環境基本法
出典: Jinkawiki
1993年に制定された環境保護をその目的とした法律。全3章から成っており、様々な環境問題における法律の基礎となっている。1章では基本理念を謳った総則が、2章では「環境基本計画」など環境の保全に関する基本的施策が書かれ、3章では環境審議会などが規定されている。第一章 第四条「環境の保全は、(中略)健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展する事ができる社会が構築されることを旨とし(中略)行われなければならない。」とされている。 環境基本法の基本理念にのっとっていない 法案の目的に「経済の成長」(法案第1条)、および基本原則に「経済の持続的な成長を実現しつつ」と記載がある(法案第3条)。 環境基本法の基本理念では、環境の保全をすすめるには「健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら、持続的に発展することができる社会を構築する」ことと規定している(環境基本法第4条)。 ここでいう「健全な経済の発展」とは、資源、エネルギーの効率化をすすめ、大量消費、大量生産、大量廃棄の社会を見直し、環境への負荷の少ない社会に転換していくことを意味している(環境省総合環境政策局総務課編著「環境基本法の解説」)また、環境基本法でいう「持続的に発展できる社会」とは、環境の保全が可能な範囲で持続的に発展できる社会である。人類の存続の基盤である環境は、復元する力に限界があるためである。 法案で定める「経済の持続的な成長」と、環境基本法で定めた「持続可能な社会の発展」とは意味が大きく異なる。経済の成長(Growth)は経済の物理的スケールの増大を意味し、GPDなどを指標とするが、経済の発展(Development)は経済財の構造などの質的改善を含み、寿命・識字率・所得・自由度などの生活の質の改善を示す(吉田文和、「環境経済学講義」) 環境基本法の基本理念にある「持続的に発展できる社会」の考えは、1992年の環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)のときに広く取り上げられ合意された「持続可能な発展」の考えを踏まえている。その意味は、「人々の生活の質的改善を、生活支持基盤となっている各生態系の収容能力の限度内で生活しつつ、達成すること」である。「持続可能な経済」は「持続可能な発展」の結果得られる(環境省総合環境政策局総務課編著「環境基本法の解説」)。国際社会はこの考えを共有し、気候変動枠組み条約や生物多様性条約を制定した(注2)。 世界の共通認識は「持続可能な社会」をめざすことであり、「経済の持続的な成長」ではない。 公害対策から始まった我が国の環境問題の歴史上もっとも大きな価値観の転換が、環境基本法の基本理念の制定といっても過言ではない。 1967年に公害対策基本法を制定し、1970年の改正時に経済調和条項(「経済調和条項」とは、「生活環境の保全については、経済の健全な発展との調和が図られるようにするものとする」条文。環境保全を経済の枠内で行う考え方)を削除したときが、第一の価値観の転換のときである。これによって、国際競争に直面する産業界の負担が過重にならないよう産業の成長のもとで生活環境の保全の調和をはかる、それまでの産業界中心の認識から、生活環境の保全は企業の活動に優先するとの法律上の価値判断を示した)。 さらに、1992年に環境基本法を制定し、限りある環境(第3条)のなかで経済を発展させるとの考えを取り入れた時点で、環境が保全できる範囲で経済を発展させるという、第2の価値観の大転換があった。環境基本法は、あくまでも環境を基盤としつつ、経済を環境に適合させる形で環境と経済を統合することを示している。 天然資源の消費を抑制し、環境への負荷を低減する循環型社会の形成を目的として制定した循環型社会形成推進基本法(2000年)は、環境基本法の基本理念にのっとっている。大量消費・大量生産・大量廃棄の社会から循環型社会へ移行するために、「環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会の実現」を推進すると定めている(循環型社会形成推進基本法第3条) 同法にもとづいて制定した資源有効利用促進法などをもとに、容器や家電などの個別物品に応じたリサイクルの法規制が成立、産業界でも具体的な措置がすすんでいる。すでに「経済の成長」ではなく、「持続可能な社会の実現」に向けて動いている。
参考文献
『現代政治用語辞典』