アメリカの水事情
出典: Jinkawiki
アメリカと聞くと、その広大な土地から水不足とは無縁だと思われがちである。しかし、実際のところアメリカも水不足とは無関係ではない。アメリカ中西部のオガララ滞水層は世界的にも有名だ。単一の淡水層としては北米最大であり、ネブラスカ州以南の大草原地帯、ハイプレーンズに50万平方キロメートル以上にわたり広がっている。この広大な滞水層も1991年以来、地下水面は毎年1メートルも低下しており、すでに半分近くが失われている状態である。 さらに、減る速度が自然の循環によって補充される速度よりも14倍も早いため、ほぼ完全な回復は絶望的である。これはあくまでも一部にすぎない。自然が保有する水の絶対量は圧倒的な速さで失われている。雨が多く降るシアトルでも需要過多のため、このまま行けば2020年に深刻な水危機に直面する可能性が指摘されている。広大なカリフォルニアにおいても、コロラド川からの取水は限界に近づいており、このまま2020年までに新しい取水源が見つからなければ、カリフォルニアは淡水不足に見舞われると言われている。 また、アメリカの約8割の水道は公共水道によるものだったが、近年変化が起きている。ヨーロッパの「ウォーター・バロン」と呼ばれる水の大企業がアメリカ進出を虎視眈々と狙っている。ウォーター・バロンは今までは発展途上国の水道インフラ事業によって業績を伸ばしてきた。しかし、徐々に水道事業に企業が参加する傾向が強まっていくにつれて、アメリカ進出も増え始めている。その一つとして、スエズというウォーター・バロンの一つがアトランタ市の水道事業を任された例がある。スエズはアトランタ市と20年間にわたる水供給の契約を結んだ。しかし、その後深刻な問題が発生した。契約に際して、スエズはアトランタ市の水質改善を行わなければならなかったのだが、それがきちんと遂行されなかった。原因としては投資に対するリターン、インフラ整備への投資をスエズ側が嫌ったためだ。このように必ずしも企業が水道インフラに参画するのが良いとは限らない。 このような動きもあり、アメリカ内でも水道事業を私企業から公共へと取り戻す動きがある。もともと水道事業に企業が参画する発端となったのが、「ワシントン・コンセンサス」という1980年代のIMF(国際通貨基金)や世界銀行の取り組みからである。水というのは公共物(誰にでもアクセスする権利が認められるもの)であると考えられがちだが、ワシントン・コンセンサスの下ではあくまで「売り物」の一つに過ぎない。ワシントン・コンセンサス内の「国営企業の民営化」が途上国の水道事業を海外企業に委任する形になったのが、今のアメリカ内の多くの州でも起こった。実際に、民営化した結果、水道インフラに起きた変化を考えると、途上国も、アメリカも水道インフラに反対するというアクションは非常に似ている。現在、「水の民営化」は政治的支持を失いつつある。
参考文献
モード・バーロウ、トニー・クラーク『「水」戦争の世紀』集英社(2003)
モード・バーロウ『ウォーター・ビジネス――世界の水資源・水道民営化・水処理技術・ボトルウォーターをめぐる壮絶なる戦い 』作品社(2008)
国際ジャーナリスト協会(ICIJ)『世界の“水”が支配される!―グローバル水企業(ウオーター・バロン)の恐るべき実態』作品社(2004)