出生前診断と世界

出典: Jinkawiki

2016年7月24日 (日) 15:53 の版; 最新版を表示
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目次

出生前診断

出生前診断とは広い意味では、妊娠中に行われる超音波(エコー)検査や胎児心拍数モニタリングなど、胎児の発音や異常の有無などを調べるすべての検査を含む。そしてせまい意味では遺伝子検査のことを指し、胎児の発音や異常の有無を調べるだけでなく、先天性疾患、染色体異常、遺伝子レベルの変化の有無を調べる検査である。この狭義の出生前診断には、具体的には、羊水検査や絨毛検査、母体血清マーカー検査、新型出生前診断などがあり、これらの検査方法は大きく①確定的検査と非確定的検査、②侵襲的検査と非侵襲的検査に分類する事ができる。


①確定的検査と非確定的検査

確定的検査を受けると、胎児の診断はほぼ確定する。それに対して非確定的検査はあくまで胎児が染色体異常にかかっている可能性が高いかどうかを評価する検査のため、これだけでは胎児の診断を確定することは出来ず、確定的検査が必要となる。確定的検査となるのは羊水検査、繊毛検査、着床前診断であり、非確定的検査となるのは母体血清マーカー検査、超音波検査、妊娠初期コンバインド検査、新型出生前診断である。


②侵襲的検査と非侵襲的検査

侵襲的検査とは検査によって流産するリスクがあるものであり、非侵襲的検査とは検査による流産のリスクがほぼないものである。侵襲的検査となるのは羊水検査、繊毛検査、着床前診断であり、非侵襲的検査となるのは母体血清マーカー検査、超音波検査、妊娠初期コンバインド検査、新型出生前診断である。侵襲的検査はそういったことから、胎児が染色体異常である可能性が高い妊婦が受けることが一般的である。日本産婦人科学会は、下記のいずれかに該当する場合の妊娠について、夫婦ないしカップルから希望があった場合に、遺伝カウンセリングによる理解の後、同意が得られた場合に行うとしている。


1、夫婦のいずれかが、染色体異常の保因者である場合

2、染色体異常症に罹患した子どもを妊娠、分娩した既往を有する場合

3、高齢妊娠の場合

4、妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合

5、夫婦の両者が、新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体劣勢遺伝病のヘテロ接合体の場合

6、夫婦の一方もしくは両者が新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体の場合

7、その他、胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合


検査内容

羊水検査

 羊水検査とは、羊水を採取して胎児に染色体の変化(染色体の異常)があるかどうかを調べる侵襲的・確定的検査である。羊水を搾取する前に医師は超音波検査を実施して、胎盤の位置や羊水量などのほか、胎児の位置や姿勢などを確認する。そして安全な穿刺部位を決め、下腹部全体を消毒した後に羊水穿刺用の注射針を刺して、必要量の羊水を吸収採取していく。こうして、羊水中に含まれている胎児細胞の染色体を分析するのだが、採取出来る細胞数が少ないため、培養して細胞数を増やし、細胞が十分に増えた時点で染色体の形態的な特徴が識別できる時期の細胞を選び、染色液で染めて分析される。この検査は多くの施設では妊娠15週~16週以降に行われ、1960年代後半から実施されている。しかし、この検査は危険が全くないわけではなく、流産、破水、出血、腹痛、子宮内感染、胎児の受傷、早産などが羊水検査の合併症として起こりうる。(検査による流産の可能性は0.2~0.3パーセントである。)また、確定的検査と言っても検査の限界はあり、染色体分析では様々な成長発達の可能性を予想することはできず、染色体の微細な構造変化や遺伝子レベルの変化になると顕微鏡で検出することはできない。

繊毛検査

 繊毛検査とは、胎盤の一部となる繊毛が胎児の細胞で作られているため、繊毛を採取して胎児に染色体の変化(染色体の異常)があるかどうかを調べる検査である。手法としては経膣法と経腹法があり、いずれの場合にも、繊毛を採取する前に超音波検査を実施して胎盤や胎児の位置などを確認し、医師が経膣法か経腹法のどちらで繊毛を採取するかを判断する。経膣法は、超音波検査で胎児と繊毛がある場所を確認し、挿入する方向を決めてから膣内に細いストローのような管を通して繊毛の一部を吸引採取する。経腹法は、羊水穿刺と同じように超音波検査を実施して、胎盤や胎児の位置などを確認し、安全な穿刺部位を決めてから羊水穿刺と同様に下腹部を消毒して繊毛穿刺用の注射針を刺していく。繊毛穿刺中も、超音波で穿刺針の先端の位置を確認して針先が胎盤繊毛内に達したら、医師は針の先端を小刻みに上下方向に動かしながら繊毛を採取する。こうして胎児の細胞で作られている繊毛を分析するのだが、羊水検査と同じように採取できる細胞数が少ないため、細胞を培養して数を増やし、染色体の形態的な特徴が識別できる時期の細胞を選んで、染色液で染めて分析する。これらの検査は多くの施設では妊娠10週~14週ごろに行われ、1980年初めに米国で始まった。そして、これらの検査も危険が全くないわけではなく、流産、破水、出血、腹痛、子宮内感染、胎児の受傷、早産などが繊毛検査の合併症として起こりうる。(検査による流産の可能性は0.5~1.0パーセントである。)また、確定的検査と言っても検査の限界はあり、染色体分析では様々な成長発達の可能性を予想することはできず、染色体の微細な構造変化や遺伝子レベルの変化になると顕微鏡で検出することはできない。

着床前診断

 着床前診断とは、着床前の受精卵の段階で、染色体や遺伝子に異常がないかを検査することをいう。この診断は特定の遺伝子異常の有無を診断する着床前遺伝子診断と染色体の数的異常や性別の検査を行う着床前遺伝子スクリーニングがある。そして国によっては流産の予防や男女の産み分けのために行われている。

母子血清マーカー検査

 母子血清マーカー検査とは、妊婦からの採血による非侵襲的・非確定的検査である。妊娠15週から18周ごろに採血した血液中の成分を測定することによって、胎児が染色体異常であるダウン症候群、18トリソミー、また、染色体異常ではないが開放性神経管欠損症という疾患である確率を明らかにする。検査には、血液中の3つの成分(AFP,hCG,uE3)を調べるトリプルマーカーテストと、新たにもう1つの成分(linhibinA)を加えたクアトロテストがある。そしてこの検査は、ダウン症候群の検査として取り上げられることが多いが、当初は開放性神経管欠損症のための検査であった。

超音波検査

 超音波検査とは、胎児が染色体異常である可能性をスクリーニングする非侵襲的・非確定的検査のことをいう。胎児を超音波で見ていると、胎児が染色体異常や心臓などの先天性疾患である可能性が高い状態であることを示す超音波所見(ソフトマーカー)がみつかることがある。そしてその1つがNT:Nuchal Translucencyといった妊娠初期の11週~13週6日にみられる胎児の首の後ろのむくみであり、この部分の厚み(NT肥厚)が大きいほど、胎児が染色体異常などの先天性疾患である可能性が上昇する。しかしNT肥厚があったとしても、必ずしも胎児が染色体異常であるわけではない。そして、正確なNT計測には経験や訓練が必要で、一般的な妊婦健診ではNT計測の正確さに限界があると考えられている。

新型出生前診断

 型出生前診断とは、母体血清マーカー検査と同じく、採血でできる非侵略的・非確定的検査である。胎盤から漏れ出てくる胎児由来のDNAは細胞に収まっていないむき出しのDNAとして存在しており、細胞フリー胎児DNA と総称されている。そして、細胞フリー胎児DNAは胎盤から漏れ出し、妊婦の血液中に混ざっていて、その濃度は妊娠週数とともに高くなり、出産後には数時間後になくなる。新型出生前診断はこの細胞フリー胎児DNAを検査に利用する。方法としては量的カウント法と遺伝子型情報を組み込む方法がある。量的カウント法は特定の染色体の細胞フリー胎児DNA断片の量と、それが細胞フリー胎児DNA全体に占める割合を計算し、胎児に染色体異常がない場合と比較することでその妊婦の胎児に染色体異常があるかどうかを検討する方法である。遺伝子型情報を組み込む方法はSNPと呼ばれる30億対あるうち300対に1個の割合で個人によって異なる配列部分を解読して、妊婦と胎児の遺伝子型を区別する方法である。新型出生前診断は妊娠10週という妊娠初期から染色体異常を検出できるが、日本では日本産科婦人科学会が診断の実施について具体的な指針を示していて、胎児が染色体の数的異常である可能性が低い妊婦は現在の臨床研究では検査の対象とはならず、また日本医学会の審査で認可された医療機関で臨床研究として行われている。


染色体の数的異常

13トリソミー

身体的特徴・・・成長障害、呼吸障害、摂食障害

 合併症・・・口唇口蓋裂、多指趾症、眼の病気、心疾患(80%)、全前脳胞症 等

 発達予後・・・運動面、知的面ともに強い遅れを示す。言葉の使用は難しいが、サインや表情で応える

 寿命 ・・・90%は1年以内ことが可能なこともある。気管挿管や呼吸補助が必要である。

18トリソミー

 身体的特徴・・・胎児期からの成長障害、呼吸障害、摂食障害

 合併症・・・心疾症(90%)、消化管奇形、口唇口蓋裂、関節拘縮 等

 発達予後・・・運動面、知的面ともに強い遅れを示す。言葉の使用は難しいが、サインや表情で応えることが可能なこともある。気管挿管や呼吸補助が必要である。

 寿命・・・胎児死亡も高頻度(50%)50%は1カ月、90%は1年

21トリソミー(ダウン症候群)

 身体的特徴・・・成長障害、筋肉の緊張低下、特徴的顔貌

 合併症・・・心疾症(50%)、消化管奇形(10%)甲状腺疾患、耳鼻科疾患、眼科的疾患

 発達予後・・・ダウン症候群のこどもの多くは、支援クラスを利用しながら地元の学校や特別支援学校に通っている。スポーツ、芸術などのさまざまな分野で活躍している人がいる。

 寿命・・・50~60歳


※13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー(ダウン症候群)の症状

 ・染色体がペア(2本)・・・・ダイソミー

 ・染色体が3本・・・・トリソミー

 ・染色体が1本・・・・モノソミー

 トリソミーやモノソミーがおこる原因は、卵子や精子が作られる過程にある。


日本と世界の出生前診断の費用

羊水検査

 検査は保険が適用されない。従って全額自費になる。病院にもよるが約10万円のところが多い。

繊毛検査

 約15万円。実施している病院は限られている。

着床前診断

 病院によって費用は異なるが、一般的におおよそ50万円~80万円と言われている。また、日本産科婦人学会の承認を得ずに着床前診断を行っている病院もあり、法律違反になることはないが、その分費用はかさんで100万円くらいともいわれている。

母子血清マーカー検査

 1~2万円ほど。病院によって異なる場合が多いが、おおよそ2万円ほどのところが多い。

超音波検査

 4~5万円ほど

新型出生前診断

 約20万円

世界の新型出生前診断の費用

 アメリカ:8~19万円、ドイツ:11万円、イギリス:6万円、フランス:13万円


出生前診断の受検率 国別比較

オーストラリア

非確定的検査の国の方針・・・前妊婦に選択肢が提供されるべき

非確定的検査の受検率・・・60%(2007)

確定的検査受検率・・・7-8%(2007)

デンマーク

非確定的検査の国の方針・・・前妊婦に選択肢が提供されるべき

非確定的検査の受検率・・・84.4%(2006)

確定的検査受検率・・・5.4%(2006)

イングランド&ウェールズ

非確定的検査の国の方針・・・前妊婦に選択肢が提供されるべき

非確定的検査の受検率・・・88%(2009)

確定的検査受検率・・・2.9%(2008)

オランダ

非確定的検査の国の方針・・・前妊婦に選択肢が提供されるべき

非確定的検査の受検率・・・23.7%(2009)

確定的検査受検率・・・5.2%(2009)

米国

非確定的検査の国の方針・・・前妊婦に選択肢が提供されるべき

非確定的検査の受検率・・・70%

確定的検査受検率・・・5-10%(2010)

台湾

非確定的検査の国の方針・・・35歳≧羊水検査  35歳<血清マーカー検査

非確定的検査の受検率・・・65-80%

確定的検査受検率・・・高齢妊娠70.7%(2001)

日本

非確定的検査の国の方針・・・前妊婦への選択肢提示は推奨されていない

非確定的検査の受検率・・・ 1.7%(2008)

確定的検査受検率・・・1.2%(2008)


出産と中絶

 出生前診断の結果を受けて、中絶するという選択肢をとるカップルたちは少なくない。しかし、そうはいっても宗教的に中絶することを完全に禁止している国も存在する。それは、マルタ、チリ、エルサルバドル、ニカラグアの4カ国である。また、スペインやブラジルでは、性的暴行による妊娠や母体に生命の危険があるなどの場合のみ中絶することが認められている。下に続くのは人口妊娠中絶を取り巻く宗教的価値観の違いと海外の出生前診断と中絶の実態についてである。

キリスト教

 キリスト教会は、人の生命の始まりは、受精卵中で卵子・精子両者の核膜が溶解し、固有の遺伝子を持つ胚となった瞬間としている。そして初代教会から一貫して中絶を殺人とし、非難している。中絶を行った者に対するキリスト教会の対応として、カトリック教会では破門になり、プロテスタントでは戒規の対象となる。

ユダヤ教

 中絶を女性の選択肢として認める立場が主流である。これは、胎児は頭部が形成された時点で人間とみなされるようになると考えられているためであり、妊娠初期以外の中絶については必ずしも容認されるものではない。

イスラム教

 イスラム教は他の宗教と同様に生殖を神聖視しているにもかかわらず、過剰に増えることは神の意志ではないとされており、大半のイスラム教学者は中絶自体を一律に禁じられるものではないとの見解を示している。

仏教

 中道を旨とする仏教は通例中絶を含めた家族計画について寛容である。これを殺生として禁じる立場はあるが、一方で動機に問題がなければ容認する立場もある。

ヒンドゥー教

 ヒンドゥー教は元来中絶を認められざる行為としていたが、その道徳律は様々な変化を経験しており、中絶に関しては容認される場合が多い。

イギリス

 医療費は全額公費負担で、出生前診断の費用も、障害があると分かった時の中絶も公費負担である。そして、その後のカウンセリングやサポート体制も整っている。ダウン症陽性と判定された9割の妊婦が中絶を選択している(2011)。

フランス

 フランスでは、出生前診断で胎児異常が分かれば、妊娠時期にかかわらず中絶が認められている。そして中絶時等のサポート体制が整っており、費用はすべて政府負担である。

アメリカ

 新型出生前診断が2012年に始まって以来、ダウン症関連団体を中心に急速に批判が広まっているよう。しかしながら、個人主義が徹底しているアメリカでは出生前診断の制度は日本より整備されていて、多くの妊婦が出生前診断を選択している。

ドイツ

 かつてのナチス政権で、障害のある人への不妊手術の強制や安楽死などが行われていた反省から、優生思想への懸念が根強い。しかし、出生前診断は一般的に普及しており費用はすべて政府負担である。ダウン症等障害児の出産を選択した妊婦、また中絶をした妊婦がしっかりとしたカウンセリングを受けられるサポート体制が整っている。


参考文献

西山深雪, 「出生前診断」,ちくま新書,2015年mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXNASDG2703S_X20C14A6CC1000,192abc.com/14498,192abc.com/13386,kawaiku-ikumama.com/archives/6415,https//yomidr.yomiuri.co.jp/article/20131205-OYTEW52123/,irorio.jp/nagasawamaki/20160425/317104/,kourei-baby.com/archives/178.html,www.i-piiri.net,www.circam.jp/reports/02/detail/id=3642,http://news.names-not-numbers.org/?p=501&lang=ja,www.meiji-yuben.net/rec/2011/spd201101A.pdf,yomidr.yomiuri.co.jp/article/20131205-OYTEW54262/


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