特別支援教育
出典: Jinkawiki
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特別支援教育を推進するためには、盲・聾・養護学校の制度から障害種別の枠にとらわれない特別支援学校への転換を図る必要性が求められていた。これは、近年、盲・聾・養護学校において障害の重度・重複化の傾向が顕著なことや、地域において障害のある児童生徒の教育を弾力的に行う必要が生じていることを念頭に入れた制度転換ともいえる。 | 特別支援教育を推進するためには、盲・聾・養護学校の制度から障害種別の枠にとらわれない特別支援学校への転換を図る必要性が求められていた。これは、近年、盲・聾・養護学校において障害の重度・重複化の傾向が顕著なことや、地域において障害のある児童生徒の教育を弾力的に行う必要が生じていることを念頭に入れた制度転換ともいえる。 | ||
- | また、小・中学校における特別支援教育体制の確立の必要性については、これまで特殊教育で対象としてきた障害のある児童生徒に加えて、LD、ADHD、高機能自閉症などの軽度発達障害といわれる特別なニーズをもつ児童生徒を含めた多様な障害のある児童生徒が小・中学校に就学していることを考慮すれば、学校全体が組織として一体的に取り組む体制の構築が必要であること。具体的には、従来の特殊学級、通級指導教室を一本化し、小・中学校のすべての特別なニーズを有する児童生徒も含めて通常学級に在籍させ、その上で個々の児童生徒のニーズに応じて障害に起因する困難の改善克復や障害に配慮し学習指導といったことを弾力的に行う特別支援体制(たとえば「特別支援教室(仮称)」の設置)を検討することの必要性を提言し、障害のある児童・生徒の自律や社会参加に向けて、一人ひとりの教育的ニーズを把握して、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善または克服するために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うための特別支援学校への転換と小・中学校における特別支援教育体制が確立された。 | + | また、小・中学校における特別支援教育体制の確立の必要性については、これまで特殊教育で対象としてきた障害のある児童生徒に加えて、LD、ADHD、高機能自閉症などの軽度発達障害といわれる特別なニーズをもつ児童生徒を含めた多様な障害のある児童生徒が小・中学校に就学していることを考慮すれば、学校全体が組織として一体的に取り組む体制の構築が必要であること。具体的には、従来の特殊学級、通級指導教室を一本化し、小・中学校のすべての特別なニーズを有する児童生徒も含めて通常学級に在籍させ、その上で個々の児童生徒のニーズに応じて障害に起因する困難の改善克服や障害に配慮し学習指導といったことを弾力的に行う特別支援体制(たとえば「特別支援教室(仮称)」の設置)を検討することの必要性を提言し、特別支援学校への転換と小・中学校における特別支援教育体制が確立された。 |
'''通常の小・中学校における特別支援教育の対象''' | '''通常の小・中学校における特別支援教育の対象''' |
2010年2月12日 (金) 15:56の版
目次 |
特殊教育から特別支援教育へ
移り変わりの背景
日本の障害児教育は、学校教育法第6章に規定された「特殊教育」が正式な名称であった。これに対して、民間の関係者は、「特殊教育」という用語を忌避して、「障害児教育」という用語・呼称を主張し使用してきた。それは、公教育に「特殊」と呼ぶべき分野はなく、公教育はすべての子どもを対象とした普遍的教育であり、対象となる子どもが障害をもつ子どもであっても、それは普遍的な教育の一環であり、加えて、その教育方法も「特殊」というものはないと考えたからである。したがって、「特殊教育」は、実質的には学校教育法施行令などに記載された障害児が対象であるため、「障害児教育」という名称が妥当だとする考え方もあった。
この「特殊教育」という名の障害児教育への就学率は、学齢期にある児童・生徒の1.4%(2001年)ほどであり、諸外国で障害児教育の対象となっている子どもの数と比べると大変少ないことが明らかになっている。 アメリカ合衆国では約10~16%が障害児教育の対象になり、イギリスでは20%もの子どもが「特別な教育的ニーズをもつ子ども」と考えられている。日本において、障害児教育受けている学齢の児童・生徒が少ないということは、少なくない障害児が通常学級に在籍し、必要とする支援を受けていないということである。当時、特別な支援を必要とする障害児がどのくらい通常学級に在籍するかに関しては、全国調査は行われておらず、旧文部省は実態調査を行おうともしなかった。旧文部省は、通常学級には障害児は在籍しないとの立場をとっていたのである。これらの背景から、特殊教育を改訂しようとする動きがでてきたのだと考えられる。
特別支援教育の制度化
「特別支援教育」という用語は、2003年3月に文部科学省の調査研究協力者会議によってまとめられた「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」に端を発している(以下「協力者会議最終報告」と称する)。
「協力者会議最終報告」は、「特別支援教育」の基本的動向と取組について「障害の程度に応じ特別の場で指導を行う『特殊教育』から障害のある児童・生徒一人ひとりの教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う『特別支援教育』への転換を図る」と述べている。これは、これまでの特別の「場」において行われていた教育(特殊教育)のあり方を改善し、通常の学校における教育的ニーズを有する児童生徒をも含めて教育(特別支援教育)する仕組みを整備していこうとするものであるということができる。
この最終報告を受けて、中央審議会が答申を取りまとめ、その答申を踏まえて、2007年4月から、改正学校教育法が施行される。これにより、「特殊教育」がなくなり、「特別支援教育」となった。
特別支援教育とは
特殊教育との相違
これまで日本の特殊教育で対象としてきた障害のある児童生徒に加えて、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症などの軽度発達障害といわれる特別な教育的ニーズをもつ児童生徒を含めて教育していこうとするのが特別支援教育であり、特殊教育と比較して、教育する児童生徒の対象範囲が拡大していることがあげられる。また、教育の場についても、特殊学校をこれまでの障害種にとらわれない特別支援学校への転換を図ること、小・中学校に併設されてきた特殊学級を学校全体で総合的に対応していくシステムを検討することが必要とされている。したがって、単に特殊教育に新たな支援対象の児童生徒を拡大したということではなく、すべての児童生徒にかかわる学校内と学校間の支援体制全体を、根本から問い直す契機となる教育であると考えたい。
特別支援教育を推進していくための3つのツール
特別支援教育へ転換し、推進していくために新たな3つの(仕組み)が提起されている。
まず第1に、「個別の教育支援計画」の策定があげられる。障害のある児童生徒を生涯にわたって支援する観点から、一人ひとりのニーズを把握して、教育・福祉・医療・労働などの関係諸機関が連携し、適切かつ効果的に教育的支援を行うために、教育上の指導や支援を内容とする「個別の教育支援計画」の策定、実施、評価が重要であるとしている。
第2に、「特別支援教育コーディネーター」の配置である。校内の協力体制の構築や、校外の関係機関との連絡調整役、あるいは保護者に対する学校の窓口の役割を担うキーパーソンとして、学校内で校務として位置づけられるものである。
第3に、広域特別支援連携協議会などの設置である。地域における総合的な教育的支援のために有効な教育・福祉・医療・労働などの関係諸機関の連携協力を確保するための仕組みで都道府県別行政レベルで部局横断型の組織を設け、各地域の連携協力体制を支援していくために設置されるものである。
特別支援教育の仕組み
具体的には特別支援学校、小・中学校の特別支援学級、通級による指導における教育を指す。
特別支援学校には、小学校および中学校の義務教育に対応して、それぞれ小学部と中学部を原則として置かなければならない。さらに幼稚部と高等部を置くことができる。(学校教育法第76条)
また特別支援学校は、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱の5つの教育部門からなり、学校によっては複数の教育部門を設置しているところもある。特別支援学級は、特別支援学校の対象者よりも軽度の障害者を対象として、小・中学校に設置されている。また通級による指導は、通常の学級に在籍している軽度の障害者を対象としている。
学校のあり方
盲・聾・養護学校の特別支援学校への転換と小・中学校における特別支援教育体制の確立
特別支援教育を推進するためには、盲・聾・養護学校の制度から障害種別の枠にとらわれない特別支援学校への転換を図る必要性が求められていた。これは、近年、盲・聾・養護学校において障害の重度・重複化の傾向が顕著なことや、地域において障害のある児童生徒の教育を弾力的に行う必要が生じていることを念頭に入れた制度転換ともいえる。
また、小・中学校における特別支援教育体制の確立の必要性については、これまで特殊教育で対象としてきた障害のある児童生徒に加えて、LD、ADHD、高機能自閉症などの軽度発達障害といわれる特別なニーズをもつ児童生徒を含めた多様な障害のある児童生徒が小・中学校に就学していることを考慮すれば、学校全体が組織として一体的に取り組む体制の構築が必要であること。具体的には、従来の特殊学級、通級指導教室を一本化し、小・中学校のすべての特別なニーズを有する児童生徒も含めて通常学級に在籍させ、その上で個々の児童生徒のニーズに応じて障害に起因する困難の改善克服や障害に配慮し学習指導といったことを弾力的に行う特別支援体制(たとえば「特別支援教室(仮称)」の設置)を検討することの必要性を提言し、特別支援学校への転換と小・中学校における特別支援教育体制が確立された。
通常の小・中学校における特別支援教育の対象
1978年10月より「教育上特別な取り扱いを要する児童・生徒の教育措置」が適用され、盲者、聾者、知的障害者、肢体不自由者、病弱者の児童生徒は、学校教育法施行令第22条の3により盲・聾・養護学校、特殊学級への就学が決定されてきた。
2002年、同法施行令の一部改正により、盲・聾・養護学校に就学すべき障害の程度を定めた就学基準と就学手続きが見直された。これにより、盲・聾・養護学校の就学基準に街頭する場合であっても「市町村の教育委員会」が小・中学校で適切な教育を受けられると判断すれば、特殊学級または通常の学級に就学することが可能となった。その際、就学基準に該当する障害のある者は「認定就学者」とされた。
その後、日本の「特殊教育」の対象者が義務教育段階の全就学者に占める割合は、文部科学省の学校基本調査によると約1.6%にすぎず(2004年)、障害全体の発生率や欧米諸国に比べて極めて低いとされた。
通常学級におけるLD等を含む軽度発達障害児の対応の遅れが指摘されてきたが、文科省の調査研究会は2002年に「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」を行った。この調査によれば、「知的発達に遅れはないものの、学習面や行動面で著しい困難を示すと担任教師が回答した児童生徒の割合」が6.3%、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」ことに著しい困難を示す児童生徒の割合は4.5%、「不注意」または「多動性-衝動性」の問題では2.5%、「対人関係やこだわり等」の問題では0.8%であった(文部科学省2004)。これらの数値は必ずしも実際の軽度発達障害児の数と一致するものではないが、2005年12月の「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」(答申)では、小・中学校の「通常の学級における教員の適切な配慮、ティーム・ティーチングの活用、個別指導や学習内容の習熟の程度に応じた指導等の工夫などに加え、必要に応じて、通常の学級を離れた場での指導及び支援を受けられるようにする」ことが提起された。このように特別支援教育では従来の障害に加えて、軽度発達障害の子どもが新たな対象とされたことが特徴である。
特別支援教育の現状
文部科学省は2003年度から47都道府県で「特別支援教育体制推進(モデル)事業」を展開するなど、特別支援教育の推進に取り組んできた。これらの結果、2006年9月には全国の3万3,000校の小中学校の95%に校内委員会が設置され、92%に特別支援教育コーディネーターが指名されるなど、急ピッチで体制整備が進んでいる。また、各都道府県でも、特別支援教育や軽度発達障害をテーマとした研修や理解啓発事業が行われている。
しかし、これで子どもたちへの教育支援が満足できる水準になっているかといえばそうではない。形式的には大半の小中学校に校内委員会が設置され、特別支援教育コーディネーターが設置されているが、これらがきちんと機能していないというのが現状である。また、このように小中学校には何とか形ができつつあるが、就学前の幼稚園や保育園、義務教育終了後の高等学校などの段階には手がついていないというのが現状である。
平成20年5月1日現在、わが国では1026校の特別支援学校で11万2334人の幼児・児童・生徒が教育を受けている。このうち義務教育段階の在籍者数は6万302人である。また、小学校や中学校の特別支援学級では、12万4166人の児童・生徒が教育を受けているほか、通級による指導は4万9685人が受けている。義務教育段階の在学者数の合計は23万4153人で、これはわが国の学齢児童・生徒数(1078万5303人)の約2.2%に当たる。
これからの課題
教員の専門性向上、教員の特別支援教育に関する基礎知識の向上、担任教員に対する学校内外からの支援体制の構築、教員養成課程の学生ボランティアなどによる学習支援員等の活用、個別の教育支援計画等によるPDCA(Plan-Do-Chek-Action)サイクルに基づいた支援の定着、保健・福祉・医療・労働等の連携、幼稚園・保育園における特別支援教育体制の整備、高校・大学における特別支援教育体制の整備、移行・就労支援策の拡充などがあげられる。
- 参考文献
よくわかる発達障害 小野次郎・上野一彦・藤田継道編 ミネルヴァ書房
特別支援教育の基礎知識 橋本創一・霜田浩信・林安紀子・池田一成・小林巌・大伴潔・菅野敦編著 明治図書
発達障害児の基本理解 山崎晃資 宮崎英憲 須田初枝 編著
特別支援教育と障害児教育 清水貞夫