公害
出典: Jinkawiki
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公害とは、個人や企業の諸活動にともなって生じる環境悪化や、人間の生命・健康・財産への被害などを総称したものである。公害には、①企業活動に伴って発生する産業公害②人口の都市集中や生活関連社会資本の立ち遅れから生じる都市公害(生活公害)などがある。また、環境基本法では、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭の7つを公害と定義している(典型七公害)。しかし、近年では、これらの定義に当てはまらない公害も増え、原因も複雑になってきている(複合汚染)。
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典型七公害
①大気汚染
人間の経済活動によって大気が汚染されること。1960年代から、特に石油コンビナートの亜硫酸ガス排出による大気汚染が深刻化した。また、自動車の排気ガスに含まれる窒素酸化物と炭化水素が、紫外線で化学反応を起こし、有害物質を発生させ、眼や呼吸器障害を起こす光化学スモッグも大気汚染が原因である。
②水質汚濁
生活雑排水や工場排水により、湖沼や河川の水質が悪化することである。カドミウムやシアンなどが定められている健康項目と、BOD(生物学的酸素要求量)やCOD(科学的酸素要求量)などが定められている生活環境項目からなる水質環境基準が定められている。また、湖沼富栄養化防止のために窒素やリンの基準も定められている。
③土壌汚染
土壌が有害物質によって汚染されることである。カドミウム・ヒ素・銅・クロム・ダイオキシンによる汚染がある。
④騒音
建設・工場・自動車の騒音以外に、最近では人間の耳では聞き取りにくい低い音や、機械・空調・電車などによる低周波の空気振動が、吐き気や頭痛などの健康被害を引き起こしている。
⑤振動
工場の操業や工事、航空機や鉄道や自動車の運行による振動・揺れによって被害が出ることである。
⑥地盤沈下
地下水のくみ上げなどにより地盤が沈下し、建造物や水道管やガス管などに被害が出ることである。
⑦悪臭
産業廃棄物や一般廃棄物などからの臭いが、人に不快感を与えたり、健康被害を引き起こすことである。
足尾銅山鉱毒事件
この事件は、日本の公害問題の原点といわれている。1800年代から、古河財閥の経営する足尾銅山から流出する鉱毒のために農作物や魚が汚染され、渡良瀬川流域の住民らが被害を受けた事件である。この一帯で起きる毎年の洪水が被害を広げ、農民たちは銅山の操業停止や損害賠償などを求めて反対運動に立ち上がった。栃木県選出の代議士田中正造はこの運動の先頭に立ち、1891年に帝国議会で鉱毒問題を追及、1901年には天皇直訴までに及んだ。結局、政府は鉱毒流出の原因を治水問題とすりかえ、谷中村遊水地計画を推進。谷中村は明治近代国家建設の犠牲となり、廃村となった。
四大公害訴訟
水俣病訴訟・新潟水俣病訴訟・イタイイタイ病訴訟・四日市ぜんそく訴訟の4つの訴訟のことである。いずれも、1960年代後半の高度経済成長期に提訴された。裁判ではいずれも原告(被害者)側が全面勝訴し、企業の加害責任を認め、被害者への損害賠償を命じた。
・新潟水俣病
被害発生地域:新潟県阿賀野川流域
症状:知覚・運動障害などの神経症状、内臓などに影響
被害者:認定患者690人
死亡者399人
提訴日:1967年9月29日
被告:昭和電工
判決日:1971年9月29日
判決:患者側全面勝訴(工場側の有機水銀を原因とした)
・四日市ぜんそく
被害発生地域:三重県四日市市
症状:ぜんそく発作、呼吸困難
被害者:認定患者1909人
死亡者1273人
提訴日:1967年9月1日
被告:三菱油化など5社
判決日:1972年7月24日
判決:患者側全面勝訴(コンビナートを形成している企業は、共同して責任を負わなければならない=共同不法行為)
・イタイイタイ病
被害発生地域:富山県神通川流域
症状:骨がぼろぼろになり、「イタイイタイ」と言って亡くなる
被害者:認定患者187人
死亡者179人
提訴日:1968年3月9日
被告:三井金属工業
判決日:1972年8月9日
判決:患者側全面勝訴(鉱山から流れるカドミウムを原因とした)
・水俣病
被害発生地域:熊本県水俣湾周辺
症状:新潟水俣病と同じ
被害者:認定患者1775人
死亡者1223人
提訴日:1969年6月14日
被告:チッソ
判決日:1973年3月20日
判決:患者側全面勝訴(チッソ工場排水の有機水銀と水俣病発病との因果関係は肯定できる)
新しい公害
現在、前述の公害以外にもさまざまなことを原因とする新たな公害が広がってきている。
・ハイテク汚染
有機溶剤(トリクロエチレン)など先端産業から発生する汚染のことである。金属加工・半導体の洗浄剤として広く使用されているが、これを地下に流すため、地下水の汚染につながっている。また、IT(情報技術)生産の増大にともない、IT公害とよばれる現象も広がっている。
・食品公害
食品の加工の段階で、保存料・合成着色料・発色剤・酸化防止剤などが使用されているが、これらの食品添加物や残留農薬を原因とした公害のことである。森永ヒ素ミルク事件・カネミ油症事件などがある。
・薬品公害
製薬会社などが安全性を十分に確認せずに薬を製造・販売したため、その副作用により発生した公害のことである。スモン事件・サリドマイド事件・薬害エイズ事件・薬害肝炎事件などがある。
公害の防止と対策
・公害対策基本法(1967年)
公害対策の憲法といわれる法律。公害の定義、事業者・国・地方公共団体の責務、環境基準などが明記されている。
・環境基本法(1993年)
公害対策基本法や自然環境保全法(1972年)に代わって、環境政策全体に関する基本方針を示すために制定された法律のことである。従来、バラバラに行われていた国・地方公共団体・事業者・国民などの各主体の協力と参加が不可欠という立場から、環境基本計画に基づく環境行政の総合的推進を規定している。
・環境アセスメント
開発行為を行う場合、それが自然環境に与える影響を事前に調査・予測・評価することである。1997年に制定された環境アセスメント法に基づき、調査項目に関して自治体や住民の意見を反映させることになったが、アセスメント自体を各事業の主務官庁が行い、評価するなど不十分な点も多い。
・悪臭防止法(1971年)
悪臭による環境汚染から生活を守るための法律。アンモニア・メチルメルカプタン・硫化水素など12種類を規制物質としている。
・水質汚濁防止法(1970年)
河川・海洋の水質保全のための法律。①排水に国が一律の基準を設け、都道府県知事に上乗せ基準を設ける権限を与える②知事に排水停止と処罰権を与えるなどが規定されている。
・大気汚染防止法(1968年)
ばい煙の排出量の規制、自動車の排気ガスの許容量などを規定している。また、都道府県知事は大気汚染を常時監視する義務があり、公害発生企業はその損害賠償義務を負う。
・騒音規制法(1968年)
工場や建設現場などに関する規制と、市町村長への改善命令権の付与、和解の仲介制度などについて定めている。1971年には、地域全体への騒音基準も定められ、違反者には罰則規定もある。
・公害健康被害補償法(1973年)
公害病の疾患の内容とその発生地域を指定し、救済の対象とすることを定めた法律である。
・公害罪法(1970年)
事業活動に関わる公害を生じさせた者を処罰する。故意の場合は3年以下の懲役または300万以下の罰金。過失の場合は、2年以下の懲役または200万以下の罰金。不遡及の原則から、過去の例は訴追されない。
・公害防止条例
都道府県単位で制定された公害防止のための条例。公害関係法の基準よりも厳しい場合がある。
・汚染者負担の原則(Polluter Pays Principle : PPP)
公害発生者に不法行為があった場合、民法の規定に従い補償が可能であるが、法律の規定・基準を守っていても公害が発生する場合がある。その場合、公害の原因に責任ある者が、不法行為に有無に関わらず公害の対策・補償費用を負担するという原則である。
参考・引用文献
浜島書店編集部(編著) 2005 最新図説 現社 浜島書店
用語集「現代社会」編集委員会(編) 2008 用語集「現代社会+政治・経済」清水書院