食文化2
出典: Jinkawiki
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食文化概要
食欲はヒトが生きていくために睡眠や性欲と同じように基本的欲求として位置付けられているが、動物の食事とは異なっている。現在、人類の起源はアフリカであり、生まれた場所の近くに食料となる動物や植物があったために子孫を残すことができたといわれている。温暖な緑豊かな土地だけでなく、寒冷地、熱帯、乾燥地帯といったさまざまな地域でも暮らしが成立したのは、必要なエネルギーや栄養素を手に入れることが可能であったためといえる。食文化は、食物の栽培や飼育、調理、作法といった食欲という本能とは異なる後天的に習得した文化的な行為として文化人類学では位置付けられている。
食事様式
現代における世界の食事様式はそれぞれの国や民族の進化とともに、その歴史的変遷をたどってつくりあげられた。古代人類の生活様式は狩猟・採集の段階からはじまり、やがて新石器時代になって農業と牧畜という食料を生産する生活様式が成立した。これら農業や牧畜、さらに漁業の発展は各地の気候風土などの影響だけでなく、民族の持つ文化や宗教、社会心理的要素も大きな影響を与えた。このような生活様式の変遷に伴って、食事様式も多くの要因が加味されながら枝葉のように分かれて発展したと考えられる。
食事と宗教
宗教が食事文化に与える影響は、非常に大きいものであった。同じ宗教をもつ民族は、住む地域が全く離れていても、それぞれの宗教のもつ暦にしたがって同じように宗教行事を行い、その宗教独特の戒律によって共通の食べ方をしてきた。しかし現代では、イスラム圏やヒンドゥー教を除く他のゾーンは文化交流がさかんに行われるようになったため、以前ほどの特徴的な差は見られなくなった。たとえば、日本などでは、昔は仏教の影響を受け肉を食べることはほとんどなく、精進料理的なものが一般的であり、たんぱく質のおもな供給源は大豆や魚であったが、今では肉や乳製品を十分に摂取している。 イスラム圏においても、以前は男女差別も激しく、同じ食卓で食事をすることは認められていなかったが、現代では女性・子どもも同席してテーブルでナイフとフォークを用いての洋式の食事が一般的になりつつある。しかし、「サタン(悪魔)」の存在により、右手のみで食べる習慣が今でも根強く残っている。また、イスラム、ヒンドゥー両圏に共通するのは「浄・不潔感」であるが、これは私たちがもつ衛生観念に基づく「清潔・不潔感」とは全く異なるものである。確かに、ヒンドゥーの場合、食事には右手のみ使用し、左手は用便の洗浄に使用するため、「清潔・不潔感」が根底にあるのかと思われるが、そうではなく常に自らを浄化するという考えのもとから生まれた観念的な左右の浄・不浄観に基づくものである。
食物禁忌(タブー)
イスラム圏 豚肉は食べずお酒を飲むこともほとんどない。イスラム教徒は「コーラン」が定める厳しい戒律を守って生活をしている。その「コーラン」の中で食べてはならないものとして、死獣の肉、血と並んで豚肉が記載されており、どちらかというと不浄・不法の食べ物に位置付けられている。イスラムのヒジュラ暦の第9月(断食月)は昼間に食事をしない。さらに、食の貧欲さを避ける教えから「小食」がよいとされる。「小食で足れり」とする教えは満腹・飽食に至る不節制への予防と「共食」を基本とすることから、食べ物をみんなで分け合うことを良しとする風潮があるからである。
ヒンドゥー圏 牛肉をたべない。ヒンドゥー教は、牛は母性と豊穣を象徴する神聖なる動物、崇拝の対象であるからである。
欧州圏 キリスト教徒はキリストが処刑された金曜日を「忌みの日」として肉を食べない人もいる。
仏教圏 決まった日に肉や魚を食べない人もいる。
このように食物禁忌が果たしている機能としては、食物禁忌を共有する集団の連帯を強化する役割を持っている。食事という人間の基本的に重要な行動の中に、禁忌的なものを強いることによって、民族的な結びつきをより高める効果を求めたのではないかと考えられる。
食事の特徴
キリスト教圏である欧州では、ハムやソーセージなどの肉類の加工による保存食が発達し、さらにパンやパスタなどの小麦加工食品が発達した。イスラム圏では豚がタブーのためかわりに羊をを食する。 またイスラム圏ではナン、ヒンドゥー圏ではチャパティとして小麦が使用される。多くの宗教における共通な食材は香辛料である。キリスト教圏での加工食品にはコショウなどの使い方が発達し、ヒンドゥー圏では、カレーの使用で、特にマサラを頻繁に使う。仏教圏ではトウガラシを大量に使用する国が多く、東南アジアではそれに加えて多種の香草をよく用いる。
参考文献
山本茂・奥田豊子・濵口郁枝(2011)『食育・食生活論 社会・環境と健康』講談社
吉澤みな子・武智多与理・百木和(2017)『食生活と健康のきほん』化学同人
ハンドル名 furami