東大ポポロ事件 2

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東大ポポロ事件2

この裁判は、学問の自由と大学の自治に関する重要な判例であり、学問の自由を語る上で、しばしば、引き合いに出されることが多い。いかにこの事件の概要と裁判の判決を記述する。

'事実(概略)'    昭和27年2月20日、東京大学公認の「ポポロ劇団」が正式許可を得て同大学構内において松川事件を素材にする演劇発表会を開催したとところ、私服警官4名が入場券を買って会場に潜入していたのを学生が発見した。そこで、警察官3人(1名は逃走)の身体を拘束し、警官手帳を取り上げ謝罪文を書かせた。この際被告Yは、洋服内ポケットに手を入れオーバーのボタンをもぎ取る等の暴行をくわえたとして、“暴行行為等処罰二関スル法律1条”違反で起訴された。なお、警察手帳その他証拠から、かかる警察官らは長期にわたって恒常的に大学構内に立ち入り、張り込み、尾行、盗聴等によって学生・教職員・学内団体等の動向・活動・思想傾向の情報収集を行っていたことが認められた。 本件当時は、朝鮮戦争の発生、日本国内の占領体制から1951年(昭和26年)に日米安全保障条約は結ばれ安保体制への転換といった政治状況下、その動向に反する運動が、大学を拠点として全国に広がっていた。そのため、警察による大学への内偵活動が行われ、これを阻止しようとする学生との衝突事件が頻発していた。


裁判の経緯     第一審(東京地裁昭和29年5月11日判決)は、大学の自治という法益が、警察官が職務上行った行為(大学での情報収集)よりもはるかに重要な利益価値である場合には、前者を擁護するために、職務を侵害する行為を若干行ったとしても、それは、法的に正当な行為として許容されなければならないと判断し、被告人を無罪とした。第二審(東京高裁昭和31年5月8日判決)は、第一審判決の事実認定を維持し、第一審とほぼ同様の理由で、検察官の控訴を棄却した。しかし、最高裁昭和38年5月22日大法廷判決にて、第一審、第二審の判決は覆され、被告人は有罪の判決を受けた。

最高裁昭和38年5月22日大法廷判決の論点      ここでは、被告人を有罪とした判決の論点について整理する。以下に4つの論点を記す。

① 教授の自由が憲法上保障されるか。

② 大学の自治の内容をいかに解すべきか。

③ 大学における学生の学問の自由の性格。

④ 実社会の政治的社会的活動にあたる行為は憲法23条【学問の自由】によって保障されるか。

1、に関しては、学校教育法第52条【大学の目的】(現、第83条)に『大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに深く専門の学芸を教授研究する』ことを目的としていることから、大学においては、教授の自由が保障されると解釈した。  2、に関して、この裁判では、大学の自治は、大学における学問の自由を保障するために、伝統的に認められるとしたが、この自治は、特に、大学の人事に関して認められ、施設と学生の管理についてもある程度認められるとした。つまり、この判例は、大学の自治の主体者は教授・その他研究者であり、学生は主体者として認めていないのである。しかし、一方で、大学の自治の範囲を人事に関して強調したことにより、第一審の『第一次的に大学学長の責任・管理のもとに処理され、その自律的措置に任せられるとする』発想とはかなり異なるものとなった。  3、については、憲法第23条は【学問の自由】は、学生も一般の国民と同じように享有するが、大学の学生として一般の国民以上に学問の自由を享有できるのは、大学教授とその他研究者が有する特別な学問の自由と自治の効果である。つまり、教授その他の研究者が大学の自治の主体者であり、学生は、教授その他の研究者の自由と自治の効果として、学問の自由と施設の利用を認められるとした。この点から大学の自治の担い手は、伝統的に教授・研究者の組織と考えられてきたが、いわゆる大学紛争を契機に学生も自治の担い手であるべきとの議論が強くなった。  4、は、東大で発表された劇の内容に焦点を当て、それが、憲法第23条に保障されていることに当てはまるかを説いたものである。まず、そこで指摘されたのが本件で上演された内容は学問的なものであったのかどうかということである。発表会で上演された内容は松川事件を題材にしており、この劇は実社会の政治的社会的活動とみなし、真に学問的な研究と発表のものではないとした。したがって、この行為は大学の自治と学問の自由を享有しないとした。そのことから、本件の集会に警察官が立ち入ったことは大学の学問の自由と自治を侵すのもではないとした。


この判例から見える課題   この裁判では、結局、被告人は有罪判決を受けて、差し戻し後もその判決が覆ることはなかったが、批判が多く挙げられる判決となった。学問の自由ということについて今後は大学だけでなく今日、科学発達に大きな役割を果たしている民間研究機関における研究がどこまで規制されるか、また、学門の自由はどこまで保障されるかといったことにも焦点があてられるようになるのではないだろうか。特に、遺伝子工学、生命科学といった研究倫理が問われるような先端科学技術に対する規制がどこまで許されるかは、重要な論点となっている。また、膨大な研究費がかかる学問も多く、自由権としてお学問の自由の保障では不十分ではないか、財政援助を求める権利も学問の自由として保障されるべきではないかということも新たな問題点の一つである。


≪参考文献≫

伊藤真の判例シリーズ1 憲法  監修:伊藤真 著:伊藤塾 弘文堂 (2005) 六法全書22年度版 p2522 学校教育法第83条 有斐閣 教材 憲法判例 第4版 編集:中村睦男、秋山義昭、千葉卓、常本照樹、斉藤正彰 北海道大学図書刊行会 (2000)

 


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