フランスの高等教育制度

出典: Jinkawiki

(版間での差分)

2009年1月30日 (金) 13:52の版

大学(université)と高等専門学校(grandes écoles) 大学入学資格(baccalauréat)を得た者は、その先に大雑把に二つの選択肢がある。一つは大学、もう一つは高等専門学校である。 前者と後者では社会的位置づけも入学後の有り様も異なっている。

大学 戦後、大学組織が最も大きく変化したのは、1968 年の五月革命の影響で生まれた1969年の高等教育基本法の時であると言える。多くの大学がこの頃に再編成された。以後、何度かの制度改革がなされたが、最近のトピックは「ボローニャ・プロセス」に沿った「LMD」の導入である。

「ボローニャ・プロセス」と「LMD」 ヨーロッパにおいては現在、様々な分野で圏内のハーモナイゼーションを行っている。1999 年ボローニャにおいてヨーロッパの教育担当大臣による会合が開かれ、高等教育制度のハーモナイゼーションについて基本的な合意(2010 年のヨーロッパ高等教育圏創設)がなされ、共同宣言が採択された。これが「ボローニャ宣言」である。以後、実現のために何度か会合がもたれ、基準や指針が作成された。この一連の活動こそ「ボローニャ・プロセス」と呼ばれるものである。この「ボローニャ・プロセス」において提唱されたものの一つが標準的な学位構造「LMD」の整備である。「LMD」は3 年間の学士(Licence)、2 年間の修士(Master)、3 年間の博士(Doctorat)から構成されている。最終的に博士号を得るには8 年かかる計算となる。

フランスにおいてもそれまでの「複雑な」学位構造から「LMD」への転換を図っており、既にいくつかの大学で導入済みであり、更にそのことを「売り」にしているところもある。学生側から見ると、(少なくとも)ヨーロッパのどこでも通用する(そして質保証もされている)学位であり、就職でも有利であると思われるからである。大学側も「LMD」を売りにして、後述の単位互換と併せて、ヨーロッパ中から学生を集めようとしている。

大学入学 大学入学資格さえ得ていれば、無試験で希望の大学、学部に入ることができるというのが原則である。しかし近年これが揺らいでいるというのも事実であり、実際には学部によっては何らかの条件を付して入学者を選抜するようになってきている。

費用 登録料のみで、授業料はない。また、奨学金制度が充実しているため、日本と比較すると恵まれているように思われる。このあたりの充実振りは、フランスの伝統的教育・文化政策の賜物と言えるのではなかろうか。

単位互換 地域内の大学による単位互換も当然存在する。前述の「ボローニャ・プロセス」において、検討された事項の一つにヨーロッパ単位互換制度(ECTS:European Credit Transfer System)をベースとした単位互換の推進がある。ECTS とは、単位換算の標準化等により、履修単位の認定を容易にし、単位互換を 勧めていくシステムであり、1988 年にエラスムス計画(ERASMUS:European Community Action Scheme for the Mobility of University Students)の一つとして設立された。

このエラスムス計画そのものがヨーロッパ内における教員・学生の流動化を促進し、人的交流を発展させようという目的から1987 年に生まれたものである。1995 年以降は、より包括的なソクラテス計画(Socrates なお今は2 期目に入っている)の一部になった。フランスの大学もこのECTS に基づき単位互換を行っている(なお、どの程度の単位を認定するかは各大学に任されている)。

研究体制 研究の進め方はチームで行うことが多い。このチームには、大学の教員や学生以外にもフランス国立科学研究センター( CNRS : Centre National de la Recherche Scientifique)といった研究機関の研究者が参加することが珍しくない。理由はいろいろ考えられるが、資金面においても、大学教員は配分される研究費以上にこのような研究所との共同研究に依存しているということも一因であろう。一つの研究棟に大学教員と研究所の人間が各々研究室を持ち、同じチームで研究したり、別チームでも助け合うという風景がありふれている国なのである。

高等専門学校 フランスには大学以外にも高等教育機関が存在する。その代表格が高等専門学校である。フランス国内に約700 ほどあるが、その内容、所轄官庁等様々である。よく知られているものとしては、理工科学校(École polytechnique)、国立行政学院(École national d’administration)、そして今回の訪問先でもあった高等師範学校(École normale supérieure)を挙げることができる。高等専門学校に入学するためには、大学入学資格を取得した後、2~3 年の準備クラスを終え、入学試験を経る必要がある。授業料を徴収したりするケースもあるが、逆に学生に対して公務員扱いで給与を支払うケースもある。 数ある高等専門学校の中でも名門高等専門学校(前述の国立行政学院等)は、まさにエリート養成のために存在している。このことが階級社会の定着化を招いているという批判もあるが、それを抜きにしても(大学側から見ても)教育・研究環境は恵まれているようである。大学とは単位互換制度等で人的交流をしており、全く閉じた世界であるというわけではない。

フランスの留学事情 毎年約25万人、世界第3位の留学生受入数を誇るフランスでは政府を挙げて様々な取り組みを行っている。「エリート学生の獲得と動きは国の競争力と経済成長に大きく影響する」との考えのもと、世界各国から優秀な学生を集め、文学・芸術・社会科学・理工学・医学等、各分野のエキスパートを排出するのみならずフランス語・フランス文化を世界に広めるための一手段としても積極的な留学生の獲得・支援に乗り出している。

財政支援 学費がほとんど無い(通常は年間登録料200~400 ユーロ〈≒3~6 万円〉のみ)フランスでは国内総生産に占める教育への出費も約1,000 億ユーロ(≒15 兆億円)で全体の6%と非常に高く、世界でも韓国、米国、北欧諸国などに次いで第5 位となっている(日本は4.6%で13 位)。これにより、政府は留学生受け入れのため各種奨学金制度の充実、単位制度(前出のLMD など)や大学校舎の整備などを行っている。フランスでは「金銭の有無が知識会得のための障害となってはならない」という国の信念により学生は手厚く保護されていると言える。


参考:フランス高等教育制度とは


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