自殺論

出典: Jinkawiki

2020年1月30日 (木) 02:17 の版; 最新版を表示
←前の版 | 次の版→

概要

 自殺論とは1897年にフランスの社会心理学者であるエミール・デュルケーム(Emile Durkheim)が公刊し、1985年に日本の社会学者である宮島喬によって日本語訳された著書である。この中でデュルケームは各社会は一定の自殺率を持っているとし、社会の特徴によって自殺がどのように変わってくるのかや個人の外にありつつも個人の行動や思考を拘束する集団あるいは全体社会でともに共有されているとする行動・施行の様式を指す社会的事実の存在を明らかにしようとしている。

自殺の分類

 デュルケームは自殺論を記した基となる研究において自殺を社会的要因から四つに類型化している。

1.利他的自殺(集団本位的自殺) 集団の持つ価値体系に絶対的な服従を強制される社会や個人個人が集団の価値体系に積極的かつ自発的に従おうとする社会に見られる自殺形態を指す。 作中で例として挙げられているのが、一般人よりも軍人の方が自殺率が高いかつ、軍の中では後方支援を行う兵士よりも前線に出て戦闘を行う兵士の方が自殺率が高いとのことである。

2.利己的自殺(自己本位的自殺) 過度の孤独感や焦燥感などにより個人と集団との結びつきが弱まることによって発生し、個人主義の拡大によって増加してきたものとされている自殺形態のことを指す。作中ではユダヤ教徒よりもカトリック教徒、カトリック教徒よりもプロテスタント教徒の方が自殺率が高く、農村よりも都市、既婚者よりも未婚者の自殺率が高いとしている。ただし、後の研究にて宗教上の自殺率はデュルケームが指摘したほどの大きな違いはないということが判明している。

3.アノミー的自殺 社会的規制が少ないもしくは全くない状態に置かれた結果、発生する自殺形態のことを指す。集団・社会の規範が緩み多くの自由を獲得したことにより自身の際限なく膨れ上がった欲望を追求するも、それを実現できないことに対し虚無感を抱き自殺をしてしまうとされているもので、不況期よりも好景気のほうがより欲望が増大するため自殺率が高まるとされている。

4.宿命的自殺 集団・社会の規範による拘束力が非常に強く、個人の欲求を過度に抑制することによって発生する自殺形態を指す。デュルケームはこの自殺形態の具体例を挙げていないが自殺論を日本語訳した宮島喬は身分の違いによって道ならぬ恋を成就させることができなかったことによる心中がこれに該当するとしている。


余談ではあるがアノミー(anomie)とは社会の秩序が乱れ、混乱した状態にあることを示した「アノモス(anomos)」を語源としており、もともとは宗教学において使用されていたがデュルケームが初めてこの言葉を社会学に持ち込んだことにより一般化した。


  人間科学大事典

    ---50音の分類リンク---
                  
                  
                  
                  
                  
                  
                  
                          
                  
          

  構成