音楽療法3
出典: Jinkawiki
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定義
「音楽療法士の数だけ音楽療法の方法がある」と言われているため、一言で表すのは難しく、音楽療法の一般的な定義が必要となってくる。 いろいろな定義がありますが、日本音楽療法学会の定義は、「音楽療法とは、音楽の持つ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に仕様することをさすものとする」とされている。
1/fゆらぎ・α波
1/f揺らぎというのは、自然現象によくみられ、具体的には、人間の心拍の間隔であったり、ろうそくの炎の揺れ方、小川のせせらぐ音、目の揺れ木漏れ日などもそのゆらぎである。科学的証明はされていない。このゆらぎは規則正しい音と、不規則な音の間のもので、人に快適感やヒーリング効果を与えるとされているものである。 この揺らぎがでている音楽として、歌手のMISIA、美空ひばり、宇多田ヒカル、松任谷由実、ドリカムの吉田美和、音楽家のあの有名なモーツァルトの作曲する音楽からも見られるとされている。これらの音楽や、自分の好きな音楽、クラシックなどを聞いているときに出やすい傾向がある周波数をα波という。以前から「癒しを感じると脳波にα波が多くなる」などと言われており、78~13ヘルツの脳波で、リラックスした際に現れやすい。
作用
①心理的作用 悲しい出来事があったとき、音楽を聴いて慰められた、落ち込んでいるときに音楽を聴いて励まされたり、ある特定の曲を聴くと、その曲にまつわる出来事が思い出されたりするのも、心理的作用になる。 音楽を聴いたり演奏したりすることが、心を癒したり、「カタルシス効果」などをひきおこし、感情に働きかけることを言い、音楽を聴くことで感情に変化が表れるようなことである。 カタルシス効果:遊びの効用であり、心理療法に含まれる治療のメカニズムの一種。排泄(はいせつ)や浄化ともいいます。
②生理的作用 生理的作用とは、音楽自体が脳細胞や神経細胞、皮膚細胞、呼吸など肉体そのものに働きかけることであり、すなわち音楽が直接的に身体に影響を及ぼすことを言う。例えば、音楽を聴くと自然に体が動いてリズムをとっていたりだとか、運動会などでマーチの曲をかけると自然と行進の足踏みをしていたり、つい音楽に体が反応してしまうような場合も生理的作用が起きているといえる。おもに脈拍、呼吸、血圧などに、影響してくる。
③社会的作用 例えば、歌を一緒に歌う、楽器を一緒に演奏する、という時に、きれいな音楽を作ろうという意思があるなら、一緒に歌い始めたり、同じ音で始めたり、同じテンポで歌ったり、演奏したり、協調して、何かを行わなければいけない、という特徴を音楽はもっていて、一種のコミュニケーションの役割を果たすことを言う。一緒に演奏したりする集団をつなげるパイプみたいな役になる。みんなで一つの曲を楽器演奏したり歌ったりすることで、一体感が得られて、他者とのかかわりを持つことができ、集団によって個々の達成感や満足感を得ることなども、この作用の一つにあげられる。
音楽の力
①緩和 いらいらした気分を解きほぐしてくれたり、緊張感に満ちた心をゆるめるといったエネルギーをもっている。悩みや不安をすべて忘れ去るとまではいかないものの、冷静さを取り戻して自分を見つめ直すことができるきっかけにもなる。
②緊張 音楽は気持ちを「緩和」させることもできれば逆に、「緊張」させることもできる。強音で、しかも速いテンポの曲などを聴くと人の心は緊張感に包まれると思われる。そしてそのような曲を聴くだけではなく、特に人の前で歌ったり実際に演奏してみたりした時は、なおさらの緊張を覚えるのではないか。それは音や歌詞を間違えないように、より良く聴かせようとする心の動きによってだと思われる。音楽家はこのエネルギーを用いることにより、意図的に人に対して興奮や不安、さらに恐怖感などももたらすことができる。そして、この緊張のエネルギーは前述した緩和のエネルギーとはまったく逆のエネルギーとなる。
③拘束 何か曲を一曲、歌ったり演奏したりする時、例えば四分音符が一分間に60回打たれるテンポで演奏しなければならない、調は何でなければならない、拍子は何分の何拍子で・・・などとその曲その曲に決まりがある。これに従い、1曲を歌う、ないし演奏しきるまで、その人はその曲に拘束される、というわけだ。この拘束のエネルギーも緊張のエネルギーと共に緩和のエネルギーと対峙する。
④回顧 昔のことを懐かしむ、「懐古」とは違い、過ぎ去った事柄をあれこれと思い返すことである。したがって、喜びだけではなくて、苦しみや悲しみを伴った過去を心に思い浮かべることも含まれる。これらの事柄が音楽記憶と共に脳裏に貯蔵されていることが多々あるので、音楽を演奏したり歌を歌ったり聴いたりすることによって、幼い頃や若かりし時代の記憶がよみがえり、その時に出会った人、見た風景が思い出されることがある。このように、状況と記憶が結びついていることを心理学では「記憶の状態依存」という。
⑤伝達 時を告げる手段:時報・神社の鐘・区役所のサイレンなど そのほか:車のクラクション、ガス漏れ警告器、クイズの不正解の「ぶ~」という音など、電子レンジの出来上がった音なども一例にあげられる。もっと複雑なものをあげれば、船で用いられているモールス信号もその1つである。
⑥浄化 いわゆる音楽によってストレスを発散するような時、カラオケやドラムをむやみやたらに叩いたりという時、音楽の力を借りて心の汚れを落としていると言えます。これを浄化という。
実践方法
①歌唱 自由に好きな歌を歌ってもらう場合と、音楽療法士などが準備したものを歌ってもらう場合、そして両者が話し合って歌う歌を決める場合がある。前述したように、歌うことは音楽に拘束されることであり、曲によって緩和と緊張のエネルギーに支配される。さらに歌によって過去を思い出すということもあるので回顧のエネルギーも働いて、心を清めるという意味では浄化のエネルギーが、そして歌に乗せて心を伝えたいという意図がクライエントにあるのであれば、伝達のエネルギーがそれぞれ働く。このように歌唱は、音楽が有する全てのエネルギーを内包するが、ここではクライエントが歌うことができる、という心身の活動があって成り立つものとする。
②演奏 演奏とは器楽演奏の事をさし、器楽は、鍵盤・管・弦・打楽器に大別される。これらの楽器のうちのどれを使うかは、クライエントに対する音楽療法の目的によって選別される。クライエントが過去に習得した楽器を用いて療法を行う事もでき、拘束というエネルギーを多分に用いて器楽を練習させたりと、いろいろな方法があります。
③鑑賞 音楽療法における鑑賞とはクライエントに音楽を聴かせることを意味する。音楽にもさまざまなジャンル、作曲家と作品、そして演奏家が存在するが、音楽療法の治療現場で用いられるものは器楽と同じで臨床目的によって選ばなければならない。同じ曲でも、クライエント一人一人感じ方が違う上に、回顧があったりするとまったく違う事を感じてしまうかもしれなく、従ってもし複数のクライエントに対して1つの曲で音楽療法を施そうとした場合それは上手く行かないこともあるので注意が必要な方法でもある。
④創作 自分だけのオリジナル曲を作曲することはクライエントにとって大いなる喜びになると思われる。更に、自己を自由に表現するのであるから、「人に理解してほしい」という本能を満足させることにもつながるが、これも、器楽演奏と同じで簡単にできることではないので、対象者が作り出した音楽作品を音楽療法士が記憶、あるいは記譜して再現してあげることが要求されるのである。
参考・引用文献 ・著:岡本仁司 ようこそ音楽療法の世界へ ~若き音楽療法士たちに捧ぐ~ 筒井書房 2000年 ・著:櫻林仁 心をひらく音楽—療法的音楽教育論 音楽之友社 1990年 ・著:加藤博之・藤江美香 音楽療法士になろう 青弓社 2007年 ・心理学における音楽療法 http://hb8.seikyou.ne.jp/home/pianomed/352.htm