記憶の3つのサブシステム

出典: Jinkawiki

2010年1月29日 (金) 02:48 の版; 最新版を表示
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○記憶の三つのサブシステム 人間の記憶のシステムというのは、三つのサブシステムで構成されている。「感覚記憶」と「短期記憶」、そして「長期記憶」である。この三つは記憶の仕事の役割分担をしていて、感覚記憶は入力情報を一時的にキープするサブシステム。次の短期記憶は、その時その時に必要な情報を保持するサブシステム。そして長期記憶は、情報の長期的貯蔵庫の役割を分担するサブシステムである。 簡単に説明すると、外からの情報は、まず感覚記憶に入り、その一部が短期記憶に送られる。そして、あるものはそこからさらに、長期記憶に送られる、ということである。 もう少しそれぞれの記憶のサブシステムについてまとめる。 ・感覚記憶  「感覚記憶」は、目や耳などの感覚器官を通して入ってきた情報を、ほぼそのままの状態で、とりあえずキープするというサブシステムのことである。ただし、キープできる時間はほんの一瞬であり、1~2秒程度の時間で消失してしまう。 入力情報がほぼそのままの状態でキープされるということは、一度にかなりの多量の情報がこの感覚記憶に入るということだ。ただし、ほうっておくと、いま言ったように、あっという間に消えてしまう。そこで頭脳は、消えてしまう前に、多量の情報の一部に注意を向けて拾い出し、それを次の短期記憶に送り込むのである。

簡単な例をあげて考えてみると、テスト勉強をしているときに、人が急に話しかけてきた。注意を払っていないので、何を言われたのか分らず、聞き直そうとしたが、その瞬間、相手が言ったことがまだ耳に残っていることに気づき、聞き返さなくてもすんだ。

そのようなときは、耳に残っていると感じるもの、それが実際には耳というより、感覚記憶に残っているのである。

・短期記憶 次々と消え去る情報の中から幸運にも拾いだされた情報のことを短期記憶という。 人間は何をするにも少し前のことを覚えていないとめちゃくちゃになってしまうだろう。 例えるなら、人が話しているのを聞く時である。ひとまとまりの話の終りのところにいったとき、最初の所を忘れている、などということでは、何を言っているか理解できなくなってしまう。数秒、数十秒の間、情報を記憶しておくことがどうしても必要になるだろう。 そういった、「今」を「次の今」へとつないでいく「時の連続性」の分担をするのが短期記憶である。 そんな重要な役割をもつ短期記憶だが、これの最大の特徴は、記憶容量に限界があるということである。このサブシステムには、7項目前後の情報しかキープしておけないのだ。 一例を挙げると、電話番号で7ケタの番号を電話帳でみて頭にいれただけで、まぁ間違えずにダイヤルすることができる。しかし、①ダイヤルしているときに誰かが話しかけるなどの邪魔が入ると、もう忘れてしまう。あるいは、②どこか知らない土地の市外局番も含めて10ケタ以上の番号になったりすると、たいていは覚えることができない。メモを見たりすることが必要になる。 ①の場合、別の情報が短期記憶に入り込んできたために、せっかく短期記憶に入れた番号が押し出されてしまうのだ。また、②の場合には、番号が長すぎて短期記憶に入りきらない。この場合も一部の数字が押し出されてしまうのだ。 短期記憶には記憶容量に限界があり、7項目前後だということを発見したのは、ジョージ・ミラーという心理学者だ。彼はいろいろな材料で実験して、「不思議な数7プラスマイナス2」という論文を発表した。 このことにも関係しているが、短期記憶の忘却というのは、容量限界のために情報がはみ出るというか、押し出されてしまう。それが忘却なのだ。 感覚記憶の場合の忘却は、時間がたつと、といってもほとんど一瞬に近い状態だが、情報が消失してしまうことだった。短期記憶でも、時間に伴う消失があり、10数秒から数10秒で消えてしまうと考えられてきた。しかし、最近の研究から、時間に伴う消失が全くないわけでもないが、主な忘却形態は「押し出し」だと考えられている。この押し出しを防ぐためには、「リハーサル」といい、情報を頭の中で繰り返すリハーサルを「維持リハーサル」、キープしようとしている情報についていろいろ処理を加えるやり方を「精緻化リハーサル」と呼ぶ。

・長期記憶  これは規模でいうと、3つの中で最大規模のサブシステムである。長期にわたって情報を記憶しておくもの。場合によっては一生の間記憶されているものもある。この長期記憶の記憶容量は、短期記憶の場合とがらりと違って、実際上、無限と考えてさしつかえない。 では、長期記憶の場合の忘却はどうなっているのだろうか。これはいまだによく分かっていないが、大別して、2つの場合があることは間違いない。①記憶から情報そのものが消失してしまう場合で、「真性忘却」という。もう一つは②記憶が残っているのだが思い出せない場合で、「仮性忘却」である。①の真性忘却の代表的な病気は、「コルサコフ病」、「アルツハイマー病」などで、脳の病変にともなって、記憶の消失が起こる。そういった病気ではなくても、脳の老化などで、長期記憶から少しずつ情報が消えるという場合もある。 それから、「記憶固定」などといい、情報が長期記憶にしっかり定着するには、時間がかかる。また、記憶固定がまだ不安定の時に、大きなショックを受けると消えてしまう。電気ショックや打撲などの物理的ショックや、突然の不幸などの心理的なショックからでも起こりうる。 ②の仮性忘却がおこるには、4つの原因がある。 ⑴・・・単純な「検索の失敗」による仮性忘却。長期記憶は膨大な情報貯蔵庫であり、そこから1つの情報を探し出す、つまり「検索」するのは、図書館でいえば、膨大な蔵書の中から一冊の本を探し出すようなものなのである。そのため、特に情報のしまい方がごちゃごちゃだとすると、必要な情報を検索できないということが起こる。 ⑵・・・「干渉」による仮性忘却。これは他の情報が検索を邪魔することで、これも検索の失敗なのだが、原因がやや異なる。例をあげるなら、結婚後の姓を何度聞いても「忘れてしまう」。それは、長期記憶の中で、その人と長年結びついてきた旧姓の勢力が強く、新しい性の検索が邪魔されてしまうのだ。 ⑶・・・「抑圧」による仮性忘却。これは精神分析学のフロイトの考えである。「あなたの頭脳は、あなたが思いだしたくないようなことを抑え込み、思い出さないようにしている。しかも、抑えていることを、あなたには気づかれないようだ。思い出すと恥ずかしいような体験を忘れてしまっている。」場合などだ。 ⑷・・・その他。過度の緊張、不安、あるいは感情的興奮は、検索を邪魔する。苦労して「せりふ」を覚えてたのに、あがって「忘れて」しまったなどだ。また、疲労なども検索を困難にし、仮性忘却。を起こしやすい。  このように様々な原因で仮性忘却が起こる。これを考慮すると、真性忘却の割合は小さく、いったん長期記憶に固定された情報は、ずうっと残っていることの方が多いのではないかと考えられている。


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