健康教育
出典: Jinkawiki
概要
健康教育とは健康の維持・増進と疾病の予防・治療に貢献する健康心理学の1つの重要な応用分野として、位置づけられる。しかしその定義は、必ずしも一致するわけではない。健康教育はその場面により、学習者、教育内容、教育方法、教育成果などがそれぞれ異なることもあって、健康教育に携わる人によってその定義が異なるとさえいわれている。だが広い視野に立って、健康教育のすべての場に共通する包括的な定義を求めるならばグリーンによる定義が一番説得的である。その定義とは「健康教育とは、健康へと導く行動の自発的応用を容易にするように計画された学習経験の組み合わせである。」といったものである。この定義には、健康に関して4つのキーワードがある。
1つ目は、行動の「自発的」適応が重視されている点である。従来の健康教育には、教育者から学習者への一方的な働きかけによるものが多かった。しかしこの定義では、健康教育への自発的参加がはっきりと打ち出され学習者を中心として健康教育を発展するべきことが提言されている。
2つ目は、自発的応用を「容易にする」ことが重視されている点である。これもまた、学習の主体が学習者自身であるということを指している。
3つ目は、「計画された」学習経験が重視されている点である。ここでは従来の偶発的に実施されてきた健康教育を排除して、これを計画的に組織されたものとする必要性が強調されている。
4つ目は、学習経験の「組み合わせ」が重視されている点である。健康教育の学習は、知識の教授という単一の学習経験によるものではなく、多様な学習経験を必要とする。それらを適切に選択し組み合わせることによって豊かな健康教育が展開されていく。
歴史
健康教育は、100年ほど前から衛生教育と呼ばれて発展してきた長い歴史を持つ。しかし、それが健康に関する知識の教育を中心として普及し始めたのは1940年ごろからだと言われている。そして、1950~60年ころになると、健康に関する知識の習得を通して望ましい態度の形成とその実践を導くことの重要性に目が向けられるようになる。しかしここでもなお、健康教育の基本が知識の伝達であるという考え方は、根強く存在していた。やがて、知識の伝達だけでは個人の態度を変容させたり健康行動を実践させたりする成果を十分に得られないということに気づいてきた。そこで、健康行動を動機づけるのは、知識よりも信念であるという「健康信念モデル」が登場し、このモデルが1970年代の健康教育の主流となるに至った。1980年代に入ると、健康教育という用語が一般化する。これと並んで、アメリカ心理学会で1978年に健康心理部会が承認され、健康教育を健康心理学的に取り上げて研究した業績が、次第に現れ始めた。1986年にカナダのオタワで採択された「ヘルスプロモーションに関する憲章」の中でも、健康教育がヘルスプロモーションの中核であることが明確に打ち出された。1990年代に入ると健康教育に新しい変化を見せる。それは、従来の指導型の健康教育から学習援助型の健康教育への転換によって特徴づけることができるだろう。従来の健康教育では、人々は教育・指導を受けるものとして、受身的な立場に立たされてきたが、これからの健康教育では、能動的な学習者とみなされ、その学習を援助することが、本来の健康教育の在り方とされるようになった。