ヘッドスタート

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-ヘッドスタート(Head Start)は、恵まれない未就学児童に早期学習環境を用意するとして、アメリカ政府支援のもとに創設されたプログラムである。詳しくはアメリカ合衆国の健康及び人的サービス省(Department for Health and Human Services、略称HHS)の行っているプログラムで、低所得者層の3歳から4歳の子供を対象としたものである。+ヘッドスタート(Head Start)は、恵まれない未就学児童に早期学習環境を用意するとして、アメリカ政府支援のもとに創設されたプログラムである。詳しくはアメリカ合衆国の健康及び人的サービス省(Department for Health and Human Services、略称HHS)の行っているプログラムで、低所得者層の子どもを対象としたものである。
「ヘッドスタート」という言葉自体は、スマートで円滑な滑り出し、順調な出発を意味するもので、アメリカでは長期にわたって継続されている国民的な就学援助のためのプログラムである。 「ヘッドスタート」という言葉自体は、スマートで円滑な滑り出し、順調な出発を意味するもので、アメリカでは長期にわたって継続されている国民的な就学援助のためのプログラムである。
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 +== 概要 ==
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 +ヘッドスタートの目的は、子どもたちに貧困という壁を越えて育つ機会を与えてやることである。また、このプログラムに登録されている子どもたちが、学校に入学して、そこでの学習活動にうまく適応できるように援助してやることである。教育の基準は、国民学力標準(national performance standard)に完全に一覧化されている。これは年月を重ねて、文字通り、質の高い就学前の教育プログラムの基準となってきた。具体的には、就学前に少なくともアルファベットが読めることや、10までの数が数えられることが挙げられる。ヘッドスタートの使命は、子どもたちに、「学ぶ用意をする」幼稚園の入園の準備をすることである。
 +2005年の下半期では、2,200万人の就学前の子どもたちが、ヘッドスタートに参加している。規模としては、2005年を例にとっていえば、6,800億ドルの予算が、905万人以上の子どもたちのために支出されている。子どもたちの内、57%が、4歳かもしくはそれ以上の年齢で、3%の子どもが、3歳かそれ以下である。サービスは、1,604のさまざまなプログラムにより提供され、ほとんどすべての州、すべての郡にまたがって48,000以上の教室で実施されている。平均して、1人の子どもに対して7,222ドルの政府支出がなされているといってよい。これは、連邦政府レベルの事業としては、宇宙開発に次ぐ予算規模である。 ほぼ211,000人に上る有給スタッフは、その6倍にも及ぶボランティアスタッフにより、かなりの人数が削減された。
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 +== 歴史 ==
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 +ヘッドスタートは、リンドン・ジョンソン大統領の「貧困との戦い」キャンペーンの一部として始められたものである。「偉大なる社会」教書の鍵ともなる一部として、「1964年経済機会法」(Economic Opportunity Act of 1964)が、社会的に不利益を蒙っている就学前の子どもたちのニーズに応えようとするプログラムのスタートに認可を与えた。児童発達の専門家グループが、連邦政府の要望に応えてこのプログラムを起草し、そしてこのプログラムが、いわゆるヘッドスタート計画と呼ばれるものになった。
 +
 +経済機会局(Office of Economic Opportunity)は、1965年ヘッドスタート計画をまず8週間の夏休みのプログラムとして開始した。この計画は、低所得者層の家庭の就学前の子どもたちに、その情緒的、社会的な、あるいは健康や栄養、そして心理学的なニーズに応えるようとするプログラムを提供することで、その貧困を埋め合わせしようとする目的に沿うものとして着想された。
 +
 +ヘッドスタートは、その後、1969年リチャード・ニクソン政権で、健康教育福祉省(後の、健康及び人的サービス省、HHS)の児童発達局(Office of Child Development)にその所管が移され、今日では、HHSの児童、青年、そして家庭に関係する行政機関において行われているプログラムである。プログラムは、地方レベルでは、NPOや地方の教育行政機関が、学校制度と同様に所轄、運営している。
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 +== プログラム内容 ==
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 +ヘッド・スタートでは施設保育、在宅保育、混合保育という3種の形態から選択できる。施設保育とは保育施設においてクラス単位で行われる保育、在宅保育とは子どもの家庭において家庭訪問員(home visitor)と親とで行われる保育、混合保育とは施設保育と在宅保育の混合を意味する。
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 +1 施設保育(center-based program)
 +
 +(1)全日制
 +
 +・クラスの大きさ=4∼5 歳…平均 17∼20人(ただし 20 人を超えないこと) 3 歳…平均 15∼17 人 (ただし 17 人を超えないこと)
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 +・職員の配置=1クラス当たり2人の保育者あるいは1人の保育者と1人の保育助手
 +
 +・運営時間=週に4∼5日、1日最低 3.5 時間∼最高6時間(ただし障害児や親が就労中または職業訓練中など、長時間の保育が望ましい場合には6時間以上も可)
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 +(2)半日制=午前と午後の入れ替え制
 +
 +・クラスの大きさ=4∼5 歳…平均 15∼17人(ただし 17 人を超えないこと) 3 歳…平均 13∼15 人(ただし 15 人を超えないこと)
 +
 +・職員の配置=1人の保育者が午前と午後のクラスを担当する。
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 +・運営時間=週に4日
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 +2 在宅保育(home-based program)
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 +① 少なくとも週に1回・最低1時間半の家庭訪問を、年間最低 32 回行うこと。
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 +② どの子どもも少なくとも月に2回、年間で最低 16 回の集団活動(group socialization activity)に参加すること。集団活動とは、在宅保育に参加する子どもたちが複数集まって一緒に活動をすることを意味する。
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 +③ 1人の家庭訪問員が担当するのは 10∼12家族とし、12家族を超えないこと。
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 +④ 家庭訪問は訓練を受けた家庭訪問員と親との合議の上で行い、親が不在の場合には行わない(ベビーシッター等の一時的に子どもの世話をする人がいても不可)
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 +⑤ 家庭訪問の目的は、親の育児方法を改善し、家庭が子どもにとってより良い学習環境となるよう援助することであり、家庭訪問員は親が子どもの発達に適した学習機会を提供できるように援助する。また保育施設のサービスなど、有用な情報を親に提供する。
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 +⑥ 集団活動は親と子ども双方を対象にしたもので、その目的は親と家庭訪問員の監督の下に保育施設・公共施設を利用したり遠足に行ったりして、子どもが仲間との年齢に応じた活動を通して社会性を身につけることにある。親は少なくとも月に2回子どもの集団活動に付き添って子どもを観察したり、ボランティアとして参加する他、親のためのプログラムにも参加する必要がある。
 +
 +3 混合保育(combination program)
 +
 +混合保育は前述の施設保育と在宅保育を組み合わせた形で利用する保育方法である。この混合保育は年に 8∼12 ヶ月の間行われるが、施設保育を最長期間利用する場合(施設保育を年間最低 92 日間利用し、年間 8 回の家庭訪問を受ける22)から施設保育を最短期間利用する場合(施設保育を年間最低 32∼35 日間利用し、年間 24 回の家庭訪問を受ける)まで、施設保育と在宅保育の組み合わせ型が細かく規定されている。なお、混合保育においても、保育施設におけるクラス単位の保育に関しては前述の施設保育の基準が、在宅保育に関しては前述の在宅保育の基準が適用される。
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 +== サービス ==
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 +○教育
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 +一人ひとりの子どもや地域のニーズに沿った教育で、人種的・文化的背景を重視する。子どもが多様な学習・体験をとおして知的・社会的・情緒的に発達できるよう援助する。
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 +○保健
 +
 +障害・病気等の早期発見・早期治療を重視し、全ての子どもが予防接種・歯科健診・精神衛生サービスを含む多様な医療サービスの対象となる。
 +健康は、子どもが育ち発達していく能力にとって重要な要素と考えられている。プログラムは、子どもの健康をあらゆる場面で評価するような診断の機会を与えている。
 +
 +○親の参加
 +
 +親自身が、親のための教育プログラムへ参加すること、企画委員会の委員としてさまざまなプログラムの企画・運営に直接的に携わることがヘッドスタートの非常に重要な内容となっている。子どもの発達に関する学習会やスタッフによる家庭訪問によって、親も家庭教育の重要性や方法などが学べるようになっている。
 +
 +○社会サービス
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 +家族の必要に応じて、社会資源の紹介・家族ニーズの評価・緊急援助・危機介入サービス等を行う。
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 +○障害
 +
 +このプログラムのすべてが、障害を持った子供たちにも提供されている。
 +
 +○その他
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 +・移民や季節労働者プログラム部門
 +
 +これは、国の枠を越えて子どもの健康な発達のために質の高いサービスを提供する。
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 +・アメリカインディアン、アラスカ原住民プログラム部門
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 +これは、アメリカインディアンやアラスカ原住民の子どもたちや家族に対して、その他の就学前の子どものレディネスについてのサービスと同様、健康ケア、教育的、栄養的支援と共に社会化の援助も行う。サービスは、元々は社会的不利益を蒙っている就学前の子どもたちや乳児、幼児を念頭において考えられたものである。
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 +== 評価と主な成果 ==
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 +ヘッドスタートの効果を確かめるために、プログラムを評価し、参加した子どもや家族の進歩を見極める必要がある。子どもの発達がうまくいくのは、幼児期の学習環境の質によることがわかっている。これはパトリック・ケネディー上院議員(民主党・ロードアイランド州選出)の提唱するFoundations for Early Learning Actの前提条件である。子どもたちに提供するサービスの基準を確立し、評価しなければならない。
 +
 +評価の内容としては、まず、クラス構成(例えば学生とスタッフの割合)、教師の能力、効果的な授業ができているかどうか、またカリキュラムの中身、プログラムが個々の子どもの学習や発達の違いを考慮しているものかなど、教室の構成要素である。
 +さらに、ヘッドスタートが提供するサービスの質が高く、教師はよく訓練され、適切な指導の下にあり、カリキュラムが発達や文化の面からみて適正なものであるか。
 +これらのサービスが子どもたちや家族の生活を変えているか否かを、細切れの情報を断片的に評価するのではなく、時間をかけ、いろいろな状況にわたって進歩を評価することによって確認しなければならない。経験に基づいた研究計画を用い、ヘッドスタートの子どもたちが複雑な状況下でも自分の感情をコントロールしながら仲間と上手くやっていけるか、またヘッドスタートの恩恵を受けなかった同様の被験対照群のグループと比べてより積極的な学習戦略を示せるかなど、進歩のしるしを評価しなければならない。
 +
 +また、ヘッドスタートが効果的であるかを見極めるために、政府は「Good Start, Grow Smart-良いスタートが賢い子どもを育てる」というプログラムを行っている。このプログラムは、未就学児童の読み書き、数的感覚、言語といった能力を高めること、そしてヘッドスタートを評価する全国児童結果報告システムによい影響を与えること、その結果アカウンタビリティーを果たすという目的がある。
 +
 +これらの評価により明らかになった政策の思いがけない結果として、学習の焦点が子どもに向かず、「学力テスト」の制度が生み出されたこと、テストの成績が悪いとプログラムを改善するのではなく終了する結果になりかねないこと、そしてテストの結果は、勉強をする適切な環境が整っていないなどの理由で最も年少で最も恵まれない子どもたちに不適切で不正確なレッテルを貼る可能性を含むことなどである。
 +したがって、これらの子どもたちの達成した事柄やその潜在的能力を育むことに喜びを見出すのではなく、子どもたちの役割を「プログラムのアカウンタビリティーのための情報源」としか考えなくなるといった事態を招いている。
 +テスト項目はヘッドスタートの効果を確かめるという目的に関しては、適切に意図されている。しかし、子どもの知識を数字や文字のテストによってのみ測るという限定的なアプローチは、ヘッドスタートの効果を確かめるのに十分ではない。
 +
 +ヘッドスタートの主たる目標は、「勉強そのものを教える」のではなく、「勉強の環境を整えるためのきっかけを与える」ということである。家族に手をさし伸べることや、子どもに感情を通じて社会とうまくやっていけるように奨励すること、家族とコミュニティーの関係を確立することなどが重要視される。
 +ヘッドスタートのサービスを受ける子どもたちはほぼ全員が、経済的破綻、母親のうつ、家庭内暴力、薬物乱用などの、幼児期の学習がうまくいかない主たる原因だと知られている複数の慢性的ストレスを経験している家庭の子どもたちであることを考えても、これらの要素は大切である。
 +ヘッドスタートの長期的な効果がいかなるものかについては、他にもさまざまな論議がある。
 +公式的な報告書では、少なくともこのプログラムは、環境的に学習機会に恵まれなかった子どもたちに早期の教育を通して、読む能力と数学的な能力を向上させ、就学の初期の段階でのスタートを円滑なものにしたという点では、充分な成果を挙げていると謳っている。ただ、それは子どもたちのクラスの教室の中での行動上の問題を助長したり、あるいは行動の自己抑制を緩めてしまったりといった事実も散見され、中にはこの就学時の学力支援の効果は、1年の春まででまもなく薄れてしまい、逆に、行動の抑制のなさという負の効果は、ずっと続いていくということを指摘する声もある。
 +
 +しかし、幼稚園以前のところでの社会的に不利益な境遇にある他の子どもたちの大多数と比較すれば、このプログラムの恩恵を受けることのできた子どもたちが、圧倒的に大きく長期に渡って効果の続く学力の支柱をここから獲得しているということは否めない。 ただ、民族性の問題もあり、白人、黒人、ヒスパニックの子供達を比較すると、同様に社会的に不利益な立場にある子どもの中では、白人の子供たちが、黒人の子供たちよりも、より大きく、より長期の教育的な効果を手に入れているといった研究もある。

2009年1月30日 (金) 08:40の版

ヘッドスタート(Head Start)は、恵まれない未就学児童に早期学習環境を用意するとして、アメリカ政府支援のもとに創設されたプログラムである。詳しくはアメリカ合衆国の健康及び人的サービス省(Department for Health and Human Services、略称HHS)の行っているプログラムで、低所得者層の子どもを対象としたものである。 「ヘッドスタート」という言葉自体は、スマートで円滑な滑り出し、順調な出発を意味するもので、アメリカでは長期にわたって継続されている国民的な就学援助のためのプログラムである。


目次

概要

ヘッドスタートの目的は、子どもたちに貧困という壁を越えて育つ機会を与えてやることである。また、このプログラムに登録されている子どもたちが、学校に入学して、そこでの学習活動にうまく適応できるように援助してやることである。教育の基準は、国民学力標準(national performance standard)に完全に一覧化されている。これは年月を重ねて、文字通り、質の高い就学前の教育プログラムの基準となってきた。具体的には、就学前に少なくともアルファベットが読めることや、10までの数が数えられることが挙げられる。ヘッドスタートの使命は、子どもたちに、「学ぶ用意をする」幼稚園の入園の準備をすることである。 2005年の下半期では、2,200万人の就学前の子どもたちが、ヘッドスタートに参加している。規模としては、2005年を例にとっていえば、6,800億ドルの予算が、905万人以上の子どもたちのために支出されている。子どもたちの内、57%が、4歳かもしくはそれ以上の年齢で、3%の子どもが、3歳かそれ以下である。サービスは、1,604のさまざまなプログラムにより提供され、ほとんどすべての州、すべての郡にまたがって48,000以上の教室で実施されている。平均して、1人の子どもに対して7,222ドルの政府支出がなされているといってよい。これは、連邦政府レベルの事業としては、宇宙開発に次ぐ予算規模である。 ほぼ211,000人に上る有給スタッフは、その6倍にも及ぶボランティアスタッフにより、かなりの人数が削減された。


歴史

ヘッドスタートは、リンドン・ジョンソン大統領の「貧困との戦い」キャンペーンの一部として始められたものである。「偉大なる社会」教書の鍵ともなる一部として、「1964年経済機会法」(Economic Opportunity Act of 1964)が、社会的に不利益を蒙っている就学前の子どもたちのニーズに応えようとするプログラムのスタートに認可を与えた。児童発達の専門家グループが、連邦政府の要望に応えてこのプログラムを起草し、そしてこのプログラムが、いわゆるヘッドスタート計画と呼ばれるものになった。

経済機会局(Office of Economic Opportunity)は、1965年ヘッドスタート計画をまず8週間の夏休みのプログラムとして開始した。この計画は、低所得者層の家庭の就学前の子どもたちに、その情緒的、社会的な、あるいは健康や栄養、そして心理学的なニーズに応えるようとするプログラムを提供することで、その貧困を埋め合わせしようとする目的に沿うものとして着想された。

ヘッドスタートは、その後、1969年リチャード・ニクソン政権で、健康教育福祉省(後の、健康及び人的サービス省、HHS)の児童発達局(Office of Child Development)にその所管が移され、今日では、HHSの児童、青年、そして家庭に関係する行政機関において行われているプログラムである。プログラムは、地方レベルでは、NPOや地方の教育行政機関が、学校制度と同様に所轄、運営している。


プログラム内容

ヘッド・スタートでは施設保育、在宅保育、混合保育という3種の形態から選択できる。施設保育とは保育施設においてクラス単位で行われる保育、在宅保育とは子どもの家庭において家庭訪問員(home visitor)と親とで行われる保育、混合保育とは施設保育と在宅保育の混合を意味する。

1 施設保育(center-based program)

(1)全日制

・クラスの大きさ=4∼5 歳…平均 17∼20人(ただし 20 人を超えないこと) 3 歳…平均 15∼17 人 (ただし 17 人を超えないこと)

・職員の配置=1クラス当たり2人の保育者あるいは1人の保育者と1人の保育助手

・運営時間=週に4∼5日、1日最低 3.5 時間∼最高6時間(ただし障害児や親が就労中または職業訓練中など、長時間の保育が望ましい場合には6時間以上も可)

(2)半日制=午前と午後の入れ替え制

・クラスの大きさ=4∼5 歳…平均 15∼17人(ただし 17 人を超えないこと) 3 歳…平均 13∼15 人(ただし 15 人を超えないこと)

・職員の配置=1人の保育者が午前と午後のクラスを担当する。

・運営時間=週に4日

2 在宅保育(home-based program)

① 少なくとも週に1回・最低1時間半の家庭訪問を、年間最低 32 回行うこと。

② どの子どもも少なくとも月に2回、年間で最低 16 回の集団活動(group socialization activity)に参加すること。集団活動とは、在宅保育に参加する子どもたちが複数集まって一緒に活動をすることを意味する。

③ 1人の家庭訪問員が担当するのは 10∼12家族とし、12家族を超えないこと。

④ 家庭訪問は訓練を受けた家庭訪問員と親との合議の上で行い、親が不在の場合には行わない(ベビーシッター等の一時的に子どもの世話をする人がいても不可)

⑤ 家庭訪問の目的は、親の育児方法を改善し、家庭が子どもにとってより良い学習環境となるよう援助することであり、家庭訪問員は親が子どもの発達に適した学習機会を提供できるように援助する。また保育施設のサービスなど、有用な情報を親に提供する。

⑥ 集団活動は親と子ども双方を対象にしたもので、その目的は親と家庭訪問員の監督の下に保育施設・公共施設を利用したり遠足に行ったりして、子どもが仲間との年齢に応じた活動を通して社会性を身につけることにある。親は少なくとも月に2回子どもの集団活動に付き添って子どもを観察したり、ボランティアとして参加する他、親のためのプログラムにも参加する必要がある。

3 混合保育(combination program)

混合保育は前述の施設保育と在宅保育を組み合わせた形で利用する保育方法である。この混合保育は年に 8∼12 ヶ月の間行われるが、施設保育を最長期間利用する場合(施設保育を年間最低 92 日間利用し、年間 8 回の家庭訪問を受ける22)から施設保育を最短期間利用する場合(施設保育を年間最低 32∼35 日間利用し、年間 24 回の家庭訪問を受ける)まで、施設保育と在宅保育の組み合わせ型が細かく規定されている。なお、混合保育においても、保育施設におけるクラス単位の保育に関しては前述の施設保育の基準が、在宅保育に関しては前述の在宅保育の基準が適用される。


サービス

○教育

一人ひとりの子どもや地域のニーズに沿った教育で、人種的・文化的背景を重視する。子どもが多様な学習・体験をとおして知的・社会的・情緒的に発達できるよう援助する。

○保健

障害・病気等の早期発見・早期治療を重視し、全ての子どもが予防接種・歯科健診・精神衛生サービスを含む多様な医療サービスの対象となる。 健康は、子どもが育ち発達していく能力にとって重要な要素と考えられている。プログラムは、子どもの健康をあらゆる場面で評価するような診断の機会を与えている。

○親の参加

親自身が、親のための教育プログラムへ参加すること、企画委員会の委員としてさまざまなプログラムの企画・運営に直接的に携わることがヘッドスタートの非常に重要な内容となっている。子どもの発達に関する学習会やスタッフによる家庭訪問によって、親も家庭教育の重要性や方法などが学べるようになっている。

○社会サービス

家族の必要に応じて、社会資源の紹介・家族ニーズの評価・緊急援助・危機介入サービス等を行う。

○障害

このプログラムのすべてが、障害を持った子供たちにも提供されている。

○その他

・移民や季節労働者プログラム部門

これは、国の枠を越えて子どもの健康な発達のために質の高いサービスを提供する。

・アメリカインディアン、アラスカ原住民プログラム部門

これは、アメリカインディアンやアラスカ原住民の子どもたちや家族に対して、その他の就学前の子どものレディネスについてのサービスと同様、健康ケア、教育的、栄養的支援と共に社会化の援助も行う。サービスは、元々は社会的不利益を蒙っている就学前の子どもたちや乳児、幼児を念頭において考えられたものである。


評価と主な成果

ヘッドスタートの効果を確かめるために、プログラムを評価し、参加した子どもや家族の進歩を見極める必要がある。子どもの発達がうまくいくのは、幼児期の学習環境の質によることがわかっている。これはパトリック・ケネディー上院議員(民主党・ロードアイランド州選出)の提唱するFoundations for Early Learning Actの前提条件である。子どもたちに提供するサービスの基準を確立し、評価しなければならない。

評価の内容としては、まず、クラス構成(例えば学生とスタッフの割合)、教師の能力、効果的な授業ができているかどうか、またカリキュラムの中身、プログラムが個々の子どもの学習や発達の違いを考慮しているものかなど、教室の構成要素である。 さらに、ヘッドスタートが提供するサービスの質が高く、教師はよく訓練され、適切な指導の下にあり、カリキュラムが発達や文化の面からみて適正なものであるか。 これらのサービスが子どもたちや家族の生活を変えているか否かを、細切れの情報を断片的に評価するのではなく、時間をかけ、いろいろな状況にわたって進歩を評価することによって確認しなければならない。経験に基づいた研究計画を用い、ヘッドスタートの子どもたちが複雑な状況下でも自分の感情をコントロールしながら仲間と上手くやっていけるか、またヘッドスタートの恩恵を受けなかった同様の被験対照群のグループと比べてより積極的な学習戦略を示せるかなど、進歩のしるしを評価しなければならない。

また、ヘッドスタートが効果的であるかを見極めるために、政府は「Good Start, Grow Smart-良いスタートが賢い子どもを育てる」というプログラムを行っている。このプログラムは、未就学児童の読み書き、数的感覚、言語といった能力を高めること、そしてヘッドスタートを評価する全国児童結果報告システムによい影響を与えること、その結果アカウンタビリティーを果たすという目的がある。

これらの評価により明らかになった政策の思いがけない結果として、学習の焦点が子どもに向かず、「学力テスト」の制度が生み出されたこと、テストの成績が悪いとプログラムを改善するのではなく終了する結果になりかねないこと、そしてテストの結果は、勉強をする適切な環境が整っていないなどの理由で最も年少で最も恵まれない子どもたちに不適切で不正確なレッテルを貼る可能性を含むことなどである。 したがって、これらの子どもたちの達成した事柄やその潜在的能力を育むことに喜びを見出すのではなく、子どもたちの役割を「プログラムのアカウンタビリティーのための情報源」としか考えなくなるといった事態を招いている。 テスト項目はヘッドスタートの効果を確かめるという目的に関しては、適切に意図されている。しかし、子どもの知識を数字や文字のテストによってのみ測るという限定的なアプローチは、ヘッドスタートの効果を確かめるのに十分ではない。

ヘッドスタートの主たる目標は、「勉強そのものを教える」のではなく、「勉強の環境を整えるためのきっかけを与える」ということである。家族に手をさし伸べることや、子どもに感情を通じて社会とうまくやっていけるように奨励すること、家族とコミュニティーの関係を確立することなどが重要視される。 ヘッドスタートのサービスを受ける子どもたちはほぼ全員が、経済的破綻、母親のうつ、家庭内暴力、薬物乱用などの、幼児期の学習がうまくいかない主たる原因だと知られている複数の慢性的ストレスを経験している家庭の子どもたちであることを考えても、これらの要素は大切である。 ヘッドスタートの長期的な効果がいかなるものかについては、他にもさまざまな論議がある。 公式的な報告書では、少なくともこのプログラムは、環境的に学習機会に恵まれなかった子どもたちに早期の教育を通して、読む能力と数学的な能力を向上させ、就学の初期の段階でのスタートを円滑なものにしたという点では、充分な成果を挙げていると謳っている。ただ、それは子どもたちのクラスの教室の中での行動上の問題を助長したり、あるいは行動の自己抑制を緩めてしまったりといった事実も散見され、中にはこの就学時の学力支援の効果は、1年の春まででまもなく薄れてしまい、逆に、行動の抑制のなさという負の効果は、ずっと続いていくということを指摘する声もある。

しかし、幼稚園以前のところでの社会的に不利益な境遇にある他の子どもたちの大多数と比較すれば、このプログラムの恩恵を受けることのできた子どもたちが、圧倒的に大きく長期に渡って効果の続く学力の支柱をここから獲得しているということは否めない。 ただ、民族性の問題もあり、白人、黒人、ヒスパニックの子供達を比較すると、同様に社会的に不利益な立場にある子どもの中では、白人の子供たちが、黒人の子供たちよりも、より大きく、より長期の教育的な効果を手に入れているといった研究もある。


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