森の幼稚園 6

出典: Jinkawiki

2013年1月31日 (木) 15:57 の版; 最新版を表示
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[成り立ち]

1950年代半ばデンマークに誕生した森の幼稚園。ドイツでは1990年代半ばからその数が急激に増え、環境教育に熱心な両親のみならず、若者世代を取り込もうと懸命な環境行政や、発育への影響に関心を寄せる科学者からも大きな注目を集めている。森の幼稚園のコンセプトの1つ「五感を使った自然体験」は、環境教育の分野では、「環境市民」を育てるための重要なプロセスだとされている。 元々森の幼稚園は、一人のお母さんから始まった。今から約50年前、森の幼稚園の生みの親となったデンマークのエラ・フラタウという女性は、自分の子どもを毎日近くの森に連れて遊んでいた。それを見ていた近所の人たちは、当時幼稚園が不足していたこともあって、「彼女に自分たちの子どもも預けていっしょに面倒を見てもらってはどうか」と考えるようになった。やがて彼女の周りに住んでいた小さな子どもを持つ親たちは、自主運営によるヨーロッパで最初の『森の幼稚園』を開園した。 ドイツでは、1968年にウルスラ・スーべという女性が有志の親たちと協力して、ドイツで最初の森の幼稚園を開園したが、1990年代の初めまで森の幼稚園の数はごくわずか、その存在は世間からほとんど知られていなかった。 1991年、ケースティン・イェプセンとペトラ・イェーガーという2人の幼稚園の先生は、ある教育専門誌でデンマークの森の幼稚園に関する記事を読み、大変感銘を受け研修を受けた。その後、1993年、北ドイツのフレンスブルクにドイツで最初に公認の森の幼稚園を設立した。このフレンスブルクの幼稚園が行った熱心な広報活動により、そのアイデアはドイツ中に広がり、1990年代半ば過ぎから、ドイツ各地で森の幼稚園が開園している。 現在その数はドイツ全土で300以上にものぼる。バイエルン州食糧・農業・林業省によると、同州だけでも30の森の幼稚園がある(2001年)。「ドイツ全土の自然と森の幼稚園」というインターネット上のリストでは、バーテンビュルテンベルク州が72件、またシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州(ハンブルク市を含む)が55件となっている。

[学習内容]

森の幼稚園の園児は、普通1グループで10人から15人であり、1グループあたりに、教育を受けた先生が1人、研修生や親の有志がアシスタントとして1人か2人つく。 森の幼稚園にも様々なグループがある。具体的に森の幼稚園の様子をいくつか挙げる。 ■フライブルク「森で遊ぶグループ」 森の幼稚園にはいろんなタイプがある。1年中森の中で遊ぶオーソドックスなものから、普段は普通の園舎で子どもたちを遊ばせて、週1回など定期的に森の中へと出かけていくタイプ、また午前中は普通の幼稚園に通っている子どもが、週に1・2回、午後だけ森に通ってくるタイプなど。 フライブルクの森の幼稚園は、普通の幼稚園に通う子どもたちが週に1・2回通ってくるタイプである。 木の枝などを材料にして家づくりに取り組むグループ、また、木の葉や枝、花びらなどで絵を書いたり、ままごとをしたりするグループもあった。 ■バルトキルヒ森の幼稚園「ラヌンケル」 この幼稚園はフライブルクから北東へ15キロ行ったバルトキルヒという町にあり、黒い森のすそ野に位置する町である。朝8時45分、親が車で子どもを集合場所まで連れてくる。集合場所には小さな小屋があり、子どもたちは小屋の中で朝のあいさつをした後、それぞれ自分で持ってきた朝食を食べる。 このような小屋は、どの森の幼稚園にもあり、遊び道具などが置いてある。また天気が悪い日などには、避難場所にもなる。 朝食が終わると森へ出発。広い森の中、遊ぶ場所はその日の天気や、子どもたちの希望を優先して決める。 2月の寒い時期、久しぶりの晴れ間が訪れたこの日は、太陽を浴びようと、見晴らしのいいブドウ畑で遊ぶ。あるグループは、土いじりをし、あるグループは、草花を使って絵をかいたり、また元気に駆け回ったり、それぞれの子どもが、その場にあるものを使って自分の思いつくまま遊ぶ。先生の役目は、子どもたちから自然に出てくる質問に答えてあげること、子どものそばにいて危険がないか見守ること。

[五感を使った自然体験の重要性 ]

園舎も、囲われた敷地も、備え付けの遊具もない森の幼稚園。子どもたちは、一年中、四季を通して森の中。枯れ枝や、落ち葉などを使って、想像力のおもむくまま自由に遊ぶ。 当然、森のなかでの遊びは危険がつきものになる。しかし、子どもたちは体をつかって自分の限界を学ぶ。また、その限界を乗り越えたときの喜びは、自分に対する大きな自信となり、想像力・身体能力・精神と体のバランス・社会性が同時に養われることにつながる。四季の移り変わりを体で感じることができるのも森の幼稚園の特色である。 森の幼稚園に通った子どもは、普通の幼稚園を出た子どもより発育(特に学習の能力)に遅れが出るのでは、と心配する声もある。しかし、ダルムシュタット教育大学教授ローランド・ゲオルゲス)が行った調査によれば、両者で発育レベルに差はほとんどない。学校に入ってからの成長を見てみると、森の幼稚園出の子どもの方が、学習面、社会行動、身体の能力とさまざまな面で成長がいい、という結果が出ている。森の中で遊ぶことで培われた想像力・集中力・我慢強さ・精神と体のバランス・社会性などが子どもの後々の成長にとって大切であることをこの学術調査は肯定している。 森の幼稚園は、子どもたちが五感を使って自然を体験すること、そしてそのためのプログラムの柔軟性を重視している。「五感による自然体験」は、環境教育においてもっとも重要だとされる過程のひとつである。   子どもたちは、物事を理解する前に、まず見たり触ったり五感を使って体験する。そうした中、自然にでてくる興味や疑問が、後々のしっかりとした理解につながるのである。「小さいころに五感を使って学んだことは大人になってからも忘れない」。フライブルクのエコステーションをはじめとする多くの環境教育の施設、団体が教育理念として掲げている。 同時に、子どもたちの自然体験は帰宅後に両親や祖父母など家族で共有される。「子どもが大人、特に両親を教育する」という側面も環境行政にとっては重要である。

[保護者の関わり]

プログラムの柔軟性に関しては、子どもたちの当日の雰囲気(元気があるかないか)、年齢層や家族の同伴、身体的障害の有無など、それに時間や天候などで調整するといった柔軟性がある。また、アンケートなどを通して幼児や両親からのフィードバックを記録し、森の幼稚園を常に改善、適応させていく重要性も説いている。 一方で、森の幼稚園設立には、法的、経済的な責任と手続きも伴う。「森林教育の手引き」には、そのような実用的なアドバイスも若干載っている。同志を募る手順や、会費の集め方、また子どもが怪我をした場合の法的な手続きにもページが割かれている。 今回紹介した事例の場合、園の経営は、主に両親から集める会費(園費)よりまかなっていた。 フライブルクのケースでは、子ども1人あたり1時間で3.5ユーロ(約480円)となっている。このほかに、夏と冬には保護者が中心のお祭りが開催され、その売上金が運営費の一部となる。補助金は出ていない。補助金をもらうにはある一定の基準を満たさなければならず、自治体からの補助金は運営を開始して2年経過した後に支給される。

[逆転の発想]

森の幼稚園は、こうした経営上の不確定要素や子どもの怪我といったリスクがある。しかし、近年、ドイツ連邦環境省では若年層をターゲットとした環境にかかわるコンテストやイベントの開催、CD-ROM教材の作成などを盛んに行っている。幼児や若者に自然に触れる機会を増やすことは政府にとっても火急の課題である。2003年2月にフライブルクで行われたシンポジウム「自然保護における広報」でも、ドイツ連邦自然保護庁が幼児や若年層へのアピールということを強調している。 森の幼稚園は、幼児という最年少層に、五感を使って自然を体験する場を提供し、自然の魅力をアピールする絶好のチャンスなのである。

参考文献

ドイツの自然・森の幼稚園 ~就学前教育における正規の幼稚園の代替物~    ペーター・ヘフナー

森のようちえん: ~自然のなかで子育てを~     今村 光章

投稿者

F.F.C


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