携帯電話2

出典: Jinkawiki

2013年7月30日 (火) 23:22 の版; 最新版を表示
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若者と携帯電話

 

 現在、私たちは、携帯でのコミュニケーションをとることが増えている。それに伴い、若者の携帯依存やゲーム脳などのような、仮想と現実の区別がつきにくくなるなどの不安が生まれてきている。また、最近では、子どもや若者が何らかの社会問題をおこすと、 “その一因は人間関係の希薄化にある”と説かれることもある。 しかし、NHKの中高生調査によれば、友人・親友とのつきあい方を「隠しだてなく」「心の深いところは出さずに」「ごく表面的に」の3つから選ばせているが、82~92年にかけてほとんど数値に変化はない。 そこで、さらに念を入れて、次のような可能性も検討してみた。昔なら単なる知り合いにすぎなかった相手でも今では友人にカウントされている、あるいは、自分の電話番号を隠さない程度でも「隠しだてのない」つきあいと考えられるようになったために、数字には表れないけれども実際には関係の希薄化が進んでいる、という可能性である。ならば、友人といても孤独感や寂しさを感じる若者が増えているはずだ。しかし、NHK調査データや日経産業消費研究所の若者調査などを見ると、友人といるときに充実や満足を感じる者の方が年々増えているのである。したがって、今の若者の人間関係を「希薄化」というイメージでとらえることは、ほぼ決定的に誤りだと言えるだろう。 それでは、なぜ若者の人間関係が「希薄化」というイメージになったのだろう。それは、重い人間関係より、お互いを干渉しない軽い関係が好まれるようになってきたことも理由になる。ここで、「軽い関係」について注目するならば、携帯電話の利用が状況や気分に応じて付き合う友人を切り替える為の道具になっていることも考えられる。直接的に人と会話するよりも、誰と話すかを自分の手の中で選び、飽きたらボタン一つで終わりにできる位置関係のほうが相手に縛られることも少なくなる。 しかしそもそも、モバイルコミュニケーション研究会(2002)の調査によれば、年齢が高くなるほど人間関係が選択的になる傾向がみられるという結果もある。すなわち若年層ほど「たいていの場合、同じ友人と行動をともにすることが多い」を選択する割合が高くなっている。これは最近の若者が選択的な人間関係を持つことの議論とは逆の結果である。 中村(2002)は携帯電話をよく使う若者は、友人が多く、友人や恋人とよく会い、孤独感も低い。明るく見える彼らだが、その背景には、いつでも人とコンタクトをとっていなくては不安であるといった、孤独に対する恐怖感や、孤独に耐える力の欠如が存在している。逆に言えば、携帯電話は若者の孤独恐怖と共存しているが故に、これだけ受け入れられたともいえる。 また、辻(2001)は、携帯電話はいつでも気軽にコンタクトをとれるメディアとして、これまでにない優れた特徴を持っている。孤独を恐れる心理を背景にこうしたメディアを使いこなし、また友人や恋人ともよく会い、その結果として孤独感が少ないのであるから、携帯電話自体にはなんら問題はないようにもみえる。また、選択的な人間関係に関しても、「選択的」よりも「多面的」な人間関係の形成により、孤独感がさらに減少するとも考えられている。しかし、携帯電話におけるコンビニ的人間関係(相手の事情を気にせずに、24時間、好きなときにコンタクトをとれる)に慣れてしまうと、孤独に耐えたり、自己を見つめたりする機会が奪われる危険性がある。 確かに、現代の若者にしても、いつまでも携帯電話に頼り、友人と頻繁に会い続けられるわけではない。中村(2002)が明らかにしたように、学生も就職すると大幅に携帯メールの利用頻度が落ちる。仕事で常時返信できる環境でなくなるためである。彼らがやがて結婚や子育てで友人ともあまり会わなくなり、さらに子離れ、配偶者の死といったライフステージをたどるとき、これまでの世代のように、うまく孤独とつきあっていけるだろうか。ライフステージ的に、これまでのような濃密な友人関係ができなくなったとき、孤独に対する耐性がないために、深い孤独感に悩まされる人が多くなるのかもしれない。 もちろん従来から、人は孤独に直面したとき、飲酒や各種娯楽に逃避したりして、常に建設的な対処をしてきたわけではない。したがって、携帯電話の影響が良いのか悪いのか定かではないが、今後の携帯電話における人間関係の希薄と、人間のライフステージの中での孤独への耐性がどれほどの関連があるのか検討することにした。                                        参考文献

・足立由美、松本和雄、雄山真弓、高田茂樹(2003)  『携帯電話コミュニケーションから見た大学生の対人関係』 関西学院大学教育学科研究年報 (1p) ・藤本一男(2006)  『携帯電話コミュニケーションを考えるための考察 ―非連続的空間の拡大と可視化される人間関係―』 作新学院大学人間文化学部紀要4(1,2p) ・國吉和子、仲栄真美奈子(2006) 『携帯電話と人間関係に関する研究(1) ―携帯電話使用の友人関係・家族関係への影響―』 沖縄大学研究報告『地域研究』No2(1,2p) ・三上俊治、辻大介(2001) 『大学生における携帯メール利用と友人関係~大学生アンケート調査の結果から~』  第18回情報通信学会大会 個人研究発表配付資料 ・中村功(2002) 『携帯メールと孤独』 松山大学論集14巻6号


投稿:S.M


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