サラダボウル論
出典: Jinkawiki
文化的多元主義(cultural pluralism)。アメリカを構成する各民族集団が、それぞれの伝統文化の優れた部分を出し合うことによってこそ強く美しいアメリカ文明が育っていくいという思想。
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特色
文化的多元主義(cultural pluralism)は文化的側面だけでなく、教育界においても、アメリカ人の考えを教育にしようというアメリカナイゼ―ションな考えから、それぞれの良さを共存しようという多文化主義的な考えが現在に浸透している。これらはトマト、レタス、きゅうりのようなそれぞれの野菜が持ち味を出し合うことによって、全体としてのおいしい味ができあがるようにという考えから、「サラダボウル」と表現されるようになった。
民族とアメリカ文化
アメリカ合衆国の歴史はアングロサクソン(アングロ・サクソン人)主導のもとに動いてきた。西部では16世紀末からメキシコからテキサス、アリゾナ、カリフォルニアへと北上していたスペイン人の活躍が目立っており、南部ルイジアナでは17世紀以来フランス人が勢力を拡大しようとしていたが、全体としてのアメリカ史を動かしていたのは、やはりアングロサクソンである。アメリカ文化が今日のような形に創られてくる過程で、続々と流入した多種多様な移民の文化、民族集団の文化は、そのいずれもが直ちにアメリカ文化として取り入れられたわけではない。新しく移入された民族文化を受け容れるかどうか、常に「アメリカ」としての意思が働いていた。
文化的多元主義までの道程
1.同化論(assimilation theory)
独立した当時のアメリカで主流をなしていた思想は、アメリカ合衆国は建国の当初からアングロサクソン的要素が一貫して強く、文化的主流をなしていたという考え方。こうした立場に立つ人々は、アメリカは確かに移民を絶えず受け容れてきたが、ワスプ的文化の主流は決して変化しなかった。というのも、ワスプ(WASP, White Anglo-Saxon Protestant 人種的には白人で、民族的にはアングロサクソンでプロテスタントの人々を指す)は他の移民がやってきたときには、すでに地盤を固め、その上多数派であったし、どの時代をとっても、移民の割合は全人口のわずかな部分にすぎなかったからである。事実、ワスプは政治権力も経済力も有していたため、新移民は帰化し同化しなければ投票権の行使さえもままならなかった。また、新移民のほとんどはアメリカ合衆国の文明を尊敬し、自らその一員になりたいという希望をもってやってきたのであり、合衆国の進歩的な気風が移民の同化を促進した。
2.融和論(amalgamation theory)
移民の数がますます増えてきた18世紀の後半、新しいアメリカのあり方について、より理想主義的な考え方が現れるようになってきた。ヨーロッパからの移民はそれぞれ“最良” の伝統は生かしながら平等な立場で融和した国家としてアメリカは統一されていくべきだという思想。別名「メルティング・ポット論」(るつぼ論)と言われる。煮えたぎる「るつぼ」の中に、次々と異なる金属片が投入され、それらがすべて融け合って全く別の新しい金属が生まれることにたとえた。ここでは、「るつぼ」がアメリカ合衆国、投げ込まれる金属片が各種の移民となる。
3.文化的多元主義(cultural pluralism)
融和論が主論になってきてから、改めて現実のアメリカ社会の動きを見たとき、アングロサクソンを中心とした優越的な旧移民は、新移民の混入を拒んでおり、新移民の側でも、それまでの彼らの生活様式に固執する傾向が強かった。20世紀後半、アメリカへ居住する全ての民族集団の融和を夢見てきた「アメリカ人」が現実のアメリカの姿として発見したものは、民族、宗教、人種、地域性についての限りない多様性であり、こうした状況の中で文化的多元主義と呼ばれる思想が芽生えた。
「人種のサラダボウル」と「人種のるつぼ」
るつぼ(元の表現ではmelting pot)とは、中に金属やガラスをいれて、高温に熱して溶かすための道具である。熱された中身は溶けて交じり合い、「均一に」なる。一方、サラダボウルは、中身のレタスやキャベツ、トマトは、あくまでレタスやキャベツ、トマトのまま、個性を失いません。「人種のるつぼ」というと、まるでそのなかのひとびとが同じになって、人種的個性をなくしているような表現になる。しかし、実際そんなことはなく、日系は日系らしいし、アフリカ系はアフリカ系らしく生きている、という考えからサラダボウルという表現に変わっている。「認め合っている」というより、「人種的個性をもった人々が混在している」という状態を指している。
現在のアメリカ合衆国の思想
現在のアメリカ合衆国の思想は、文化多元主義が優越的であるが、同化主義的な考え方や融和主義的な思想が無くなったわけではない。むしろ同化主義的思想も、融和主義的思想も文化的多元主義と並存して存在していると考えるべき現状にある。アメリカ合衆国という国は、百数十種にものぼる民族集団が混在し、通婚によって融合し、相互に文化的影響を与えながら成立している国である。ゆえに、こうしたアメリカ化は建国の当初より、同化論と融和論と多元主義を混合させながら、アメリカ文化を拡大生産し続けてきている。
参考文献
『エスニックアメリカ~民族のサラダ・ボウル、文化多元主義の国から~』 越智道雄 著 明石書店(1995年) 『USA GUIDE1-ETHNICS アメリカの民族―ルツボからサラダボウルへ』 綾部恒雄 編 弘文堂(1992年) 「人種のるつぼと人種のサラダボウルの違い」http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1411758209
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