バイリンガル教育2
出典: Jinkawiki
バイリンガル教育とは、母語の維持と発展、第二言語の獲得、母語の第二言語を用いた教科教育という三つの目的を同時に実現していく手段と考えられていた。つまり、教育の目的として母語と第二言語の二つの言語の能力を育成することと、教育の方法として二つの言語を用いた教育を行なうことの、両者を含んだものとしてバイリンガル教育が定義されていた。
しかし、この三十年ほどの間に、バイリンガル教育ということばの意味するところも変化してきた。たとえば、一九七〇年代に出された二つの修正バイリンガル教育法では、二言語能力の育成と二言語併用教育という二つの特質を兼ね備えたものとしてバイリンガル教育をとらえているのに対して、一九八〇年代から九〇年代にかけて出された三つの修正バイリンガル教育法では、二言語併用教育という教育方法論としてのみバイリンガル教育をとらえている。すなわち、少数言語の子どもたちに、母語と英語(第二言語)の二言語能力を育成するという考え方から、ともかくも英語(第二言語)の能力を育成するという考え方に変わってきたのである。この変化は、少数言語の子どもたちの言語と教育において何を最も重要と考えるのかという連邦政府の価値観の変化を反映している。
アメリカのバイリンガル教育
多くの民族・文化・言語が衝突や葛藤を繰り返してきたアメリカでは、一九六〇年代後半から、英語を母語としない少数言語の子どもたちの教育状況を改善するために、連邦政府の教育政策としてバイリンガル教育が取り上げられてきた。少数言語の子どもたちの教育の機会均等を保障するために一九六八年に制定されたバイリンガル教育法は、度々の修正を経た今日においても、当初の理念を敬称し、連邦政府のバイリンガル教育政策の中心をなしている。
アメリカの言語政策や言語教育政策においては、少数言語の子どもたちの言語と教育のあり方に関して、これまでに三つの異なる言語観が存在したことがしばしば指摘されている。それは、「解決すべき問題としての言語(language-as-problem)」「権利としての言語(language-as-right)」「人的資源としての言語(language-as-resource)」という三つの考え方である。どのようなバイリンガル教育が必要とされたのかを明らかにしていく手がかりとなるこの三つの言語観について、順に検討していくこととする。