虐待への対応
出典: Jinkawiki
重症度の判断基準
Ⅰ.生命の危険あり:子供の生命の危険が「ありうる」「危惧する」もの
ⅰ.身体的暴力によって生命の危険がありうる外傷を受ける可能性があるもの
(行動)
① 頭部外傷をおこす可能性がある暴力(乳幼児を投げる、頭部を殴る、逆さに落とす)
② 腹部の外傷を起こす可能性がある暴力(腹部を殴る、踏みつける、殴る)
③ 窒息する可能性がある暴力(首を絞める、鼻、口をふさぐ、水につける、ふとん蒸しにする)
(状況)
④ 親が「殺したい」「自分がかっとなって何をするか分からず恐い」など自己抑制がきかないことを訴え、子どもは乳幼児である
⑤ 親子心中、子どもの殺害を考えている
⑥ 過去に生命の危険のある虐待歴のあるもので、再発の危険性があるもの
ⅱ.ケアの不足のため死亡する可能性がある(ネグレクト)死亡原因としては肺炎、敗血症、脱水症、突然死、事故死などが考えられる
① 乳幼児に脱水症、栄養不足のための衰弱がおきている
② 乳幼児で感染症や下痢なのに、または重度慢性疾患があるのに医療の受診なく、放置されており生命も危険がある(障害乳幼児の受容拒否に注意する)
Ⅱ.重度虐待:今すぐに生命の危険はないと考えられるが、現に子供の健康や成長や発達に重要な影響を生じているか、生じる可能性があるもの。子供と家族の指導や子供を保護するために誰かの介入(訪問指導、一時分離、入院など)が必要である
① 医療を必要とするほどの外傷があるか近い過去にあったもの
例:乳児や歩けない幼児で打撲傷がある
骨折、裂傷、目の外傷がある
熱湯や熱源による広範囲の火傷
② 成長障害や発達遅滞が顕著である
③ 生存に必要な食事、衣類、住居が与えられていない
④ 明らかな性行為がある
⑤ 家から出してもらえない(学校にも)、一室に閉じこめられている
⑥ 子供へのサディスティックな行為(親は楽しんでいる)
Ⅲ.中度虐待:今は入院を必要とするほどの外傷や栄養障害はないが、長期にみると子供の人格形成に重い問題を残すことが危惧されるもの。誰かの援助介入がないと、自然経過ではこれ以上の改善が見込めないもの
① 今まで慢性にあざや傷痕(タバコなど)ができるような暴力を受けていたり、長期にわたって身体ケアや情緒ケアをうけていないために、人格形成に問題が残りそうであるもの
② 現在の虐待そのものが軽度であっても、生活環境などの育児条件が極度に不良なために、自然経過での改善がありそうになく、今後の虐待の増強や人格形成が
危惧されるもの
例:養母が子供をひどく嫌っている
虐待や養育拒否などで施設入所した子供の再発
多問題家族などで家庭の秩序がない
経済状態が食事にも困る性格のもの
夫婦関係が険悪で子供にも反映している
犯罪歴家族、被虐待歴ある親
③ 慢性の精神疾患があり(分裂病、うつ病、精神遅滞、社会病質、覚せい剤)子供のケアができない
④ 乳幼児を長時間大人の監督なく家に置いている
Ⅳ.軽度の虐待:実際に子供への虐待があり、親や周囲のものが虐待と感じている。しかし、一定の制御があり、一時的なものと考えられ、親子関係には重篤な病理が見られないもの。しかし親への相談は必要である。
① 外傷が残るほどではない暴力
例:乳児を叩く、かっとなって自己制御なく叩いてしまうと自己報告する
② 子供に健康問題を残すほどではないが、ネグレクト的である。
例:子供の世話が厭で時々ミルクを与えない
Ⅴ.虐待の危惧あり:暴力やネグレクトの虐待行為はないが「叩いてしまいそう」「世話をしたくない」など子供への虐待を危惧する訴えがある
重症度判断基準 補足
子供の状況、母親および父親など養育者の社会心理的状況、地域社会など環境要因を加味
する
例えば以下のように
・子供が病弱である(アトピー、未熟児)よく泣く、手がかかる
・上、または下の兄弟姉妹との年齢が接近している。兄弟姉妹に障害がある
・非常に神経質な母親(精神障害とは別に)
・育児知識が不足している。一般的に子供の発達状況を把握できていない
・夫の協力や理解がない(話も聞いてくれない)
・近隣に話を聞いてくれる人がいない(友達がいない)→転居後他の人との交流が下手
・夫の実家とうまくいってない(特に初めての育児の場合は重視する)
・利用できる社会資源が乏しい
などのことを判断基準の補足とし、これらのうち何があると重度、中度、軽度とするので
はなく、ほかの要素と関連させて重症度のランクを1ランク上げたり下げたりする。
虐待の重症度・緊張度別の対応
《生命の危険あり、重度虐待の場合》
ただちに子供を(家庭)親から引き離し、安全な場所(病院・乳児院・児童相談所など)に保護
する必要がある。緊急医療が必要無くても暗に家族の問題解決への援助に医師が協力する
ことの一つとしての入院の必要性を、親に匂わせることで入院の承諾を得られるようにす
る。ただし子供の入院により詳細な検査と調査の立ち入りを感じさせてしまうと、親が拒
否的になる場合がある。その時は継続的にかかわっていく意思を示すとともに児童相談所
や福祉事務所への通告、保健所への連絡、地区担当の保健婦の協力をあおぐことである。
現在子供の生命を救うために親の承諾なしに子供を措置することは法的にも現実的にも困
難が多い。児童相談所の緊急一時保護制度も短期的には有効でも根本的な解決には繋がら
ない。今後法律の整備のみならず、そのための施設も含め、子どもを救うための多職種の
ネットワークの発達が望まれる。
《中等度~軽度の虐待の場合》
医師と両親の信頼関係の成立に努力する。継続して外来に来れるような雰囲気づくりを心
がける。その上で保健所、児童相談所へ連絡を取り協力を乞う。とくに保健所の保健婦の
協力は家庭訪問や日常的育児への援助に非常に有効である。虐待の有無よりも実際に母親
の抱えている問題、子どもの問題に一つ一つ具体的な解決策を提示していくことが結局信
頼関係を育て結果的に虐待の再発を防止するように役立つこととなる。
家族との関係は安定しているか、虐待は再発していないかなどの条件によって対応は繰り
返し出発点に戻ることがある。再発により予想以上の問題の深刻さ、解決の困難さが明ら
かにある場合がある。そのような場合には早急に関係者(医師・保健婦・児童相談所のケー
スワーカーなど)が連絡を取り合い、必要ならケースカンファレンスを開き、対策を検討す
る。虐待を疑ってからの処理の段階を次ページに示す。しかし必ずしも、具体的ケースが
この図式通りに運ぶわけではない。