リカレント教育

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2009年1月31日 (土) 11:06の版
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リカレント教育とは、経済協力開発機構(OECD)が提唱する生涯教育構想で、社会人が必要に応じて学校へ戻って再教育を受ける、循環・反復型の教育体制のことである。


目次

概要

「すべての人に対する、義務教育または基礎教育終了後の教育に関する総合的戦略であり、その本質的特徴は、個人の生涯にわたって教育を交互に行うというやり方、すなわち他の諸活動と交互に、特に労働と、しかしまたレジャー及び隠退生活とも交互に教育を行うことにある。」と定義される。「リカレント(recurrent)」の持つ回帰、還流、循環という意味が示すように、この戦略においては、人生の初期に集中して教育機会を提供するだけでなく、その後の労働を中心とする諸活動に従事した後に再び教育機会に参加できるようにすることで、生涯にわたって教育が分配される。このため、学校教育や社会教育、企業内教育などあらゆる教育部門における制度や内容、方法の変更を目指すものであり、同時に、関連する労働政策や企業の雇用慣行等の変革を求めることを特質し、「回帰教育」や「還流教育」と訳されることもある。

リカレント教育の考えは、スウェーデンで1968年に高等教育制度審議のために設置された教育審議会(U68と略称)の第二次報告「高等教育―機能と構造」で示された。翌年の第6回ヨーロッパ文相会議で、スウェーデンの文相からこれについての報告があり、その後OECD(経済協力開発機構)がこの理念に基づく教育のあり方について提唱することになった。職業―教育―職業といったサイクルを確立することは、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の提唱した生涯教育を具体化するものとしてとらえられる。

スウェーデンでは、1977年の高等教育改革で、25歳以上で、4年以上の職業経験(育児を含む)をもつ者を高等教育機関に受け入れる特別な選抜方法を採用し、一時は大学生の半数が成人学生であった。そこには、教育機会の均等化とともに、産業構造の変化・技術革新への対応ということがあった。しかしこの制度は、若者の高等教育への受入れ枠を狭めるとする批判もあって、成人入学枠を縮小することも行われた。多くの国でパートタイムの学生を増やしたり、単位の累積を認めて職場と学校を行き来できる仕組みを整えたりしている。イギリスでも、1971年に、資格を問うことなく成人を入学させ、放送などを通じて教育を行う公開大学Open Universityが発足し、アメリカでは、コミュニティ・カレッジが、開かれた教育機関として希望者に多様な種類の教育を提供している。



背景

リカレント教育はスウェーデンの経済学者レーンRehn, G.によって最初に提唱され、 1968年にベルサイユで開催されたヨーロッパ文相会議において、スウェーデンの文部大臣パルメPalme, O.が言及したことにより国際的に注目されるようになった。1970年にはOECDが教育政策会議で初めて取り上げ、以後、本格的にこの概念の調査研究及び普及に取り組むようになった。OECDにおけるリカレント教育は、青少年期という人生の早い時期に集中していた教育を「血液が人体を循環するように、個人の全生涯にわたって循環させよう」とするところに主要な特徴があった。 この最初の主要な成果となった1973年の報告書は文部省により翻訳、公表され、「リカレント教育」という呼称が定着することとなった。 報告書では、リカレント教育が要請される背景として、

①中途退学者の増大など中等教育の「疾患」の顕在化

②青少年にとっての社会的経験及び青少年による社会的貢献の重要性

③高度な技術を身につけた人材の需給不均衡

④正規の教育制度に対する伝統的な成人教育部門の補完機能の不十分さ

⑤知識の急速な陳腐化

⑥世代間の教育機会における不均等

の6点を指摘している。 20世紀以降の先進諸国においては、教育の機会均等と社会の発展を目指して、中等教育次いで高等教育と教育機会の拡大を図り、青少年期における教育期間を延長してきた。リカレント教育は、こうした方針の下で生じた上記のような矛盾や問題点に対処することを目的として構想された。 これは、社会人が生涯にわたって労働の合間に、あるいは一時的に職場から離れて、さらに退職後でも自由かつ平等に正規の学校に戻ることができる弾力的な教育システムの構築であったといえる。


リカレント教育と生涯学習

リカレント教育は、急速に変化する社会において、教育は、すべての人々にとって生涯に通じて必要であるという考え方を基礎とする。これは、生涯教育や生涯学習が示す理念と基本的に重なり合うものであるが、「学習」を組織化し、制度化した「教育」を生涯にわたって継続的に提供することを現実の政策において保証することは困難である。こうした前提に立ち、長期的な視野の下での教育及び関連諸分野の変革を通じて、個人が必要なときに、必要なところで、必要な教育にアクセスできることを目指すリカレント教育は、現実的な教育政策論といえる。


日本におけるリカレント教育

 我が国でリカレント教育という概念が初めて登場したのは、昭和47年の日本経済調査協議会の報告書「新しい産業社会における人間形成-長期的観点からみた教育のあり方-」においてである。その後、昭和60年及び昭和61年の臨時教育審議会の教育改革に関する第1次答申及び第2次答申において、リカレント教育に関連して、高等学校、大学、短期大学、専修学校などへの社会人受入制度としての「リカレント制」の在り方の検討や、企業における勤労者の生涯職業能力開発の積極的な推進を述べた。 さらに、平成4年の生涯学習審議会の「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」の答申では、リカレント教育においては、大学等高等教育機関で行われる、職業人を主な対象とした専門的・体系的な教育が大きなウェイトを占めていると指摘している。第二次世界大戦後、日本では大学や高等学校で通信教育が行われてきたが、新たに放送大学が設置されて、1985年(昭和60)以来、成人学生を受け入れるほか、多くの大学が社会人入学の制度をとるようになった。 単位の累積による学位取得も可能な科目等履修生の制度の採用も広がっている。自治体、高等教育機関、企業等でリカレント教育協議会を構成し、リカレント教育講座の充実に努めるところも増えている。職業技術教育を中心とした専修学校も、リカレント教育の機能を果たしている。多くの国では、終身雇用制でないため、教育機関での職業技術についてのリカレント教育が必要とされる度合いが高い。その点、日本では職業技術は企業内教育によるところが大きかったが、派遣社員の増加にみられるように、従来の雇用形態が揺らぎ始めており、リカレント教育機関の整備の必要性が増しつつある。


リカレント教育が求められる社会的要因

今日の社会でリカレント教育が求められる要因としては、科学技術の進歩、国際化、情報化、高齢化の進展、男女共同参画社会の形成など、社会が刻々と変化し、新たな課題が生じていることがあげられる。人々が社会の変化に適切に対応して人間性豊かな生活を送るために、様々な場面で学習が必要となっている。 例えば、仕事の上では、技術革新の進展に伴って、より高度な知識・技術を習得するための学習が必要であったり、産業構造の変化等による労働力の流動化傾向が進む中で、新しい分野の専門的な学習も必要になったりしている。 また、人々の意識も、仕事中心になりがちな生活を改め家庭や地域社会での生活の比重を高めて、人生をさらに充実させようというように変わりつつある。そして、人間性を高め、自己実現を図るためには、仕事以外の様々な分野について、より深く、より専門的に学習することが必要になっている。


リカレント教育の原則

 回帰的な方法により教育と他の諸活動を交互に行うリカレント教育を実現するには、従来の教育制度を改めるとともに、労働政策や雇用慣行等の関連分野の変更が不可欠である。リカレント教育を基本とする社会システムのために確立すべき原則として、次の点が挙げられる。

1.学校教育とそれ以外のところで生起する学習活動の補完関係の強化。学位や修了証を教育上の最終経歴と見なさず、むしろ個人の生涯にわたる成長の一段階としてとらえようとする。

2.義務教育の構造や内容の見直し。義務教育の最後の数年間は、各生徒が義務教育終了後、勉学と労働のいずれかを適切に選択できるカリキュラムを含むべきであり、カリキュラムや指導方法は、生徒や教員、教育行政担当者等の関係者が協力して必要な調整を行わなければならない。

3.教育政策と一般の公共政策、特に労働政策とを調整しなければならない。

4.初等教育から後期中等教育に至る各教育段階に補償教育を導入しなければならない。

5.高等教育における社会人への門戸をより開放しなければならない。

6.計画的な成人教育の機会の拡大。特に、すべての個人が、できるだけその必要とするところと時期において教育を受けることを可能にするように施設の配置を考慮することが必要である。

7.非伝統的なルートによって得られた学習経験を正当に評価することである。例えば、リカレント教育のシステムにおいては、労働やその他の活動経験も資格付与や入学の基礎要件として見なされなければならない。

8.学校教育において、あらゆるプログラムが別のプログラムに接続するようにしなければならない。

9.大学や職場などにおいて教育と労働を交互に実施できる条件の整備である。このため、各個人は義務教育終了後、育児休暇や教育休暇を取得する権利や、職業的、社会的保障も与えられなければならない。


参考文献

『スウェーデンの社会』  岡沢 憲夫   早稲田大学出版社

『スウェーデンハンドブック』  岡沢 憲夫・宮本 太郎編   早稲田大学出版社

『スウェーデンののびのび教育』  河本 佳子  新評論

http://ejiten.javea.or.jp/content.php?c=TWpJeE1ERXk%3D


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