バウチャー制度5
出典: Jinkawiki
←前の版 | 次の版→
バウチャー制度とは、子どもをもつ家庭にバウチャー(Voucher)という一種の現金引換え券を交付したうえで、保護者や子どもが自由に学校を選択し、学校は集まったバウチャーの数に応じて行政から学校運営費を受け取るという仕組みである。教育バウチャーとも言われ、教育バウチャーの実施例では、米国のウィスコンシン州ミルウォーキー市、オハイオ州クリーブランド市、フロリダ州などがあるが、いずれも低所得層や極端に教育環境が悪い学校に通う子どもなどを対象にしたもので、一種の社会格差是正策として導入されている。
目次 |
メリット
教育バウチャーの利点としては、
(1)国公私立学校を問わず適用することで、家庭の授業料負担などの公私格差が解消される
(2)国公私立学校を問わず自由に保護者や子どもが学校を選択することができるようになる
(3)集まったバウチャーの数に応じて学校運営費が交付されるので、学校はより多くの子どもを集めるため努力し教育の質が上がる
などが挙げられており、教育バウチャー制度は、選択の自由、自由競争による質の向上という規制緩和の考え方が背景にあると言ってよい。
デメリット
一方デメリットは、
(1)一部の人気校だけに予算が集中し学校間の格差が拡大する
(2)保護者や子どもに迎合する学校が増えて逆に教育が荒廃する
(3)地理的に学校選択が困難な地方部と自由に学校選択できる都市部の教育格差が広がる
などが挙げられている。
自治体の取り組み
東京都杉並区「子育て応援券」
これは就学前の子どもをもつ保護者に交付されるもので、一時保育、子育て相談・講座などの子育て支援サービスに利用することができる。
栃木県「若年求職者バウチャー」
これは無業や不安定就労の若者に限定した、職業訓練に掛かる費用を補助する制度で、就職のための免許取得費や資格取得のための講座受講費などに利用することができる。
海外の取り組み
(1)イギリス
•各学校への予算配分は次のとおり。まず教育技能省が前年度の予算額をベースに子ども一人当たりの単価を算出し、補正を行ったうえで各地方教育当局(LEA)に対する学校特定交付金の金額を決定する。LEAでは個別学校予算について、学校予算配分システムと呼ばれる配分方式に基づき、各学校に配分する。配分方式の詳細はLEA毎に異なるが、個別学校予算総額の最低75パーセントについて児童生徒数を基準として配分することが定められている。
•公立(営)の初等中等学校の通学指定区域に関しては、LEAが通学圏を定めており、学校選択を行わない場合、利用者は通学圏内の学校を利用する。最寄りの通学圏が一定の距離以上離れている場合に限り、無料通学の権利を有する。
•イギリスでは学校自由選択が保障されており、公立(営)学校は定員を超える場合を除いて、基本的に利用者の入学希望を拒否できない。また、公立校が入学を希望する児童生徒について、能力選抜を行うことも認められていない。
•公立(営)学校で入学希望者が定員を超えた場合、LEAや学校の入学方針に示される基準により、利用者は希望する学校に入学できない場合も発生する。
•定員超過や入学方針等の理由により希望学校に入学できない場合、利用者は入学当局により設けられる審査委員会に対して不服申立を行うことができる。
(2)スウェーデン
•対象校は、公立および私立で国が認可したものに限る。私立校については運営主体や開設場所についての制約はない。利用者については、義務教育校、高校いずれにおいても全生徒を対象としており、特定の所得階層や人種などといった条件は一切ない。
•私立校への予算支給額は、学校と生徒が居住するコミューンの地方政府との相対交渉で毎年決められる。そのため、同一の私立校であっても、コミューンによってその支給額が異なる。バウチャー価額は物価や税収の増減に応じて定められる。
•義務教育については、私立校は空きがある限り希望者を受け入れなければならないが、定員を超える申請がある場合は、先着順に受け入れることが原則となっている。生徒の学力で選抜することは国が禁じている。なお、公立校については、定員を上回る申請があった場合、居住地(近隣に住む者)で選抜する。
•各コミューンは生徒の交通手段を確保する義務を有するが、家から最も近い公立校を選んだ場合のみ適用され、それ以外の場合(家から遠い公立校、私立校や他コミューンにある公立校など)はこの義務はない。
(3)オランダ
•非営利団体で、かつ国が定めたカリキュラム、教育時間、休暇期間、監査などに従えば、公立・私立を問わずすべての初等・中等学校、すべての児童・生徒が対象となる。
•学校施設の維持・管理については、公立・私立を問わず市町村が負担する。その他運営費は基本的に国の負担となる。国からの補助金は児童・生徒数により同一の基準ですべての公立校、私立校に配分される。
•補助金は職員の人件費と備品・教材等の維持管理費の二つからなる。人件費は、職種や学歴等に応じて単価が定められており、児童・生徒数に応じて積算される。維持管理費は児童生徒数及び教室ないし学校数に応じて算出される。
•公立学校は生徒数が収容人数の限度に達していない限りは受け入れを拒否することができない。逆に児童生徒数が基準を割り込んで減少し、その状態が一定期間続くと国の補助金は停止され、廃校となる。
•私立学校は入学を希望する子供の親に対して、その学校の教育理念や教育方針が違うことを理由に入学を拒否することができる。収容人数を超えた生徒の入学についても、基準を設けて入学を拒否することができる。
•公立、私立を問わず、初等学校では学力テスト等により入学者の選抜を行うことはできない。また、児童の居住地から一定の距離内に公立校がない場合は、その地域の私立校はその児童を受け入れなければならない。
(4)その他の国
1.ニュージーランド
•初等・中等学校(含む義務教育)の財源の大半は中央政府から供出される補助金によっている。この補助金の中心となるものが運営費補助制度(operational funding)である。これとは別に人件費、生徒の特別ニーズに対する補助などがある。
•補助額は学校の種類、生徒数とその年齢、学校の保有する財産プロフィールに応じて決まる。内訳では「生徒1人当たり補助」が最も大きなものであり、全体の6割弱を占める。
2.チリ
•生徒一人当たりの補助額は、教育省が定める一人当たりにかかるコストの平均に匹敵する額である。毎月、政府から直接学校に支払われる。なお、公立校・私立校ともに親、教会、企業などからの寄付を受けてもよいとされている。
•90年代にさらに私立校は親から授業料をとることが可能になり、その分、補助額が減らされるという仕組みに改正された。
文部科学省―資料3 海外の教育バウチャーの事例(イギリス、スウェーデン、オランダほか)
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン―バウチャー制度のメリット/デメリットとは?
ベネッセ教育情報サイト―安倍首相が導入を掲げる「教育バウチャー」って何?
投稿者sy128