摂食障害
出典: Jinkawiki
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概要
摂食障害とは、神経性食欲不振症(拒食症)と神経性大食症(過食症)の総称である。表面上はまったく反対の食行動異常であるが、両者は基本的には同じ病態で、ある時期には拒食の状態であったものがその後、過食の状態へと移行する場合が多くみられる。 神経性食欲不振症は、典型的には若い女性がやせようとしてダイエットして食べなくなり、その結果著しい体重減少をきたし、無月経など様々な症状を伴うものである。摂食障害の心理的な原因にはいろいろなものがあり、家庭、学校、職場、友人などの人間関係での悩みや自己実現、独立と依存の葛藤などの発達上の課題に対するとまどいから発症するケースが多いといわれている。古典的には、成熟拒否、肥満恐怖、そして幼児期への退行と理解されているが、行動論の立場からは、このような心理的なストレスに対する適切な対処をとることができずに、もっぱら摂食してやせることで対処していると考えることができる。
症状
厚生労働省の研究班による診断基準は以下のとおりである。この6項目のうちすべてを満たすものを確診例(典型例)、1つでも満たさないものを疑診例(周辺群)とする。
1)標準体重のマイナス20%以上のやせ
標準体重のマイナス20%以上のやせが、ある時期にはじまり3カ月以上続く場合で、典型例ではマイナス25%以上やせることもある。
2)食行動の異常
食行動の異常は、単に食べないだけではなく、経過中には逆に過食、大食あるいは隠れ食いをすることもある。また、やせるために過度に運動したり、下剤を乱用したり、嘔吐(おうと)をしたりすることがある。
3)体重や体型についてのゆがんだ認識
極端なやせ願望、肥満恐怖やボディ・イメージのゆがみがみられるが、自分では病的だと思っていないので病識に欠けることがある。
4)30歳以下の発症
この病気は、思春期の女性に多く、30歳以上で発症するケースはごくまれである。また、男性例は非常に少なく、若い女性特有の病気といえる。
5)無月経
体重減少や心理・社会的ストレスによって、女性ホルモンのアンバランスが生じ、2次的に無月経となる。多くの場合、体重が回復すれば月経は再開し後遺症は残らない。
6)やせの原因となる他の器質的疾患がないこと
この病気の診断には、やせの原因となる他の病気がないことが前提である。例えば、ガンの末期で消耗してやせた場合、うつ病で食欲がない場合、大きなショックによる一時的な食欲低下とは区別しなければならない。
原因
摂食障害になる心理学的背景として以下のような説がある。
1.親との不良な関係、2~5歳児期の人格基礎形成期に欲求5段階の安全安心の欲求、愛情や所属の欲求が満たされず、間脳視床下部食欲中枢に障害が起きているという説
2.対人関係の恐怖からの代償行動説
3.「女性性の拒否」による代償行動説
4.肥満への恐怖からのダイエット・ハイ説
5.ストレス説(結婚生活のストレスや複雑人間関係、深いトラウマ含む)
6.遺伝説
診断基準
神経性無食欲症 Anorexia Nerbosaの診断基準
A:年齢と身長に対する正常体重の最低限、またはそれ以上を維持することの拒否(例:期待される体重の85%以下の体重が続くような体重減少、または成長期間中に期待される体重増加がなく、期待される体重の85%以下になる)。
B:体重が不足している場合でも、体重が増えること、または肥満することに対する強い恐怖。
C:自分の体の重さまたは体型を感じる感じ方の障害;自己評価に対する体重や体型の過剰な影響、または現在の低体重の重大さの否認。
D:初潮後の女性の場合は、無月経、つまり、月経周期が連続して少なくとも3回欠如する(エストロゲンなどのホルモン剤投与後にのみ月経が起きている場合、その女性は無月経とみなされる)。
●病型を特定せよ
制限型:現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的に無茶食い、または排出行動(つまり、自己誘発性嘔吐または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用)を行ったことがない。
無茶食い/排出(浄化)型:現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的に無茶食いまたは排出行動(つまり、自己誘発性嘔吐または下剤、利尿剤、浣腸の誤った使用)を行ったことがある。
神経性大食症ブリミア Bulimiaの診断基準
A:無茶食いのエピソードの繰り返し、無茶食いのエピソードは以下の2つによって特徴づけられる。
(1)他とはっきり区別される時間の間に(例:1日の何時間でも2時間以内の間)、ほとんどの人が同じように食べる量よりも明らかに多い食物を食べること。
(2)そのエピソードの間は、食べることを制御できないという感覚 (例:食べることをやめることができない、または、何を、またはどれほど多く食べているかを制御できないという感じ)。
B:体重の増加を防ぐために不適切な代償行為を繰り返す、例えば、自己誘発性嘔吐;下剤、利尿剤、浣腸、またはその他の薬剤の間違った使用;絶食;または過剰な運動。
C:無茶食いおよび不適切な代償行為はともに、平均して、少なくとも3ヶ月間にわたって週2回起こっている。
D:自己評価は、体型および体重の影響を過剰に受けている。
E:障害は、神経性無食欲症のエピソード期間中にのみ起こるものではない。
●病型の特定
排出型:現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は定期的に自己誘発性嘔吐をする、または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用をする。
非排出型:現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は、絶食または過剰な運動などの他の不適切な代償行為を行ったことがあるが定期的に自己誘発性嘔吐、または、下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用はしたことがない。
治療法
1)身体的な治療 長期間の節食、拒食により著しい体重減少をきたし、極端な例では栄養失調で衰弱死するケースもまれにある。したがって、高度のやせの場合は、点滴、高カロリー輸液などで栄養状態を改善する必要がある。
2)行動療法 行動療法では、食行動異常を誤った学習による不適応行動と考え、より適切な食行動を再学習するという治療を行う。
3)認知行動療法 この病気の特徴として、食行動や体重・体型についてのゆがんだ認識の仕方が認められ、このような認知のゆがみを修正するという治療法である。
4)家族療法 この病気は、家族の人間関係のあり方と密接な関わりがある。家族療法は、家族全体の問題として取り組み、家族関係のあり方を調整していく治療法である。
5)心理療法(カウンセリングなど) この病気の人は、多かれ少なかれ発達途上の自立・自己実現という問題を抱えている。したがって、何らかの心理療法により、自我発達・自己成長へ向けてのアプローチが必要である。
DSM-Ⅳ 神経疾患の診断・統計のマニュアルPp553-554
家庭の医学事典 大前 利道 西東社