難民問題8

出典: Jinkawiki

2016年7月30日 (土) 10:25 の版; 最新版を表示
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難民問題

難民

 本国の迫害や危険から逃れるために他国に逃れて移住する人間。政治的難民と、戦争や貧困によって難民になってしまう経済的難民とに分けられる。政治的難民とは、人種的・思想的・政治的な理由で迫害を受けたり、戦争被害により避難した難民たちのことである。今日の難民のほとんどは政治的難民である。経済難民とは、主に1970年代から1980年代にかけて自国での経済的不満や生活困窮、深刻な飢餓から逃れるために、発展途上国から先進諸国に出ていく難民のことである。

難民が生まれる理由

ナショナリズム

 一般には、自分の属する民族・国家の統一や独立を目指したり、繁栄を促進するための思想・運動だが、これが大きくなると民族・国家間の緊張や対立が起き、最後には紛争や武力衝突に繋がってしまう。冷戦が終わった後に起きた旧ソ連諸国で次々に起きた独立紛争がナショナリズムの最たる例であるだろう。他にも、現代において人が簡単に移動できるグローバル社会の中でもナショナリズムの問題は尽きない。アメリカでは、9・11のテロがあった後愛国心が高揚することにより、直接関係していないイラクへの攻撃を世論が訴え、国家も武力行使をしてしまった。ヨーロッパにおいてもイスラム教移民やアフリカ系移民への差別的反感はまだまだ大きい問題であるようだ。

宗教問題

 宗教の問題は、日本ではあまり感じることができない問題の一つだ。キリスト教・イスラム教・仏教・ヒンズー教など世界には多くの宗教がある。地域によってさまざまな宗教であるから、教えなどもさまざまである。そこでどちらが正しいのかを争いあう衝突に繋がってしまうのだ。宗教問題が歴史上で大きなものになったのは、ヨーロッパのユダヤ教徒への差別であろう。キリスト教がほとんどを占めるヨーロッパでは、そのほかの言語や文化、歴史、価値観によって国家を形成していくという考えが広まっていた。しかし、非クリスチャンであるユダヤ教徒はおのずと排除されるようになり、その後のユダヤ人国家の建設を目指すシオニズムに繋がり、現在のイスラエル周辺で起きている戦争の火種になっている。

資源問題

 人口爆発により、食糧・石油や天然ガス・銅・木材・水産物・水などの資源が、自国にあるか、無いかが争いを生んでいる。アフリカにはサーヘル地方と呼ばれる地域があり、西はセネガルからモーリタニア・マリ・ニジェール・チャドから、東はスーダン・エリトリア・エチオピアにまたがる広大な地域である。この地域は、歴史的にムスリムが遊牧を行っていた地域であるが、今日のサハラ砂漠の南下により、遊牧に従事する地域が減り、砂漠化がさらに進行している。それより南は、非ムスリムが農業のために占拠しているので、これがもとでムスリム遊牧民と非ムスリム農耕民とが緊張関係を生んでいる。

移民流入

 大都市の人口が増えることにより、医療や教育、福祉などの社会サービスが国民全体に行き届かなくなり、コミュニティ同士の対立が生まれる。  アメリカやスペイン、イタリアなどの欧米諸国は大量の外国人移民流入によって反移民感情が生まれ、自民族中心主義やウルトラ・ナショナリズムという思想ができあがってしまった。特にアメリカでは、メキシコなどの中米からの不法移民が社会問題になっている。  ヨーロッパでは、中東・アフリカのサハラ以南の国々から地中海を越えてたくさんの移民が流入している。原因は、自国の水不足である。移民の増加はヨーロッパ諸国に社会的緊張を生みだし、移民への差別・暴力を招いている。欧米諸国は国境管理を強化するようになり、EUは加盟国の拡大を慎重に行うようになった。EUの拡大により、トルコなどから労働移住が簡単にできるようになり、さらなる問題の拡大につながるからだ。また、地球温暖化により、EUが分断されてしまうという予測もある。これは、もともとヨーロッパ統合を促進させたドイツやフランスなどの国と、干ばつや水不足に直面しているギリシャや東欧などの南東部諸国との分断である。ヨーロッパが富裕層と貧困層の国に二分される可能性である。

難民が生まれる国・地域

シリア・イラク・ヨルダン

 現在の宗教戦争で一番大きな問題といっても過言ではないだろう。シリア・イラク・ヨルダンにはイスラム国の拠点が点在しているといわれている。イスラム国の人間は、歪んだ宗教観を持っている。よって、反社会的なテロを行ったり、倫理的に問題がある殺害行為を行ったりしている。このような組織が生き残ることはとても難しいはずだ。しかし、イスラム国は日々力を増している。その理由は、シリア内に資金援助を行い、代理戦争を楽しむ人間がいるからだろう。そして、他国との戦争が激化する。この争いによって多くの一般人が難民として逃げている。

トルコ

 国家を持たない民族は自分たちの独立国家の形成を考える。しかし、そのためには自分たちの住む地域を現在領地としている国家から奪い返さなければならない。トルコで戦闘を行っている1つがクルド人である。  クルド人とイスラム国家との対立は、オスマン帝国時代からの根深い問題である。オスマン帝国は、クルド人を抑圧的態度で制圧していた。オスマン帝国が弱体化した後に、第一次世界大戦後の講和条約として「セーブル条約」を1920年に西欧諸国と結ぶ。この条約内には、クルド人国家の建設が約束されていた。しかし、トルコ共和国初代大統領であるアタテュルクがこの条約を一方的に破棄した。このことが発端となり、クルド人とトルコの紛争は現代まで続くことになる。まだ、解決には及んでおらず、難民が数多く存在している。

スペイン

 スペインに難民がいるということはあまり問題化されていない。独裁政権を敷いていたフランコの死後、民主化政策によってEUの主要国に次ぐ水準になったスペインであったが、歴史的問題により、バスク・カタルーニャ地方との確執は根深いままになっている。  バスク地方は、スペインとフランスの国境沿いにあり、スペインに4件、フランスに3県の7県で構成されている。バスク人は、インド・ヨーロッパ語族がヨーロッパに進出する前からこの地域に居住していたといわれており、バスク語という独自の言語を持っている。その言語体系からアジア系の民族ではないかと考えられており、クロマニヨン人の子孫ではないかといわれている。19世紀後半まで他国に侵略されていなかったので、スペインの一都市とされることを嫌い、バスク民族国家をつくろうという要求が高まっている。よって、しばしば武力衝突やデモが行われている。  カタルーニャには、バルセロナという中心都市がある。地理的要因からイベリア半島のどの地域よりもローマ帝国からの影響を受けている。住民の7割がカタルーニャ語という独自の言語を話している。19世紀後半に産業革命によりアンダルシア地方から大量の移民が流入してしまった。その状況の中で、「カタルーニャ主義運動」が展開され、独立・分離を目指している。  この問題は、スポーツにも波及している。スペインではサッカーがとても盛んであるが、首都を本拠地としているレアル・マドリードと、バルセロナを本拠地としているFCバルセロナは、エル・クラシコと呼ばれるダービーマッチとされており、試合中には互いに差別的チャントが入り乱れる政治的な風潮が強い試合となっている。  スペイン代表でもこの問題は色濃く、国歌斉唱中にサポーターがブーイングを行うなど大きな問題になっている。

ボスニア・ヘルツェゴビナ

 ユーゴスラビアから生まれた6つの国は、今もなお紛争・殺戮が繰り返されている。ボスニア・ヘルツェゴビナは大きな被害が出ている。セルビア正教を重んじるセルビア人、カトリックを重んじるクロアチア人、イスラム教徒のムスリム人とが入り混じっている地域であり、軍事介入や殺戮、紛争が残っており、経済の再建、難民問題などが深刻な問題となっている。

コンゴ

 コンゴは、アフリカの中心に位置しており、軍事戦略的要地であり、かつダイヤモンド、銅、コバルトなどの地下資源が豊富である。これらの利権をめぐり、抗争が絶えない国である。ベルギーから1960年に独立するが、鉱山資源が多いカタンガ州にはルバ族という非常に自立心の強い部族が住んでいるため、分離独立運動が起こってしまった。この独立を阻止するため、内戦へと発展してしまう。  他国との国境や、資源をどう分けるかも問題になり、戦闘状態が続き、多数の難民が存在している。

難民を救うための条約

難民の地位に関する条約

 略称を難民条約という。1951年に成立し、1954年に発効。もともとは第二次世界大戦後にヨーロッパに大量に発生してしまった難民を救うために、国際連合で採択されたが、その後ほかの地域でも難民問題が発生したため、<難民の地位に関する議定書>が採択されて1967年に発効される。この2つを合わせて難民条約と呼ばれている。  条約の成立と同時に、1951年に国連難民高等弁務官事務所(ジュネーブ)が設置されて難民の保護を目的として活動しており、祖国への帰還や第三国への移住の援助も行っている。日本も1981年に条約に加入しており、1982年1月の発行に伴って出入国管理令が<出入国管理および難民認定法>と改正され、申請により難民(条約難民)として認定された場合のみ受け入れを行っている。なお、日本人の国連難民高等弁務官には緒方貞子さんがいる。しかし、日本では、難民の受け入れは積極的に行っていないのが実状だ。ヨーロッパが難民の受け入れを拒否している今、日本の積極的参加が必要である。

参考文献

・世界情勢を読む会「面白いほどよくわかる 世界の紛争地図」2007 日本文芸社 ・宮田律「紛争の世界地図」2009 日本経済新聞出版社 ・ロレッタ・ナポリオーニ「イスラム国 テロリストが国家をつくる時」2015 文藝春秋 ・サミュエル・ローラン「「イスラム国」謎の組織構造に迫る」2015 集英社 ・増田ユリア「揺れる移民大国 フランス」2016 ポプラ社 ・小山内美江子「ヨルダン難民救援の旅」1991 岩波書店

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