ちびくろサンボ

出典: Jinkawiki

2008年7月9日 (水) 22:54 の版; 最新版を表示
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「ちびくろサンボ」とは、イギリス人のヘレン・バナマン(1863~1946)がインドに滞在していた際に、本国で暮らす二人の娘のために手作りした絵本のことである。1899年バナマン自身の挿絵による初版がイギリスで出版されて以来、世界各国で翻訳・出版されてきた。 日本ではフランク・ドビアスの絵によるマクミラン社版(アメリカでは現在絶版になっている)を原本とした岩波版「ちびくろサンボ」が代表的な版とされているが、その他に20数社約50種類の「ちびくろサンボ」が出版されており、部数は120万部にのぼったといわれている。原画では主人公のサンボはシャツを着たインド人風の子どもだが、日本版は裸のアフリカ原住民風に描かれたものが多い。現在ではすべて絶版になっており、日本での入手は困難であろう。

もともと、「ちびくろサンボ」は20世紀半ばまで愛読されてきた。諸外国では、1960年代インドやパキスタンからイギリスへ移住してきた。そこで子どもたちが学校で“サンボ”(黒人への差別用語)と言われ、いじめが起こる。1970年代のアメリカでは、弱いとか貧しいなど、黒人に対するステレオタイプ的に描かれているとして作品批判したことが黒人問題へと発展した。 日本では1988年7月22日、アメリカのワシントンポスト紙が「昔の黒人のイメージが日本でよみがえる」という見出しで、黒人をモデルとしたマネキン人形や、人種差別の象徴のようなリトル・ブラック・サンボのキャラクター人形が日本で商品として出回っていることを非難した記事を掲載した。 その直後、7月24日自民党の渡辺政調会長(当時)が自民党の軽井沢セミナーで「クレジットカードが盛んなむこうの連中は、黒人だとかいっぱいいて、『うちはもう破産だ。明日から何も払わなくていい』ケロケロケロ、アッケラカのカーだよ」と発言を報道され、8月2日アメリカの黒人議員連盟は竹下首相(当時)に講義文書を送った。日本企業は問題と指摘された商品の製造・販売を中止した。 こうした新聞報道をきっかけとして、児童図書「ちびくろサンボ」を出版してきた出版社が見直しを始め、12月に入って学習研究社、小学館、講談社の大手3社が「題名や内容が黒人への偏見をあおる」として自社版を絶版とし、これに続いて1953年に出版して以来、35年間にわたって50万部以上のロングセラーとなっていた岩波版「ちびくろサンボ」も絶版とされた。

「ちびくろサンボ」をめぐっては様々なレベルの問題がある。 ① 作品の評価そのものの問題 ② 「ちびくろサンボ」が仮に差別的な問題である場合の、出版の自由の問題。 ③ 「ちびくろサンボ」が仮に差別的な問題であるとしたら図書館から廃棄すべきか、開架にしなければよいのか、まったく自由でるべきなのか等の図書館での扱いの問題。 ④ 黒人への人種差別に対する日本人の感覚の鈍さ、あるいは意識の欠如にみられる国際感覚が問われているという問題。

また、「ちびくろサンボ」には大きく3つの評価がある。 ① 「ちびくろサンボ」は差別的な作品、あるいは少なくとも差別を助長する要素を持っている作品であり、子どもに対して悪影響を与えるという評価。 ② 「ちびくろサンボ」はトラを機知でやっつける勇敢な話であり、差別作品ではないという評価。 ③ 「ちびくろサンボ」は、あくまでも子どもを楽しませるための作品であり、実際に差別的な役割を果たしているという現状を考えれば、むしろ歴史的な役割を閉じて静かに消え去るのがふさわしいという評価。


参考文献:日本図書館協会図書館の自由に関する調査委員会関東地区小委員会編 「『ちびくろサンボ』問題を考える シンポジウム記録」 日本図書館委員会出版


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