アスペルガー症候群
出典: Jinkawiki
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特徴
①知的な遅れ、言葉の遅れが無い
アスペルガー症候群は、医学的には自閉症などと同じ発達生涯のグループに属し、どちらも「広汎性発達障害」とよばれ、似ている部分が多くある。 自閉症には、「社会性の特徴」「コミュニケーションの特徴」「想像力の特徴」の3つの特徴があり、これはアスペルガー症候群にもみられるものである。 アスペルガー症候群が自閉症と違うのは「言葉の遅れ」がみられないという点である。自閉症の子どもは子どもたちの大多数(定型発達)の子より言葉の発達が遅れることが特徴だが、アスペルガー症候群の子は、大多数の子と同じように1歳前後で単語が出て、2歳前後になると二語文を話すようになるといわれている。また、自閉症は約8割で知的な遅れを伴うが、アスペルガーではほとんど知的な遅れはない。
②人とうまくかかわれない
子どもは、集団生活を送るようになると、友だちとのかかわりのなかで、暗黙のルールや人との付き合い方を学び、社会性を身に付けていく。アスペルガー症候群の子は、「社会性の特徴」があり、周囲の状況をよんだり、暗黙のルールや常識を理解するのが苦手である。相手と視線を交わしたり、相手の気持ちを推し量ることも可能ではない。そのため、遊びのルールを守らなかったり、遊びの輪に加われないということもしばしば起こるが、本人は他人の気持ちを理解できずに行動しているだけなので、まったく悪気はない。
③不自然な話し方をする
アスペルガー症候群の子は、同年代の子と同じように、あるいはそれ以上に巧みに言葉を使う。しかし、よく聞いてみると言葉の使い方が独特で、「コミュニケーションの特徴」があることがわかる。 例えば、家族にも丁寧語を使ったり、反対に目上の人にくだけた口調で話したりする。また、不自然なまでにことわざや慣用句を多用するが、使っているほどには言葉の意味を理解していないこともある。また、「行く・来る」「いってらっしゃい・おかえり」のような、立場によって変わる言葉が理解しにくいことも特徴である。
④ものごとの流れを把握することが困難
「想像力の特徴」があり、ものの概念やものごとの流れを把握したり、これからどうなるのかといったことを想像するのが苦手である。 幼児期にするままごとやごっこ遊びも、定型発達の子と少し異なる。それは、おもちゃなどを何かに見立て、ストーリーをつくっていく想像力が乏しいためだと考えられる。 また、予定外のことが起こると、臨機応変に対応することができず、混乱し、不安になる。同じ時間に、同じ手順で、同じ作業を、ということに強くこだわり、柔軟に対応できないことも、想像力の欠如と関係がある。
タイプ
アスペルガー症候群には特徴的な症状があるが、その現れ方は一人ひとり異なる。ローナ・ウィングは、アスペルガー症候群や自閉症の人たちの社会とのかかわり方を観察し、「積極・奇異型」「受身型」「孤立型」という3つのタイプに分類した。 タイプは固定されておらず、成長するに従って、他のタイプに変化していくこともある。こうしたタイプ分けは、その子の行動パターンを知る目安になり、適切な接し方をする上で役立つ。
1)積極・奇異型
アスペルガー症候群で最も多いタイプ。社会とのかかわりがいちばん積極的なタイプで、このタイプの人は、初めて会う相手にも個人的なことを矢継ぎ早に質問して戸惑わせたりする。友だちのように話しかけるなど、目上の人にもなれなれしく接し、自分の関心のあることや好きなことについて、一方的に延々と話し続けたりすることもある。 一見、社会性があるように見えるが、その場に不適切なことや、相手に対して失礼になることもかまわず口にして、「変な人」と思われることもある。
2)受身型
社会にかかわろうとする気持ちはあるが自分からはあまり動かず、自分から人とかかわる積極性はないものの他の人との接触を避けることはなく、素直に受け入れる。小さい頃は、おとなしく従順なので、周囲から誘われて遊びの輪に加わるが、大きくなると目立たない子として、放って置かれることもある。 問題行動は少ないタイプだが、人の要求をまるごと受け入れてストレスを溜め込んだり、いじめの対象にされることがあり、その反動が思春期以降に現れることもある。
3)孤立型
積極的に他人とかかわらず、集団の中にいても、まわりに人がいないかのように振る舞うことがあり、ひとりで遊ぶことを好む傾向がある。 このような子も、たとえば棚の上のものを取ってほしいときなど、自分の欲求を他人に満たしてもらいたいときには、人に接することもある。 しかし、孤立型の子にとってはひとりでいるほうが落ち着き、安心して過ごせる。こうしたタイプは、比較的幼いときに多く、成長とともに別のタイプに変わることがある。
アスペルガー症候群と高機能自閉症
高機能自閉症は広汎性発達障害のなかの自閉性障害と診断されたもののうち、IQ70以上のものを指す。そして、自閉性障害とは「対人的な相互反応の障害」「相互的なコミュニケーションの障害」「限定的、反復的な興味・活動の様式」があるもので、3歳までに少なくともこれらの一つに遅れあるいは異常が生じた場合に診断される。 一方、アスペルガー症候群は、自閉性障害の3領域のうち、コミュニケーションの障害が削除され、さらに3歳までに言語発達などに遅れがないものとされている。両者は、臨床的には区別が難しく、ほとんど同じまたは著しく類似した支援を展開するため、診断名を分けることの疑問視もある。
教育支援・療育
発見
アスペルガー症候群は知的な発達に遅れが認められないので、周囲が障害に気づくことが遅れるのが少なくない。中学生や高校生になって初めて問題視されたり、大学や社会に出てから対人関係の問題から医療機関で判明する場合も多い。 幼児期の発見には大きく二つのタイプがある。一つに、3歳児健康診査の前後で二つめは、保育所の幼児クラスや幼稚園などに入園してからである。また、「気になる子ども」であるとしながら、明確な診断や相談を受けず、小学校に入学してから発見されるケースも少なくない。近年は、広汎性発達障害の認識や理解が保育・教育現場で進み、幼児~児童期に発見されることが著しく多い。
幼児期の療育
健常児と同様に、幼稚園や保育所に所属して通常の保育・教育を受ける子どもがほとんどである。そして、乳幼児に発見されて診断や判別を受けた子どもは、他の発達障害児や知的障害児と同様に、地域の「発達支援センター」「障害者福祉センター」「保健センター」などの療育も同時に受ける。具体的な指導は、心理療法、言語療法、作業療法、音楽療法、ソーシャルスキルトレーニングなどである。
学校での教育支援
通常学級にいるアスペルガー症候群の子どもには、アセスメントに基づき、個別に対応してあげながら、集団活動では配慮しながら指導する。認識に偏りはあるがIQは標準値を示し理解力はあるので、健常児と同じ集団で生活や学習を進める。したがって、特別な指導法を導入することは無理があることが多く、通常学級に在籍しながら特別支援教室に通級したり、巡回指導を受けたりする。 通常学級での指導をより効果的にその子どもの実態にあった支援を展開するために、教師は「個別の支援計画」や「個別の指導計画」を立案して、教育支援にあたる。
予後
早期に診断され、早期から障害児教育や教育支援を受けている者の方が、後年の適応は良好であった(杉山、1999)。しかし、成人期になってもみられる症状が以下のものである(橋本他、2006)。「儀式的な行動への固執」「いつも決まった形で繰り返される習癖的な身体の動き」「身振りの使用が少ない」「表現が適切でない」「手を使って意思を表現しない」「社会的なシグナルの理解に欠ける」「社会的、感情的に適切さを欠く行動」「人の気持ちを感じ取るのが困難」「人の気持ちに無頓着」。 アスペルガー症候群の人たちは、小・中学校の通常学級で学び、高等学校、大学に進学する者もいて、一般就労している。しかし、なかには社会適応がうまくできず、成人期になって治療を受ける人たちがいる。児童期や思春期は「不登校」「いじめ」の当事者・関係者になったり、ニートや引きこもりといった状態になるのも少なくない。本能的な症状よりもこうした環境不適応などの状態の方が大きい。したがって、コミュニケーション行動の劣弱さや行動上の問題に対応もしつつ、二次的な障害である精神医学的な問題を引き起こさないような環境つくりが重要な支援の柱である。
参考文献
アスペルガー症候群の本 榊原洋一著 ナツメ社
特別支援教育の基礎知識 橋本創一 霜田浩信 林安紀子 池田一成 小林巌 大伴潔 菅野敦著 明治図書