ノーム・チョムスキー2
出典: Jinkawiki
エイヴラム・ノーム・チョムスキー(Avram Noam Chomsky, 1928年12月7日 - )は、言語学者、思想家。マサチューセッツ工科大学教授。言語学者・教育学者キャロル・チョムスキーは彼の妻である。1961年よりマサチューセッツ工科大学教授。1950年代中期より、一連の著述によって文法学界に革命をもたらしたといわれている。1988年(昭和63)認知科学分野での貢献により第4回京都賞(基礎科学部門)を受賞。
ノーム・チョムスキーの思想
ノーム・チョムスキーは一九二八年、ユダヤ系移民の子としてフィラデルフィアに生まれた。父親は帝政ロシアの徴兵を逃れて一九一三年に渡米した中世ヘブライ語の研究者であり、シナゴーグ神学校の校長をつとめていた。母親もヘブライ語の教師という家庭環境の中で、子供たちはパレスチナへの入植と結びついたヘブライ文化復興運動の影響にどっぷりつかって育った。もの心つくようになって、チョムスキーは自分の考えが左派シオニストの少数派に近い(当時そこで主流だったボルシェビズムを嫌ったため参加はしていない)ことを悟る。以来ずっと、その基本的な立場に変化はないようだが、彼が抱くようなシオニズムは現在ではむしろ「反シオニスト」とみなされる。「シオニスト」の意味するところが、だいぶ変わったのだ。
「一九四二年十二月までは、シオニズム運動はユダヤ国家というものを正式に約束していたわけではありませんでした。一九四八年五月に国家が建設されるまでは、シオニズム運動の内部にもユダヤ国家に対する反対が存在していました。後にはプロパガンダのために、『シオニズム』いう概念は非常に狭いものに限定されていきました。一九七〇年代には、イスラエルは領土拡張とアメリカへの依存を、安全と地域への一体化よりも優先することを選択し、シオニズムの概念は、事実上、イスラエル政府の政策を支持することと同義なものへと狭められました」とチョムスキーは述べている[注 1]。この現代の用法からすれば、「ユダヤ国家」を容赦なく批判するチョムスキーは「反シオニスト」であり、「病的なユダヤ人の自己嫌悪症」だとして猛烈に攻撃される。これに関しては、一九七六年以降にイスラエル支持に鞍替えしたような北米の知識人層の日和見主義という問題が大きいようだ[注 2]。本書の最終章はそのようなアメリカ国内の言論界の状況を批判したものであり、じっさい、この問題こそチョムスキーがもっとも重視し、一貫して鋭く批判してきたものはないかと思う。
チョムスキーの思想のいまひとつの柱はリバータリアン社会主義だが、これも幼い頃の環境が大きく影響しているようだ。彼の幼年時代は合衆国の大恐慌時代にあたり、ユダヤ系移民社会は不況の直撃を受けていた。チョムスキーの両親は中産階級だったが、親戚たちは労働者階級に属していた。ニューヨークに彼らを訪ねた幼いチョムスキーは、失業と貧困の中にありながら高い知識水準と欧州直輸入の社会主義の伝統を育むユダヤ系移民たちのコミュニティから大いに刺激を受け、また一九三六年に起こったスペイン内乱からも終生におよぶ大きな衝撃を受けた。アナルコサンディカリズムへの傾倒は、やがてキブツ運動の理想と重ね合わせられる。実際、大学生活に幻滅していた頃に一時イスラエルに渡ってキブツで働くという体験もしており、本気で移住を考えていた時期もあるようだ。チョムスキーは今もしばしば「観念的な」理想と限定したうえでリバータリアン社会主義を語るが、彼が初期のイスラエルに投影していたのはこうした理想社会の実現の可能性だったようだ。
生成文法
変形生成文法、または変形文法ともいう。広義には、1950年代の半ば、チョムスキー(N.Chomsky)によって創始され、以後、世界の言語学界に大きな影響を与えつづけてきた新しい言語理論をさす。狭義には、生成文法というジャンルに入るいくつかの文法理論のうち、変形規則と呼ばれる文法規則をその重要な構成要素とするものをいう。
ある特定の言語の文法をモデルとして、それをすべての言語にあてはめようとする、伝統的な「規範文法」ヘの批判から出発、発展した「構造言語学」は、1950年代のアメリカで完成度の頂点に達した。「構造言語学」の特色は、直接観察が可能な「発話」を資料として、言語を関連した一つの全体としてとらえ、一定の内部構造をもつ体系と考える点にある。こうした考え方に立って、まず言語の音声面の研究が発達したが、文法面では、語の構造を対象とする形態論と、文の構造を対象とする構文論とが発展した。しかし、「構造言語学」では、外在的言語の客観的記述が重視されるあまり、意味とか言語能力のような主観的側面は無視されがちであった。この限界を超える言語理論として創始されたのが、チョムスキーの新しい言語理論である。
【言語観】チョムスキーによれば、言語の本質は人間の主体的な創造的心理能力にある。これは、明らかに「構造言語学」の言語観と対立する。チョムスキーによれば、ある言語とは、文法にかなった無限に多くの文の集合であり、人は無限の新しい文を作り出す言語能力をもち、その能力の内容をなす、〈この集合に属する文のみを生成し、非文法的な文は生成しないような、文生成の規則の集合〉が文法である。この言語能力は、理想的な話者のもつ能力であって、種々な条件によって制約されつつ生成する個別的・具体的な話者の言語運用とは区別される。生成文法の研究の目標は、この言語能力の内容としての文法の解明にある。
【標準理論】チョムスキーは、上記の言語観に立って、生成という概念と変形という規則を用いる新しい言語理論を『文法の構造』(1957)で提唱し、この理論をさらに発展させて『文法理論の諸相』(1965)では「標準理論」を提示した。この標準理論はさらに修正され、拡大標準理論・修正拡大標準理論へと発展している。
標準理論では、言語は図のように組織化される。まず、句構造規則をもつ範疇部門と、これによって生成された範疇記号列に揮入される語彙項目の集合である語彙目録とによって文の「深層構造」が生成され、これが意味部門にインプットされることによって意味解釈が付される。深層構造はさらに変形部門において変形規則が適用され、要素の付加・削除・並び替えなどの変形をへて「表層構造」が生成される。表層構造は音韻部門において音形を付され、発音しうる形が与えられる。こうした深層構造から表層構造への生成・変形の規則が広義の生成文法である。
【発展と影響】標準理論の確立後、変形規則や意味部門を中心に論議が分かれ、「生成意味論」「格文法」「機能文法」等々の理論が提唱されてきている。また、チョムスキー自身も、自己の理論を修正・発展させてきている。また言語能力・言語習得能力の考え方は、「心理言語学」の飛躍的な発達をもたらした。さらに「言語科学」や「情報科学」などにも大きな影響を与えている。
参考文献
*http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC/
*http://www.tabiken.com/history/doc/K/K068L200.HTM
*『中東 虚構の和平 イスラエル・パレスチナ問題とチョムスキー』 中野 真紀子 著 講談社