ALS

出典: Jinkawiki

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)


概説  脊髄、脳幹や大脳皮質の運動ニューロンのみが選択的に障害される病気を運動ニューロン病と総称している。この中で最も多いのが筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。有病率は10万人に5人程度で、難病に指定されている。女性よりやや男性に多く、中年以降に発症する。遺伝を示すことはほとんどない。まだ病気の正確な原因はわかっていないが、予後を改善する薬も開発されている。


症状  片側の手指の細かな運動の障害が初発症状となることが多く、その後、手の筋力低下や筋萎縮が認められるようになる。手の筋萎縮は母指球(親指の付け根の筋肉でもりあがったように見える部分)や小指球(小指の付け根の筋肉)にはじまることが多く、上腕筋や肩関節周囲の筋肉の萎縮は遅れて出現する。手の甲の骨間筋の萎縮も初期に生じ、あたかも骸骨(がいこつ)の手のような印象をあたえる。  筋萎縮とともに線維束性れん縮(筋肉がピクピクと自然にれん縮する現象)が出現するようになる。数週あるいは数カ月後に反対側の上肢(手)にも同様の症状が現れる。その後、筋力低下や筋萎縮は下肢(足)にも広がっていく。脳神経領域も障害され、言語障害や嚥下(えんげ)困難も出現する。舌の筋萎縮と線維束性れん縮は特徴的である。さらには呼吸筋も障害され、呼吸困難のため人工呼吸器が必要となってくる。  筋萎縮や線維束性れん縮は、脊髄前角や脳幹の運動ニューロンが障害されたために生じる。ALSではこの他、錐体路(すいたいろ)と呼ばれる大脳皮質の運動ニューロンから脊髄や脳幹の運動ニューロンに命令を伝達する神経路も障害が起こる。このため深部腱反射が亢進(こうしん)し、バビンスキー反射という異常反射が出現する。  ALSでは運動系のみ選択的に障害され、知覚障害はまったく出現しない。これが診断上非常に重要になってくる。知覚障害を認めれば、ALSの診断はつけられない。ALSでは直腸や膀胱の機能がよく保たれる点も特徴的である。また眼球運動を支配する外眼筋も障害されにくく、褥瘡(じょくそう)の発生がまれであるといった特徴もある。  以上が典型的な発症様式である。しかしALSの発症には様々な例外もある。下肢から症状がはじまる例や、手より先に体幹(たいかん)に近い筋肉が萎縮することもありある。横隔膜の筋力低下により、早期に呼吸不全を呈する症例も存在する。また片側の手足のみの障害で片麻痺(かたまひ)類似の症状が認められた例も報告されている。なお線維束性れん縮は正常の筋肉にもしばしば認められる。線維束性れん縮のみがALSの初発症状となることは決してない。


診断  ALSと診断する上で、上位運動ニューロンの障害を示す錐体路(すいたいろ)徴候(深部腱反射の亢進やバビンスキー反射など異常反射の出現)と下位運動ニューロン障害により生じる筋萎縮、筋力低下、線維束性れん縮などが認められることが必要である。さらに症状が進行することが確認されなければならない。他覚的な感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、小脳症状、認知症(痴呆)などが存在すれば、ALSとは診断できない。ALSはまだ真に有効な治療がないため、次のような治療可能な疾患を除外することがとくに必要である。変形性頸椎症、頸椎後縦靭帯骨化症、腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症などの脊柱疾患は、レントゲン撮影やMRIにより除外可能である。多発ニューロパチーや多発性筋炎も鑑別の対象になるが、いずれも特有の徴候から除外は容易である。また脳幹や脊髄の腫瘍も問題となることがあるが、MRIにより診断できる。


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