痴愚神礼賛
出典: Jinkawiki
痴愚神礼賛とは、エラスムス(1469~1536)の著書。1511年刊。エラスムスがロンドンを訪問した際、トマス=モアと知り合い、1週間で書き上げたという。刊行に際してもトマス=モアに献呈されている。痴愚女神の自己礼讚の形式で、哲学者・神学者の空虚な論義、聖職者の偽善などを鋭く風刺し、人文主義の立場から支配者・宗教家、教会や王侯貴族の不道徳なおこないを批判。この時代のヨーロッパはルネッサンスの成熟期にあたり、自由な雰囲気が漂っていた。「痴愚神礼賛」はこうした社会の雰囲気が生み出した、すぐれて時代的な作品なのである。 痴愚神とは、その名のとおり愚者の女神である。女神が語りかけるものは世の中のあらゆる愚者たちである。その愚者たちのなかには、スコラ哲学者ドゥンス・スコトゥスもいれば、王もおり、老人から女たち、聖職者や学者など、様々な階層のものたちがいる。痴愚の女神は、彼らに向けて、彼らが幸福でいられるのは自分のひそみに倣って愚かでいられるからだと宣言する。この作品は書き物いうよりは、語りを主体とした文学である。 エラスムスの本領は聖書研究であった。研究によりローマ教会の聖書の誤訳を次々に見つけていった。エラスムスはローマ教会の腐敗には批判的であるが、教会そのものを否定するつもりはなく、研究は確かなものだから教会も頭が上がらない。ローマ教会も一目置く学者になっていった。