複数言語教育

出典: Jinkawiki

(版間での差分)

2013年7月20日 (土) 00:32の版

複数言語使用地域・学校における複数言語教育

 まず、複数言語を使用する青少年が居住する地域にある学校教育における複数言語使用生徒に対する複数言語教育と、周囲の生徒に対する外国語=第二言語教育について述べたい。「グローバル」と「ローカル」とを合わせた「グローカル」という造語が生まれる今日、このような「グローカルな」地域は確実に増加しつつある。

 海外帰国生の母語=第一言語は基本的に日本語である。そして海外滞在経験の中で、何がしかの第二言語を習得してきている。海外帰国生で第二言語として英語を身につけているものは、本人も保護者も英語の運用能力維持・発達に熱心であり、その修得レベルはおおむね非常に高い。しかし一方で、母語=第一言語であり国語である日本語の修得レベルは、漢字の数と年齢に見合った構文力という点で同年代の生徒と比べると見劣りがする者が多いのも事実である。したがって、海外帰国生の場合、第二言語運用能力の更なる向上と第一言語である日本語運用能力のキャッチアップが課題となる。そうすることによって、職業生活での使用までをも視野に入れて、海外帰国生の複数言語使用能力の発達を保障することができる。

 中国帰国生の場合、彼らの母語であり継承語たるべき言語は中国語であり、出身地域がほとんど中国東北部であることから、基本的にはいわゆる普通話(標準語)である。彼らは日本に同化することを求められており、また多くの場合それを望んでいる。一般に彼らに対する日本語指導には一定の援助がなされるものの、継承語=中国語の維持・発達には公式の援助はない。ところが一方で、大学の帰国生枠入学試験では中国語の試験が課されることも多い。日本社会は彼らに継承語=中国語能力の維持・発達を求めているのであろうか、求めていないのであろうか。社会から相異なるメッセージが発せられる中で、彼らは自己責任において継承語=中国語に対するスタンスを決定することが求められている。

 英語を身につけている海外帰国生徒との対比で言えば、中国帰国生は中国語が母語=第一言語であるにもかかわらず、中国語の維持・発達に後ろ向きな場合も少なからず見られる。日本社会におけるそれぞれの言語のステータスが大きく影を落としているのであろう。世界の第一経済言語が英語であり、日本における第一経済言語が日本語であるとき、複数言語使用生徒が語学学習にどのようなポートフォリオを組むか、中期的には現実社会における各言語のステータスが与える影響は大きい。一方で、社会における各言語に対する需要を正確に評価・予想することは語学教育・言語政策の専門家にとっても難しいのであるから、短期的には良くも悪くも仮想現実的社会とでもいうべき学校社会における各言語のステータス演出が大きく影響を与えるであろう。

 上記のような複数言語使用生徒の存在はモノリンガルな家庭で育った生徒の外国語学習にとってどのような意味を持つであろうか。もちろん外国語学習に対するモーティベィションの強化など、多様な影響が考えられるであろうが、ここでは外国語学習のパラダイムの転換という観点から考察してみたい。

 ソシュールによれば、言葉(この場合は英語)は諸要素の目録である言語=ラング(langue)と個々人の発話である言=パロール(parole)に区別することができる。日本の外国語教育は文法の修得に力を入れすぎ、4技能の修得、なかんずく聞き話す技能の修得を軽んじているとの批判がよくなされる。すなわち、言語体系である言語=ラング(langue)の修得に力を集中し、言=パロール(parole)の習熟に余り力を割いていないのである。

 言語体系の理解および記憶が必ずしも発話力の向上に即結び付くものでもないことは、現代日本における外国語教育の結果が如実に示しているようである。自由で意向的な創造である言=パロール(parole)の実行力を付けるには、言語体系の理解とはまた異なる学習課程が必要なのである。

 発話力を付けるためには、実際に発話する実践が不可欠である。モノリンガルな環境で育った生徒達の身近に他言語を話す同世代の高校生が居ることは、より自由で意向的な言=パロール(parole)の創造を繰返し促すようである。そしてこの自由で意向的な発話の繰返しこそが、自由で意向的な発話の能力を高めるのである。


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