臓器移植2
出典: Jinkawiki
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臓器移植とは
臓器移植とは、重い病気や事故などにより臓器の機能が低下し、近い将来機能が停止する状態にあり、移植でしか治療できない人に対して、他者からその部分を摘出、もしくは一部を提供する医療である。死体から臓器を摘出する死体移植と生きている親族から分けてもらう生体移植がある。臓器を提供する人をドナー(donor、提供者)、臓器を受ける人をレシピエント(recipient、受容者)と呼ぶ。臓器移植には主にドナー本人と家族の同意が必要であるが、現在では家族のみの同意で可とされている。 日本でのドナー待機患者は約13000人。 それに対して移植を受けられる患者は、年間約300人である。
臓器移植の条件
臓器移植をするためのドナーには条件が設けられており、旧臓器移植法では次のような条件に当てはまらなければならない。
①15歳以上であること。
②ドナー本人の同意。
③ドナーの遺族の同意(遺族がいない場合、この条件は除外される)。
④生体移植は親族(6親等以内の血族、及び3親等以内の姻族)でなければならない。
⑤死体移植の場合、脳死後か心肺停止後でなければならない。
この中で問題として挙がっているのは①の年齢制限と⑤にある脳死である。
臓器移植の問題点
年齢制限
まず①の条件にある年齢制限であるが、日本では15歳以下の臓器提供は認められていなかった。しかし、現実には15歳以下であっても臓器移植を必要としている人たちは多く、彼らにとって日本で提供される臓器のサイズは大きすぎる。その場合、海外に行き臓器移植を受けていた。そのため、手術費用はアメリカに心臓移植を受けに行く場合約2億円という、莫大な金額がかかる。家族は街角や学校での募金活動、○○くん(ちゃん)を救う会などを設立して日本中に呼びかけることによってその費用を集めている。
脳死判定
日本の脳死判定は世界に比べても厳しい。脳死判定の際の症状では、深いこん睡、瞳孔の散大と固定、脳幹反射の消失、平たん脳波、自発呼吸の消失—のすべてを満たし、6時間たっても状態が変わらないことを確認する必要がある。そして、旧臓器移植法には脳死について次のようなことが書かれている。
「前項に規定する「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう」
「臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一項に規定する意思の表示に併せて前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないときに限り、行うことができる」
「臓器の摘出に係る第二項の判定は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の一般に認められている医学的知見に基づき厚生省令で定めるところにより行う判断の一致によって、行なわれるものとする」
「前項の規定により第二項の判定を行った医師は、厚生省令で定めるところにより、直ちに、当該判定が的確に行なわれたことを証する書面を作成しなければならない」
「臓器の摘出に係る第二項の判定に基づいて脳死した者の身体から臓器を摘出しようとする医師は、あらかじめ、当該脳死した者の身体に係る前項の書面の交付を受けなければならない」
要するに、「脳の機能が全て停止していると判定されること」「ドナー本人が書面にて同意すること」「家族がそれを拒まない、又は家族がいないこと」「臓器移植を行う医者以外に脳死に関する知識を持った医者が二人以上で判定すること」「判定した医者は厚労省の定める書類をすぐに作成すること」「移植を行う医者は、脳死を判定した医者の作成した書類をあらかじめ交付すること」である。尚、上は臓器移植法の第六条「臓器の摘出」の中の項を書き出したものであるが、この第7条は全6項によって構成されており、そのうちの5項が脳死にかかわることであることを考えると、臓器摘出において脳死にどれほど慎重であるかがわかるだろう。しかし、この厳しさには理由があり、アメリカ等では脳死判定を下した患者が数時間後に蘇生するというケースがいくつも見られているのだ。つまり、海外基準に合わせることにり、本来であれば助かったかもしれない人間を殺してしまう可能性があるため、このように厳格に決められているのである。
臓器移植法改正
2009年7月に臓器移植法が改正された。どのように変わったかは次のようである。
①本人の意思が不明でも、遺族が書面により承諾すれば可能。
②脳死であっても①が適用される。
③ドナー自身が書面により親族への臓器の優先提供の意思を表示することができること。
④臓器提供の意思の有無を運転免許証、医療保険の被保険者証等に記載することができること。
⑤虐待を受けた児童が死亡した場合にその児童から臓器が提供されない。
⑥家族の書面による承諾により、15歳未満の方からの臓器提供が可能。
このように、上で挙げた問題点二つについて改善されるようにと改正されている。
臓器移植法改正後の実例
日本臓器移植ネットワークによると、臓器移植法改正後の脳死判定による臓器提供の件数が改正前の10件前後に比べ、2010年では32件と3倍近く伸びている。2011年7月17日の産経ニュースによると脳死判定での臓器移植が家族承認のもとで245人行われたという。しかし、そこで問題点にあがったのは15歳以下の脳死判定による臓器移植の件数である。15歳以下の脳死判定による臓器移植の件数は、同年4月12日に関東甲信越地方の病院で法的に脳死と判定された10代前半の男児1例のみであった。さらに、NPO法人の調べによると家族承認の拒否件数が5倍になったという。
臓器移植法改正の問題点
改正臓器移植法の問題として挙がっていることの中に「児童虐待の有無の判断」「不正な臓器売買」「本人の意思の真偽性」がある。下はそれに加え「脳死への価値観」を加え説明する。
児童虐待の有無の判断
改正では児童虐待による脳死は認められないと書いてあるが、実際にそれを判断するのは難しいのではと考えられている。臓器提供の際家族に承認を得るわけではあるが、その家族が虐待を加えている張本人であった場合、その事を医師が見抜くことができるのかということである。さらに、中日メディカルサイトによると虐待の可能性があったとして児童相談所に照合を依頼したところ、「診療目的ではない」と断られたという。このように、たとえ医師が虐待の可能性に気が付いたとしても、それを確認するすべがない以上、本当に純粋な気持ちで子どもの臓器提供を承認した親を傷つけるだけでなく、その提供によって助かったかもしれない子どもの命を見捨ててしまう結果にもなりえるのである。
不正な臓器売買
海外において、不正に臓器を売買して金を稼ぐというケースは少なくない。日本ではあまり聞かないが、海外のニュースなどで客が日本人という言葉が出ることがある。それには移植臓器の慢性的不足が関わっている。今までの日本では15歳以下の臓器移植が禁止されていたため、不正な15歳以下の臓器が国内に流れ込んでくることはなかったが、この改正によりその可能性が出てきたのである。さらに言えば、親が金のために子どもを殺してその臓器をするというような海外で起きている事態に至らないという保証はないのである。
本人の意思の真偽性
今回の改正により、移植は本人の意思が不明であっても家族の承認があれば可能と言う形になった。つまり、ドナーとなる本人はドナーカードなどの意思表示において提供を拒否しなければ、提供される可能性があるということである。脳死の問題点でも述べたように、たとえ脳死判定を下されても蘇生する可能性があるため、本人としてはそれにかけてまだ生き続けたいと思っていても、家族の承認によりその願いが断たれてしまうのである。脳死状態である自分の意思を示したドナーカードなども絶対ではない。事故による紛失や、最悪、入院費を考える親族などの手によって消されてしまうことも考えられるのである。
脳死に対する価値観
これは改正前にも言えることであるが、現在でも世論の3割は脳死を死と考えていないという。事実、改正後の家族承認の拒否件数は5倍と出ている。臓器提供が一般化されていなかった時代、家族の承認に基づき臓器提供をした家族が、世間から「子どもを金で売った」「一体いくらもらったんだ」などと言う言われも無い噂によってつらい思いをしたというケースがある。その様な事態が再び起こりかねない危険性がある。更に、脳死についての価値観を抱えているのは世間だけではなく、その家族本人らも、そう思っている場合もある。もし、そんな家族がドナー本人の意思を尊重し、同意した場合、その家族は将来そのドナーを殺してしまったという罪悪感にとらわれることもある。
参考文献
「日本臓器移植ネットワーク」http://www.jotnw.or.jp/transplant/about.html
「社会問題についての演習授業」http://www.ne.jp/asahi/box/kuro/report/
「厚生労働省」http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/01/01.html
「内閣府認証NPO法人」http://www.omtac.jp/index.html
「臓器の移植に関する法律」http://www.medi-net.or.jp/tcnet/DATA/law.html
「改正臓器移植法施行後50 例のまとめ」http://www.jotnw.or.jp/file_lib/pc/press_pdf/20110711.pdf
「ライフ 産経ニュース」http://sankei.jp.msn.com/life/news/110717/bdy11071700320000-n3.htm
「中日メディカルサイト」http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20110131152612991
「いなか小児科医」http://swedenhouse-oita.cocolog-nifty.com/pediatrics/2006/08/post_cb97.html