酸性雨3
出典: Jinkawiki
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酸性雨とは
酸性雨とは、二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)などを起源とする酸性物質が雨・雪・霧などに溶け込み、通常より強い酸性を示す現象である。酸性雨は、河川や湖沼、土壌を酸性化して生態系に悪影響を与えるほか、コンクリートを溶かしたり、金属に錆を発生させたりして建造物や文化財に被害を与える。
雨に酸性物質が溶け込む仕組みはふたつあり、ひとつは雨の元となる雲ができるときに空気中の酸性物質自体が雲粒の核となる場合で、もうひとつは雲から雨粒が落ちてくるときにその経路上に漂っている酸性物質を取り込む場合だ。これらが組み合わさって酸性雨ができるが、後者の仕組みを考えると、降り始めの雨粒が空気中の酸性物質を取り込んで洗い流すため、雨が降り続くとその酸性度もだんだんと弱くなっていく。つまり、雨は、降り始め時に酸性が強く、だんだんと弱くなるということだ。
酸性雨の原因と国際的な監視・観測体制
酸性雨の原因は、化石燃料の燃焼(人為起源)や火山活動(自然起源)などにより放出される二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)だ。これらのガスは、大気中で光化学反応などの化学変化を起こし、硫酸や硝酸となって降水に溶け込み、酸性雨となる。
また、原因となる物質が放出されてから酸性雨として降ってくるまでに、国境を越えて数百から数千kmも運ばれることもあり、その動向を監視するために世界各国が協力して様々な観測・分析を行っている。世界気象機関(WMO)の推進する全球大気監視(GAW)計画の下で、ヨーロッパや北米を中心とする約200の観測点で降水の化学成分の測定が行われている。アジア地区では、「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)」の下で、酸性雨モニタリングを共通の手法で行うための取り組みが進められている。
酸性雨の被害
〈森林の被害〉
強い酸性の雨をを浴びるだけでも木々は表面に悪影響を受けるが、枯れる原因は当然表面だけではない。
酸性雨が降り続けると土壌は酸性の物質を含み、酸性化する。すると酸性物質はそのまま水分を通じて樹木の内部に入り込む。そうなると酸性化に敏感な植物の場合、枯死を引き起こしてしまう。またこの時すぐに枯れなかったとしても、急激な酸性化は木々の抵抗力を著しく低下させる。そのため寒波や干ばつに耐えきれず、樹木が一斉に枯れてしまうという現象が起こるのである。
〈湖、河川の被害〉
酸性雨は土壌のみならず、河川や湖も同じように酸性化させる。魚類は本来水質の変化にとても敏感で異なる条件下の水質では同じ種類のサカナは住めない。塩分濃度もそうだが酸性化に対しては特に敏感で、河川や湖が酸性化されると環境の変化に対する許容量が小さい小魚は耐えきれずに死んでしまう。基本的に大きな魚は環境の変化と汚染物質に対する許容量が大きく、小魚は小さくなっている。なぜなら小魚は体が小さいために少しの変化にも対応できないのだ。そのため大型の魚類は生き残る場合もあるが、結局えさがなくなってしまうのでやはり死んでしまう。こうして最後には生命の存在できない死の河川と湖になってしまうのだ。
〈石像などの劣化〉
酸性雨は自然界の産物だけではなく、私たち人間の作ったものにも被害を及ぼす。まず有名なものとしてあげられるのはその国々の貴重な文化財である建築物や彫刻などの腐食だ。全体に溶けて流れた跡がある彫刻の写真は日本でも社会の教科書に載っているくらいで広く知られているだろう。酸性雨はカルシウム分や石灰質を溶かしてしまうため、こういった現象が起きる。
また酸性雨はこれらのような文化財だけでなく、もっと身近なコンクリートやセメントで造られた建造物なども溶かしてしまう。
〈酸性雨による二次災害〉
先に書いたように、酸性雨は森林に深刻な影響を及ぼす。酸性雨による樹木の枯死は非常に規模が大きく、なおかつ一斉に発生する。そのため森林の過剰伐採に継ぐ砂漠化の原因となりうるのだ。
現在の酸性雨は建造物にいくらかのダメージを与えるが、これから酸性の濃度が強まれば被害はさらに広まり、溶かされるものもさらに広まっていく。たとえば列車のレールなどが腐食された場合に脱線事故等が起こる可能性もあるのだ。
日本での酸性雨の状況
全国の主な都道府県で行われている酸性雨の観測結果について、2003年度から2007年度の5年間の降水pHの地点別平均値は4.51~4.95の範囲(全平均値は4.68)にあって、依然として酸性雨が観測されており、10年以上調査が実施されている地点における降水pHの変動については、年により増減があり近年やや低い地点もあるが、全体として横ばいの状況であったと報告されている。また、近年におけるpHが低めの地点については、今後のモニタリング結果に特に注意を払う必要があるともされている。
酸性雨の対策
酸性雨の対策は、原因物質であるSOxやNOxを放出しないことだ。日本は1970年代の公害問題が非常に大きく騒がれた時に工場、発電所等が脱硫(石灰などを加えることによりSOxを煙突外に出さないようにすること)に取り組んだため、現在では世界でも第一位の脱硫施設設置率を誇る国になっている。
ガソリン使用普通乗用車に対する排ガス(NOx)処理対策としては「三元触媒法」が広く用いられている。この方法は乗用車の排ガス中の一酸化炭素、炭化水素、NOxを同時に低減化させるシステムである。最近開発されたハイブリッド車も省エネルギーをおこなうことにより、NOx放出量を少なくしている。
欧州では、酸性化した湖沼にヘリコプターを使用して石灰を散布することがおこなわれている。膨大な費用をかけて湖沼の酸性化を改善しても、酸性雨が降り続く限り石灰散布をくり返さなければならない。さらに、別の観点からの問題点もある。石灰散布をおこなえば湖沼のpHは元に戻るが、生態系が元に戻ったわけではない。石灰に基づくカルシウムイオン濃度の高い湖沼になる。魚類等への影響はないのか。といった問題である。
欧州では「長距離越境大気汚染条約」が締結され、SOxに関しては、1987年に発効した「ヘルシンキ議定書」によって、21か国が1980年の排出量から1995年までに少なくとも排出量を30%削減してきた。NOxに関しても削減対策がとられているが、SOxほどには効果が上がっていない。
東アジア地域は中国を初めとして経済発展が著しく、大気汚染物質の発生量が急増しており、酸性雨問題が深刻化する可能性がある。そのために、日本の環境省が進めてきた「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」が2001年1月から本格稼働を始めたため、中国、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、韓国、タイ、ベトナムなどの東アジア諸国は協力して、酸性雨の測定に取り組んでいる。
参考文献
IZM