自然災害2
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単なる自然現象が、人的被害を伴う「自然災害」に発展したり、災害が拡大したりするには、現地の社会条件が大きな影響を及ぼす。 | 単なる自然現象が、人的被害を伴う「自然災害」に発展したり、災害が拡大したりするには、現地の社会条件が大きな影響を及ぼす。 | ||
- | ==巨大地震と火山噴火== | + | ==巨大地震== |
===四川大地震=== | ===四川大地震=== | ||
2008年5月12日、現地時間の午後2時28分、中国四川省の四川盆地北西部で発生した地震。地震の規模を表すマグニチュードの値は、アメリカ地質調査所の解析でMw7.9、中国地震局の発表でMs8.0だった。Mwは、断層運動の解析から得られる「モーメントマグニチュード」で、Msは地表を伝わる地震波から得られる「表面波マグニチュード」である。この地震のエネルギーは、1995年の兵庫県南部地震の約30倍に匹敵する。強いゆれと、頻発した地すべりによって、多数の建物が崩壊した。中国の国営通信社である新華社の報道によると、2008年6月10日の段階で、死者6万9146人、負傷者37万4072人、行方不明者1万7516人におよび、被災者の総数は4616万人にも上るという。地震は、大きく「プレート境界地震」と「プレート内地震」の二つに分けられる。プレートどうしの境界で、プレートが別のプレートの下に沈み込んだり、プレートどうしがぶつかりあったりすることで発生するのがプレート境界地震である。一方、プレートの内部の断層が動くことで発生する地震が、プレート内地震である。断層とは、地震や岩石のずれのことである。中国は、ユーラシアプレートの中にあり、プレート境界が存在しない。つまり、四川大地震はプレート内地震である。通常、プレート境界地震のほうが、プレート内地震よりも地震の規模が大きい。しかし、プレート内地震は震源が地表近くにあるため、兵庫県南部地震のように大きな被害をもたらすことがある。巨大地震に詳しい、東京大学地震研究所の佐竹健治教授は、「四川大地震は、プレート内地震としては最大級のものといえます」と話す。この地震で動いた断層は、発生した地震波の解析から、四川盆地とチベット高原の境界線に位置する「籠門山断層帯」にあるとわかった。圧縮される力によって、一方がもう一方に乗り上げるように動く断層を「逆断層」とよぶ。籠門山断層帯の断層も、この逆断層である。チベット高原と四川盆地の境界で、お互いがぶつかる方向に力がかかっているために、チベット高原側の岩盤が四川盆地側の岩盤に乗り上げている。これに対して引っ張られる力によって一方がもう一方からずり落ちた場合には「正断層」とよび、互いに横向きにずれた場合は「横ずれ断層」とよぶ。こうした断層の中で、過去数十万年の間に繰り返し動いている断層のことを「活断層」という。活断層は、今後も活動する可能性が高い断層だと考えられている。2007年に中国で出版された『中国活動構造図』によると、籠門山断層帯の南西半分は過去10万年ほどの間に動いたことがことが知られ、活動的な断層として分類されている。さらに、2007年に発表された論文でも、籠門山断層帯の中の断層が最近1.5万年以内に活動したと警告している。プレート内地震は、プレート内部の断層の動きによるものである。しかし、そうした断層の動きも、プレートの運動によってひずみが蓄積されることによって引き起こされる。四川大地震も、プレートの衝突によって生じたひずみがそもそもの原因なのだ。籠門山断層帯は、チベット高原の動きを四川盆地のへりで受け止めるような形となっている。そのために、圧縮の力が加わり逆断層になっている。四川大地震のおおもとの原因は、地球規模の大陸の動きにある。中国は決して地震が少ない国ではなく、実はむしろ多い国だと言える。チベット高原などの中国の西半分と、北京の周辺で、マグニチュード6をこえる地震が過去にたびたびおきている。1990年以降に発生し、死亡者を出した地震も、これらの地域に偏在している。とりわけ、北京市から東へ150キロメートルのところに位置する唐山市で1976年に起きた「唐山地震」は、被害が非常に大きかった。マグニチュード7.8だったこの地震では、公式の死亡者が24万2769人にも上った。また中国の西半分では、四川大地震のような巨大な地震が過去に発生している。最近でも2001年に、チベット高原でマグニチュード8.1の地震があった。ただし、山の中でおきたために被害は報告されていない。四川大地震があった四川盆地のすぐ西側でも、1990年以降に二つの大きな地震が発生している。1933年のディエシー地震と松藩地震である。ディエシー地震はマグニチュード7.5、松藩地震ではマグニチュード7.2で、ディエシー地震では、6800人の死者が出た。四川盆地は、1000万人以上が住む成都をはじめ、人口が多い地域である。そのうえ、西側にはチベット高原につながる地震が頻発する地域がひかえている。地震の多い地域と人口の多い地域のちょうど境目にあたる場所に、四川盆地は位置していた。四川大地震の原因となった籠門山断層帯では、30~50キロメートルの幅に三本の断層が並んでいる。地震波の解析から、籠門山断層帯の断層が動いたことは分かった。しかし、どの断層が動いたのかは、現地で確かめる必要があった。静岡大学の林愛明教授は、南京大学の研究者とともに、地震発生二日後の2008年5月14日から現地に入り、24日に帰国するまで調査を行った。地下にある断層が動いて、そのずれが地表まで到達したものを「地表地震断層」とよぶ。地表地震断層のずれを調べたところ、南セグメントで垂直方向に3メートル前後の大きなずれがあり、北セグメントでは垂直方向に5メートル以上ものずれがあることが分かった。さらに地表地震断層から、断層の角度なども調べられた。地震波の解析から推定されていたよりも、右横ずれが少なかったという。地表地震断層は、北セグメントと南セグメントをあわせて最低でも250キロメートルはあり、300キロメートルにも及んでいる可能性がある。 | 2008年5月12日、現地時間の午後2時28分、中国四川省の四川盆地北西部で発生した地震。地震の規模を表すマグニチュードの値は、アメリカ地質調査所の解析でMw7.9、中国地震局の発表でMs8.0だった。Mwは、断層運動の解析から得られる「モーメントマグニチュード」で、Msは地表を伝わる地震波から得られる「表面波マグニチュード」である。この地震のエネルギーは、1995年の兵庫県南部地震の約30倍に匹敵する。強いゆれと、頻発した地すべりによって、多数の建物が崩壊した。中国の国営通信社である新華社の報道によると、2008年6月10日の段階で、死者6万9146人、負傷者37万4072人、行方不明者1万7516人におよび、被災者の総数は4616万人にも上るという。地震は、大きく「プレート境界地震」と「プレート内地震」の二つに分けられる。プレートどうしの境界で、プレートが別のプレートの下に沈み込んだり、プレートどうしがぶつかりあったりすることで発生するのがプレート境界地震である。一方、プレートの内部の断層が動くことで発生する地震が、プレート内地震である。断層とは、地震や岩石のずれのことである。中国は、ユーラシアプレートの中にあり、プレート境界が存在しない。つまり、四川大地震はプレート内地震である。通常、プレート境界地震のほうが、プレート内地震よりも地震の規模が大きい。しかし、プレート内地震は震源が地表近くにあるため、兵庫県南部地震のように大きな被害をもたらすことがある。巨大地震に詳しい、東京大学地震研究所の佐竹健治教授は、「四川大地震は、プレート内地震としては最大級のものといえます」と話す。この地震で動いた断層は、発生した地震波の解析から、四川盆地とチベット高原の境界線に位置する「籠門山断層帯」にあるとわかった。圧縮される力によって、一方がもう一方に乗り上げるように動く断層を「逆断層」とよぶ。籠門山断層帯の断層も、この逆断層である。チベット高原と四川盆地の境界で、お互いがぶつかる方向に力がかかっているために、チベット高原側の岩盤が四川盆地側の岩盤に乗り上げている。これに対して引っ張られる力によって一方がもう一方からずり落ちた場合には「正断層」とよび、互いに横向きにずれた場合は「横ずれ断層」とよぶ。こうした断層の中で、過去数十万年の間に繰り返し動いている断層のことを「活断層」という。活断層は、今後も活動する可能性が高い断層だと考えられている。2007年に中国で出版された『中国活動構造図』によると、籠門山断層帯の南西半分は過去10万年ほどの間に動いたことがことが知られ、活動的な断層として分類されている。さらに、2007年に発表された論文でも、籠門山断層帯の中の断層が最近1.5万年以内に活動したと警告している。プレート内地震は、プレート内部の断層の動きによるものである。しかし、そうした断層の動きも、プレートの運動によってひずみが蓄積されることによって引き起こされる。四川大地震も、プレートの衝突によって生じたひずみがそもそもの原因なのだ。籠門山断層帯は、チベット高原の動きを四川盆地のへりで受け止めるような形となっている。そのために、圧縮の力が加わり逆断層になっている。四川大地震のおおもとの原因は、地球規模の大陸の動きにある。中国は決して地震が少ない国ではなく、実はむしろ多い国だと言える。チベット高原などの中国の西半分と、北京の周辺で、マグニチュード6をこえる地震が過去にたびたびおきている。1990年以降に発生し、死亡者を出した地震も、これらの地域に偏在している。とりわけ、北京市から東へ150キロメートルのところに位置する唐山市で1976年に起きた「唐山地震」は、被害が非常に大きかった。マグニチュード7.8だったこの地震では、公式の死亡者が24万2769人にも上った。また中国の西半分では、四川大地震のような巨大な地震が過去に発生している。最近でも2001年に、チベット高原でマグニチュード8.1の地震があった。ただし、山の中でおきたために被害は報告されていない。四川大地震があった四川盆地のすぐ西側でも、1990年以降に二つの大きな地震が発生している。1933年のディエシー地震と松藩地震である。ディエシー地震はマグニチュード7.5、松藩地震ではマグニチュード7.2で、ディエシー地震では、6800人の死者が出た。四川盆地は、1000万人以上が住む成都をはじめ、人口が多い地域である。そのうえ、西側にはチベット高原につながる地震が頻発する地域がひかえている。地震の多い地域と人口の多い地域のちょうど境目にあたる場所に、四川盆地は位置していた。四川大地震の原因となった籠門山断層帯では、30~50キロメートルの幅に三本の断層が並んでいる。地震波の解析から、籠門山断層帯の断層が動いたことは分かった。しかし、どの断層が動いたのかは、現地で確かめる必要があった。静岡大学の林愛明教授は、南京大学の研究者とともに、地震発生二日後の2008年5月14日から現地に入り、24日に帰国するまで調査を行った。地下にある断層が動いて、そのずれが地表まで到達したものを「地表地震断層」とよぶ。地表地震断層のずれを調べたところ、南セグメントで垂直方向に3メートル前後の大きなずれがあり、北セグメントでは垂直方向に5メートル以上ものずれがあることが分かった。さらに地表地震断層から、断層の角度なども調べられた。地震波の解析から推定されていたよりも、右横ずれが少なかったという。地表地震断層は、北セグメントと南セグメントをあわせて最低でも250キロメートルはあり、300キロメートルにも及んでいる可能性がある。 | ||
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===日本の耐震補強=== | ===日本の耐震補強=== | ||
四川大地震では、建物の耐震構造にも注目が集まった。山間部の村では、耐震構造になっていない木造やレンガづくりの家屋が多く、被害が大きかった。また、都市部の建物でも、耐震構造の不備が問題になった。日本にくらべれば耐震構造に弱い点はあるものの、残っている建物もあり、設計というよりはむしろ施工上の不備のほうが問題だったとみている。また、道路や盛土といった土木構造物の質は、決して悪くなかったという。日本にあるすべての建物のうちおよそ25%は、耐震補強が十分ではないとされているのだ。とくに四川大地震では、学校の校舎の倒壊によって、多くの生徒と教師の命が奪われた。中国では、校舎の耐震基準を強化する方針だという。日本でも、校舎の耐震化の迅速な推進が求められている。日本には、河川が運んだ土砂が堆積してできた地層や埋め立て地など軟弱な地盤、建物の超高層化や過密など、災害に対する弱点がある。不意に襲ってくる地震には、できる限りの備えが必要である。日本でも、さらなる活断層の調査や建物の耐震補強を積極的に進めていくことが求められている。 | 四川大地震では、建物の耐震構造にも注目が集まった。山間部の村では、耐震構造になっていない木造やレンガづくりの家屋が多く、被害が大きかった。また、都市部の建物でも、耐震構造の不備が問題になった。日本にくらべれば耐震構造に弱い点はあるものの、残っている建物もあり、設計というよりはむしろ施工上の不備のほうが問題だったとみている。また、道路や盛土といった土木構造物の質は、決して悪くなかったという。日本にあるすべての建物のうちおよそ25%は、耐震補強が十分ではないとされているのだ。とくに四川大地震では、学校の校舎の倒壊によって、多くの生徒と教師の命が奪われた。中国では、校舎の耐震基準を強化する方針だという。日本でも、校舎の耐震化の迅速な推進が求められている。日本には、河川が運んだ土砂が堆積してできた地層や埋め立て地など軟弱な地盤、建物の超高層化や過密など、災害に対する弱点がある。不意に襲ってくる地震には、できる限りの備えが必要である。日本でも、さらなる活断層の調査や建物の耐震補強を積極的に進めていくことが求められている。 | ||
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+ | ==火山噴火== | ||
+ | ===富士山の噴火=== |
2016年7月26日 (火) 22:21の版
目次 |
自然災害
自然災害
自然災害とは
危機的な自然現象(natural hazard, 例えば気象、火山噴火、地震、地すべり)によって、人命や人間の社会的活動に被害が生じる現象をいう。
日本の法令上では「自然災害」は「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象により生ずる被害」と定義されている(被災者生活再建支援法2条1号)。
単なる自然現象が、人的被害を伴う「自然災害」に発展したり、災害が拡大したりするには、現地の社会条件が大きな影響を及ぼす。
巨大地震
四川大地震
2008年5月12日、現地時間の午後2時28分、中国四川省の四川盆地北西部で発生した地震。地震の規模を表すマグニチュードの値は、アメリカ地質調査所の解析でMw7.9、中国地震局の発表でMs8.0だった。Mwは、断層運動の解析から得られる「モーメントマグニチュード」で、Msは地表を伝わる地震波から得られる「表面波マグニチュード」である。この地震のエネルギーは、1995年の兵庫県南部地震の約30倍に匹敵する。強いゆれと、頻発した地すべりによって、多数の建物が崩壊した。中国の国営通信社である新華社の報道によると、2008年6月10日の段階で、死者6万9146人、負傷者37万4072人、行方不明者1万7516人におよび、被災者の総数は4616万人にも上るという。地震は、大きく「プレート境界地震」と「プレート内地震」の二つに分けられる。プレートどうしの境界で、プレートが別のプレートの下に沈み込んだり、プレートどうしがぶつかりあったりすることで発生するのがプレート境界地震である。一方、プレートの内部の断層が動くことで発生する地震が、プレート内地震である。断層とは、地震や岩石のずれのことである。中国は、ユーラシアプレートの中にあり、プレート境界が存在しない。つまり、四川大地震はプレート内地震である。通常、プレート境界地震のほうが、プレート内地震よりも地震の規模が大きい。しかし、プレート内地震は震源が地表近くにあるため、兵庫県南部地震のように大きな被害をもたらすことがある。巨大地震に詳しい、東京大学地震研究所の佐竹健治教授は、「四川大地震は、プレート内地震としては最大級のものといえます」と話す。この地震で動いた断層は、発生した地震波の解析から、四川盆地とチベット高原の境界線に位置する「籠門山断層帯」にあるとわかった。圧縮される力によって、一方がもう一方に乗り上げるように動く断層を「逆断層」とよぶ。籠門山断層帯の断層も、この逆断層である。チベット高原と四川盆地の境界で、お互いがぶつかる方向に力がかかっているために、チベット高原側の岩盤が四川盆地側の岩盤に乗り上げている。これに対して引っ張られる力によって一方がもう一方からずり落ちた場合には「正断層」とよび、互いに横向きにずれた場合は「横ずれ断層」とよぶ。こうした断層の中で、過去数十万年の間に繰り返し動いている断層のことを「活断層」という。活断層は、今後も活動する可能性が高い断層だと考えられている。2007年に中国で出版された『中国活動構造図』によると、籠門山断層帯の南西半分は過去10万年ほどの間に動いたことがことが知られ、活動的な断層として分類されている。さらに、2007年に発表された論文でも、籠門山断層帯の中の断層が最近1.5万年以内に活動したと警告している。プレート内地震は、プレート内部の断層の動きによるものである。しかし、そうした断層の動きも、プレートの運動によってひずみが蓄積されることによって引き起こされる。四川大地震も、プレートの衝突によって生じたひずみがそもそもの原因なのだ。籠門山断層帯は、チベット高原の動きを四川盆地のへりで受け止めるような形となっている。そのために、圧縮の力が加わり逆断層になっている。四川大地震のおおもとの原因は、地球規模の大陸の動きにある。中国は決して地震が少ない国ではなく、実はむしろ多い国だと言える。チベット高原などの中国の西半分と、北京の周辺で、マグニチュード6をこえる地震が過去にたびたびおきている。1990年以降に発生し、死亡者を出した地震も、これらの地域に偏在している。とりわけ、北京市から東へ150キロメートルのところに位置する唐山市で1976年に起きた「唐山地震」は、被害が非常に大きかった。マグニチュード7.8だったこの地震では、公式の死亡者が24万2769人にも上った。また中国の西半分では、四川大地震のような巨大な地震が過去に発生している。最近でも2001年に、チベット高原でマグニチュード8.1の地震があった。ただし、山の中でおきたために被害は報告されていない。四川大地震があった四川盆地のすぐ西側でも、1990年以降に二つの大きな地震が発生している。1933年のディエシー地震と松藩地震である。ディエシー地震はマグニチュード7.5、松藩地震ではマグニチュード7.2で、ディエシー地震では、6800人の死者が出た。四川盆地は、1000万人以上が住む成都をはじめ、人口が多い地域である。そのうえ、西側にはチベット高原につながる地震が頻発する地域がひかえている。地震の多い地域と人口の多い地域のちょうど境目にあたる場所に、四川盆地は位置していた。四川大地震の原因となった籠門山断層帯では、30~50キロメートルの幅に三本の断層が並んでいる。地震波の解析から、籠門山断層帯の断層が動いたことは分かった。しかし、どの断層が動いたのかは、現地で確かめる必要があった。静岡大学の林愛明教授は、南京大学の研究者とともに、地震発生二日後の2008年5月14日から現地に入り、24日に帰国するまで調査を行った。地下にある断層が動いて、そのずれが地表まで到達したものを「地表地震断層」とよぶ。地表地震断層のずれを調べたところ、南セグメントで垂直方向に3メートル前後の大きなずれがあり、北セグメントでは垂直方向に5メートル以上ものずれがあることが分かった。さらに地表地震断層から、断層の角度なども調べられた。地震波の解析から推定されていたよりも、右横ずれが少なかったという。地表地震断層は、北セグメントと南セグメントをあわせて最低でも250キロメートルはあり、300キロメートルにも及んでいる可能性がある。
被害を大きくした原因
地震の規模が大きかったことに加えて、地震が起きた地域が急な地形だったため被害が大きかった。各地で地すべりが頻発したことは、四川大地震の特徴だ。調査中にも余震による地すべりが多かったという。四川盆地の西側には、山岳地帯が広がっている。とくに四川盆地との境目には、5000メートルをこえる山々がそびえ立っていて、その高低差は非常に大きい。四川盆地の標高は、500~1000メートルである。四川盆地のへりから50キロメートルほど山岳地帯に入れば、標高は5000メートルを超える。このような急こう配のため、もともと地すべりがおきやすいところだったのだ。地すべりは、各地で建物をのみこみ、崩壊させた。さらに、直接の被害に加えて、被災者に新たな災害の危険までもたらした。深い谷の多い被災地域では、土砂が川をせき止めてつくった「せき止め湖」が30以上も生まれたのだ。2004年の新潟中越地震でも、新潟県山古志村で同様に土砂崩れによるせき止め湖が生まれて、集落が水没した。このようなせき止め湖が決壊すれば、下流域は洪水や土石流にさらされ、さらなる被害が発生する。四川地方でおきた過去の大地震である1933年のディエシー地震と1976年の松藩地震でも、せき止め湖が発生していた。とくにディエシー地震では、せき止め湖の決壊による洪水が発生し、その結果、2500人の死亡者が出た。四川地震で生じた、最大で130万人に被害がおよぶと予測された唐家山のせき止め湖では、排水路を急遽つくるなどの措置が行われた。
日本の耐震補強
四川大地震では、建物の耐震構造にも注目が集まった。山間部の村では、耐震構造になっていない木造やレンガづくりの家屋が多く、被害が大きかった。また、都市部の建物でも、耐震構造の不備が問題になった。日本にくらべれば耐震構造に弱い点はあるものの、残っている建物もあり、設計というよりはむしろ施工上の不備のほうが問題だったとみている。また、道路や盛土といった土木構造物の質は、決して悪くなかったという。日本にあるすべての建物のうちおよそ25%は、耐震補強が十分ではないとされているのだ。とくに四川大地震では、学校の校舎の倒壊によって、多くの生徒と教師の命が奪われた。中国では、校舎の耐震基準を強化する方針だという。日本でも、校舎の耐震化の迅速な推進が求められている。日本には、河川が運んだ土砂が堆積してできた地層や埋め立て地など軟弱な地盤、建物の超高層化や過密など、災害に対する弱点がある。不意に襲ってくる地震には、できる限りの備えが必要である。日本でも、さらなる活断層の調査や建物の耐震補強を積極的に進めていくことが求められている。