フリードリッヒ・フォン・シラー

出典: Jinkawiki

2010年1月28日 (木) 15:47 の版; 最新版を表示
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フリードリッヒ・フォン・シラー(1759-1805)は1759年11月10日にライン川支流のネッカー河畔のマルバッハで生まれ、1805年5月9日にワイマルで亡くなった。彼は、最も偉大なドイツ人詩人の一人であっただけでなく、偉大な教育者でもあった。

その生涯と創作活動の全体を通じて常にシラーを動かした重要関心事は同時代の人々の教育だった。その点で何より彼の心の中にあったのは、その目標の実現において美と芸術はどのような役割を果たすことができるのかという問いであった。

美と芸術は人間に教育的作用を与えることができるのだろうか。それは、シラーの様々な美学論文のなかで論じられている教育学的根本問題であった。


美と芸術による教育者としてのシラー

1782年にシラーは雑誌『ヴュルテンベルクの文学総覧』第1号に論説「現在のドイツの劇場について」を発表した。そこで、シラーは芸術の価値が、宗教や道徳の価値と同じであるとしている。彼にとって、芸術は民族の教師であった。芸術の助けを得て、詩人は人々に働きかけることができ、その結果人々は教養を高めるのである。その見解をシラーは芝居についての見解の中ではっきりと主張した。

「芝居は気晴らしのためのものではないし、『あくびをするような退屈に活気を与え、楽しくない冬の夜を欺き、甘ったれた怠け者(たち)の大群』を楽しませるためのものではない。また、人生の実際を反映させることも芝居の課題ではない。宇宙に関する考察において、人間は大きな宮殿の前に立ち、そして途方もなく巨大な建造物の一部分しか眺めることができない蟻に等しいのである。なおかつ人々は全体の均整を認識できず、そしてかなり奇妙に見えるのである。したがって詩人は、小さなものの場合にしばしば見られる調和を活用しつつ、大きなものにおける調和を提示するために、人々に世界を縮小して示すべきである。そのようにすれば、人々は生活の関連を認識し、そして全体における個別の意義を知ることができる。」

シラーはこのように考えた。

しかし、シラーは何よりも人々を道徳的に善くしたかったのである。しかしその論文では、私たちはまだ、その目標を達成することが本当に可能なのか、というシラーの疑念を感じることができる。というのは、経験はあまりにもしばしば芝居の正反対の作用を、つまり人々を道徳的に悪くする作用を示しているからである。たとえば俳優が観客の心を惑わすようにしか働きかけないときに。


[舞台を道徳的施設であると考える]

論説「舞台を道徳的施設であると考える」によって、シラーは1784年にも芸術の意義に関する彼の考察を継続した。彼は舞台が宗教よりも一層強く人間の感覚に作用し、その人の教養を拡大するという見解を持っていた。そしてその点に舞台が擁護される理由があるとされているのである。芸術は法律に比べても一層力強いのである。

「いかなる道徳も教えられず、いかなる宗教も信仰されず、いかなる法律も存在しないとき、それでもなお女神メディアはわたしたちをみる」

芸術の作用を、シラーは芸術には何ができるのかを考察することにより明らかにしている。それによれば、芸術は人に教え、そして人のために悪徳と徳を、幸福と悲惨を、愚かさと賢明さを、生き生きとした描写のなかに分かりやすく具現する。さらに芸術は、世俗的権力が届かないところで清廉潔白な裁判官であると述べられている。

「私法がお金のために分別を失い、そして悪徳に雇われて贅沢をするとき、正義の無力をあざ笑う権力者達の忌まわしい行為及び人間の畏怖がお役所の腕を縛っているとき、舞台は剣と天秤を受け取り、そして恐怖の判事席の前で悪徳を八つ裂きにする」

舞台は人々の中に、例えば有益な恐怖感のような強い感情を引き起こすことができ、そして法律や道徳よりも相当に深く影響する。芸術は高潔な人々を手本とし、卑劣な犯罪の提示によって高潔な人々の心を揺さぶる。さらに芸術は人々の愚かさを、冗談や風刺によって嘲笑する。最後にシラーは、さらに次のことを芸術の影響範囲に加えている。すなわち、芸術は人々に実践的な知恵を伝達し、そしてまた心理学的課題を果たすということを。芸術派人間の心の最も深いところで起こることを解明する確かな鍵である。

なるほどシラーは芸術が、それが行使するあらゆる作用にもかかわらず、人間を良くできるかどうか、まだ疑っている。しかし芸術は確かに人々に様々な悪徳を気づかせる。芸術の助けを得て、人間はしばしば見えにくい悪を認識することができる。人間が早い時期に様々な誤謬や欺瞞を洞察すれば、その人間は「人生の生業」もまたその運命、その計画とともに、より早く把握することができる。とにかく芸術は、人間をより公正とすることができる。その結果、人間は自分の不運ですら心穏やかに判断することができるのである。

参考文献

ユルゲン・シェーファー著 船尾日出志・船尾恭代監修 久野弘幸・澤たか子編訳 『教育者シラー――美と芸術による人間性の獲得』 学文社 2007年


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