換して利用し合い、効果的にプログラムを進めるための関係者間のネットワーク確立。
このパイロット活動の結果から、政府の子供向けノンフォーマル教育プログラムはどのように行われるべきかというモデル作成を検討。将来的には、このモデルの普及によって、就学困難な子どもたちの正規学校教育へアクセスが改善されることを目指している。

参考文献

  • P. H. Coombs & Manzoor Ahmed, Attacking Rural Poverty -How Nonformal Education Can Help, Johns Hopkins University Press, 1974 
  • 渋谷英章「低開発諸国におけるNonformal Educationの検討」日本生涯教育学会年報.第1号、ぎょうせい、1980年
  • 渋谷英章「インドにおけるNonformal Educationの論理構造」筑波大学教育学系論集、第7巻、1983年
  • 『生涯学習研究e事典』http://ejiten.javea.or.jp/content.php?c=TmpZeE1ERXk%3D

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