沈黙の螺旋
出典: Jinkawiki
沈黙の螺旋
「沈黙の螺旋(the Spiral of Silence)」とは、メディアがある問題を報道することによって、その問題に対し少数派の意見をもつ人々は沈黙し、多数派の意見をもつ人々の声が一層強く報道されることになる、というメカニズムを説明する理論である。
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概要
人間は他者から孤立することを避けたいという自然な欲求(孤立への恐怖)を持つとともに、周囲を観察しコミュニティの意見動向を直感的に把握する能力(順統計的感覚)も備えている。それゆえ、ある争点に関して、自分の立場が社会で少数派である、あるいは劣勢になりつつあると感じると、少なくとも公の場では意見表明を控える(=沈黙を守る)ようになる。逆に、自分の立場が多数派であったり優勢になりつつあると知覚したりすると、自信を持って公の場で意見を表明する傾向が生じる。こうした現象が螺旋的に進行することによって、優勢と目された立場の見かけ上の勢力が増大し、さらにそれは元の支持層以外の同調行動を誘発することで、実質的にも勢力のある立場となっていく。逆に、劣勢と知覚された立場はますます孤立の度を深めていく。このプロセスが繰り返されることにより、世論が多数派意見の方向へ収斂していく。こうした現象を、ドイツの世論研究者ノエル=ノイマンは「沈黙の螺旋」と呼んだことから、これらの説は「沈黙の螺旋」理論とされる。この理論を突き詰めて考えると、情報の受け手である一般市民は、自分の意見が社会の多数派と異なってしまう場合に、その社会の中で孤立し、何らかの不利益を被る(たとえば、就職ができない、会社の中での昇進が止まるなど)と考えるので、多数意見に同調すると考えられる。そうすると、「沈黙の螺旋」によって自分の意見を多数派に同調させる市民は、合理的に状況判断をしている市民ともいえる。彼らはメディアを、世間の多数派の意見分布を示す窓のように捉えている、といえるだろう。
理論の留意点
そもそも少数派の立場に立つことで「孤立への恐怖」を感じるような争点はある程度限られている。たとえば、ナショナリズムを刺激する問題や、伝統的なタブーに抵触する問題など、典型的には強い情緒的ないしは道徳的要素を含んだトピックがこれに該当する。
ハードコア層
もうひとつの留意点として、ハードコア層の存在がある。すべての人が孤立への恐怖に支配されるのではなく、たとえ少数派であっても自分の信条に確信を持ち、それをいつも声高に表明しようとする人々もいる。ノエル=ノイマンはこうした人々をハードコア層と呼んだ。ハードコア層は、沈黙の螺旋の埒外にある。仮説に当てはまる人々、すなわち、意見の風向きの知覚と自己意見の表明との間に有意な関連が見られるのは、非ハードコア層に限られることは研究により実証されている。
有声化機能(the articulation function)
実際には多数派とは言えない意見・主張であっても、それがマスメディアによく登場していればその支持者は公の場で安心して意見表明することができる。逆に、客観的には多数派であっても、その意見がマスメディアであまり取り上げられなければ、その支持者は「声なき多数派」に甘んじるほかない。これは、マスメディアが社会的に有力な公共フォーラムであり、一般大衆に対して何を議論すべきかについてのモデルを提供するからだと考えられる。この有声化機能仮説に従えば、ある争点に関してマスメディアでより目立つ意見は、社会的にも顕在化することで、一定の勢力をもった意見、すなわち世論としてみなされるようになる可能性がある。この有声化機能は、メディアによる正統化機能の一種とも解釈できる。
出典
蒲島郁夫 竹下俊朗 芹川洋一(2007)『メディアと政治』 有斐閣アルマ 久米郁男 川出良枝 古城佳子 田中愛治 真渕勝(2003)『政治学』 有斐閣 無藤隆 森敏昭 遠藤由美 玉瀬耕治(2004)『心理学』 有斐閣
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