多文化主義
出典: Jinkawiki
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多文化主義(たぶんかしゅぎ)
○多文化主義とは
異なる民族(エスニック集団を含む)の文化を等しく尊重し、異なる民族の共存を積極的に図っていこうとする思想、運動、政策のことである。異なる文化を持つ集団が存在する社会において、それぞれの集団が「対等な立場で」扱われるべきだという考え方である。ここでいう文化とは高尚な芸術だけを指すのではなく、人々の生活の様式全体を指している。それは言語、文字、宗教、教育、育児、祭り、食習慣、着物、家屋、行儀、風習などに及ぶ。
同じ地域や領土にさまざまな民族の人々が生きていることは、世界中でごく普通のことである。これらの人々の間では、言語、文字、宗教、祭り、生活風習などが異なり、日常的な多少の争いはあるものの、ともに平和に暮らしている。その一般的方法はお互いの生活様式に干渉しないことや、地域的に棲み分けることである。あるいは、支配的民族がほかの少数民族を同化することも、少数民族が分離独立することも一つの方法ではある。
○多文化主義の展開
多文化主義政策では、教育、テレビ、放送、図書館などは多言語での提供が公的に支持される。例えばイギリスの場合、学校の給食にイスラム教徒のハラール・ミート(宗教的儀式を経て処理された家畜の肉)など少数民族向けの食材が用意され、シク教徒のターバンやイスラム教徒のスカーフといった民族独自の服飾が認められるなどの措置がとられる。また、より積極的な多文化主義政策といえるアメリカにおけるアファーマティブ・アクションでは、大学入学時や職員採用時に少数民族出身者に対して人口比による優先的配慮を行うなどしてきた。
アメリカ合衆国では、政府の正式な政策として多文化主義を採用しておらず、一部の州政府が英語とスペイン語の二言語常用を採用しているのみである。しかし近年では、アメリカ政府は多文化主義を支持する傾向にある。例えばカリフォルニア州では、カナダの多くの州と同じように、運転免許を取る際に試験の言語を選択することが出来る。
多文化主義はすべての文化の価値を等しく認めるものではない。それは、ナチズムやアパルトヘイトなどの人権を無視、抑圧する文化を認めていないことから言える。また、国家の統合を否定する民族独立運動を承認するものではないからでもある。多文化主義とは国家の統合の枠を前提としており、その中での人権を伸長しようとするものであり、それにおいて民族集団の多様な価値と文化を推進するものである。
○問題点
多文化主義に内在する最大の問題は、多文化保障の単位を集団と個人のどちらに置くかにある。前者に置く場合は、民族的要求(民族運動)を盛り立てていく効果は大きいが、しばしば長老支配的、男性支配的である古い伝統に引きずられることとなる。後者に置く場合は近代世界での人権は保障されるものの、運動としての性格は人権運動一般との差がつかなくなる。このことが多文化主義の問題点として挙げられる。
<参考文献>
・フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia) 『多文化主義』
・梶田孝道著 『ヨーロッパとイスラム』 有信堂 1993
・初瀬龍平編著 『エスニシティと多文化主義』 同文舘出版 1996
・油井大三郎、遠藤泰生著 『多文化主義とアメリカ』 東京大学出版会 1999
・http://100.yahoo.co.jp/