脳性マヒ2
出典: Jinkawiki
2011年2月3日 (木) 11:05の版
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定義
脳性麻痺は、受胎から新生児期に生じた非進行性、永続性の脳障害によって運動障害をきたした状態をいう。脳障害の一概念で、厚生省研究班の昭和43年の定義として、「受胎から生後4週以内に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する」とされている。
主要な症状
新生児期の無呼吸発作、けいれん発作、母乳やミルクの飲みが極端に悪い。首がしっかりしていない、反り返りが強い、体がかたい。乳幼児の運動発達は個人差もあるが、運動発達の指標が月齢に比べて2か月以上遅れているときは注意が必要である。
発症年齢
ハイリスク児には新生児期より症状の発現を待たずに生活面の指導や早期訓練を開始する。その他の子どもにも生後5~6か月の健康診断時に運動発達の遅れや不器用・筋緊張や姿勢に異常の発見に努める。疑わしい子どもにはより早期に専門家を紹介し、早期訓練と家族への指導を受けられるようにする。それにより発達を促進し、家族の障害の受容と前向きの生活態度を可能とする。その際、脳性麻痺といった診断ではなく脳性協調運動障害児とする場合が多い。この段階で家族に脳性麻痺と説明するのは慎重にしたい。運動発達の遅れ、不器用な子として訓練を開始し疾病受容を促しながら1~2歳になって脳性麻痺と診断し十分な説明をする。そして親の不安除去に努める。早期訓練により円滑に発達が促進され一部は正常発達を期待しうる。脳性麻痺との確定診断はその後になされるべきもので、急ぐべきものではない。子どもは変化するものであり、その子どもなりの社会参加の道をともに模索したい。また、学齢以後に訓練が稀薄となることがあり、卒業後の合併症や二次的合併症の軽減と発生予防のために訓練と医療が続行されるように強く指導する必要がある。
頻度
以前の我が国における報告では、1950年代後半に1,000出生あたり2.5だった発生率が、1970年代には0.6に減少している。しかし1081年以降、2,500g未満の低出生体重児からの脳性まひの頻度が関与し、発生率は増加傾向を示し、現在1.0に上昇している。
原因
出生以前の原因は、約20~30%で脳形成異常と先天性感染症(TORCH症候群:トキソプラズマ、風疹、サイトメガロウイルス、単純ヘルペス)がよく知られているが、不明のことも多い。半数以上は、周産期に原因があり、早産低出生体重児、ついで切迫仮死、遷延分娩、早期破水、胎盤異常、臍帯卷絡などに伴う脳循環障害、無酸素症および新生児重症黄疸である。しかし最近は、新生児医療の進歩により、低出生体重児からの両麻痺と核黄疸からのアテトーゼ型が有意に減少している。後天的な原因としては、中枢性感染症、頭蓋内出血、痙攣重積、外傷などがある。
遺伝性の有無
原則として遺伝性はない。同じ原因が兄弟間に作用しての家族内発生はありうる。たとえば母親の糖尿病の管理が悪く、高度の妊娠中毒症と出生後の低血糖のために兄弟ともに障害が現れる例などがある。
臨床分類
麻痺の部位による分類と、筋緊張異常の種類による分類がある。
麻痺の部位による分類
- 四肢麻痺 四肢ともに麻痺がある型であり、重度で混合型であることが多い。
- 両麻痺 四肢麻痺の一型で、上肢より下肢の麻痺が強い。痙直性がほとんどで低出生体重児に多い。脳室周囲白質軟化症と関連している。
- 対麻痺 両下肢の麻痺である。
- 片麻痺 片側の上下肢の麻痺で上肢の方が麻痺が強い。大部分は痙直性であり、血管障害、炎症などが原因となる。
- 単麻痺 一肢の呈するものを指す。
筋緊張の異常による分類
脳性麻痺における筋緊張における筋緊張異常は以下に示すいくつもの類型が合併していることの方が多いが、主たる異常様式によって表される。
- 痙直型 痙直を主とする麻痺で、低出生体重児にみる場合に多い。てんかんを合併する率が高い。
- アテトーゼ型 乳児期には低緊張で、舞踏アテトーゼは乳児期後半または幼児期から明らかになる。核黄疸後遺症でみることが多い。周産期の仮死が原因である場合には、筋緊張が亢進する不随意運動を主とする。
- 失調型 先天異常の脳形成障害にみることが多い。一般に重症で知的障害を合併することが多い。
合併症
四肢麻痺 視覚障害、斜視、知的障害、てんかん
片麻痺 てんかん
アテトーゼ型 聴力障害
麻痺が重度である場合には、嚥下障害、呼吸障害が問題になる。二次障害として、拘縮、関節変形、褥瘡がある。
検査
脳性麻痺の原因検索には、病歴聴取が最も大切である。奇形あるいは家族性の要因が考えられる場合には染色体検査・ウイルス学的検査・頭部CT・MRIを、合併症に関しては、脳波・聴覚誘発電位・摂食時の透視検査も重要である。
診断
主訴としては、運動発達の遅れが最も遅く、その他には、筋緊張低下や亢進、反り返る、哺乳不良、体重増加不良、不活発、泣き声の異常、音に過敏などがある。運動の遅れは、中等度以上の場合にみられる。麻痺のみならず、姿勢の異常、運動パターンの異常に注目する。不随意運動型では運動の過剰、痙直や強直がある場合には、運動の過少がみられる。手を伸ばすと口が開くなどの運動の分離の悪さも共通にみられる。
治療
脳性麻痺児の治療の基本は機能訓練であり、早期に治療を開始することが望ましい。機能訓練には、日常生活指導としての作業療法として、呼吸、摂食、感覚・知覚訓練と理学療法、摂食指導も含めた言語療法がある。これらに関連して補装具の製作と、固定した場合には関節の拘縮に対しての整形外科的手術がある。また合併症に対しての、痙攣発作、呼吸器感染症、自立神経障害などに対する治療も重要である。
- 薬物療法 筋緊張亢進に筋弛緩剤を用いる。訓練を妨げない程度の薬剤に配慮すべきである。
- 整形外科的療法 手術によって運動能力の改善を図る。十分な診断と種々の角度からの検討のすえ手術適応と方法が決定される。
- リハビリテーション(作業・理学療法) 乳幼児早期から固くなった筋の痙性をとり柔らかくする上田法、正常の基本的な姿勢反射や移動運動パターンを引き出して学習させようとするボイタ法と、異常な姿勢や運動発達の即した対応をして改善を促すボバース法とがある。
- 言語・音楽療法 言語機能は人間が最後に獲得した高度かつ複雑な機能で、脳性麻痺では種々の障害のされ方をしている。このコミュニケーションの改善には言語療法士、音楽療法士の役割が大きい。
- 呼吸・食事療法 近年、重度化する脳性麻痺児への対応として、早期から呼吸と摂食指導を行うようにしている。
参考文献
清野佳紀・小林邦彦・原田研介・桃井眞理子編集『NEW 小児科学(改訂第2版)』南江堂 2003
森和夫編『小児保健Ⅱ 障害児の理解と療育・保育』建帛社 2000
『脳性麻痺~子供と赤ちゃんの病気ガイド』http://www.ckrt.net/syougai.nouseimahi.html