アファーマティブ・アクション9

出典: Jinkawiki

2016年8月1日 (月) 12:17 の版; 最新版を表示
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目次

概要

 積極的に差別を是正する措置。人種・ジェンダー・宗教・民族などをめぐる差別を廃止するための積極的な行動。これまで不公平な待遇を受けてきた黒人などの少数派の人々に対して、教育や雇用などの機会を優先的に与えること。積極的差別解消政策ともいう。

 大学の入学試験や企業の入社試験において、一定の比率の特別優先枠を設け、応募してきた黒人など少数派(マイノリティー)の人々に割り当てる。例えば、住民の人種構成の割合に応じて、公務員や大学入学者の数を決める。これまで不合理な差別を受けてきた少数民族に対する社会的地位向上のための施策としてアメリカで広く採用されている。


背景

 「機会の平等」を批判した「結果の平等」という論理によって導かれた、より平等で公正な社会を実現するための公共政策であり、その具体化を推進する社会的実験装置。黒人(マイノリティー)は差別を受けてきたため、経済的・社会的に低い状態にある。生まれたときからハンディを抱えており、大学入試などのような学力によって測られるとしても、白人(マジョリティ―)のように恵まれた環境に育った者とは同じ条件で扱うのは、逆に不平等である。ハンディを与えることが本当の意味での平等であり社会的正義である。このようにしていけば、次第に黒人も有利な条件を保障されるので、その地位を向上させることができる、と考えられている。この社会的実験は、憲法で保障された人々の権利を擁護し向上させるために、マイノリティーを含むあらゆる人々に対する差別を改善し、男女による共同参画を積極的に推薦してきた。この政策が目指したものは、人種・肌の色・信条・国籍・ジェンダーなどに関して、過去において差別され抑圧されてきたさまざまなマイノリティーの人々に対する補償であり、それによって将来においては差別のない公正な社会を実現していこうとするものである。


逆差別という観点から―アメリカ―

 アファーマティブ・アクションは、現代アメリカ教育の最大の争点のひとつである。特別優先枠の設定によって、正規の試験成績だけで判定されていれば合格していたはずの受験生も存在することになるため、逆差別との見方もされている。アメリカ国内では、1990年代にカリフォルニア州が優遇措置を禁じる決定をするなど賛否両論あり、アメリカのブッシュ大統領は、アファーマティブ・アクションを採用しているミシガン大学の入試制度について、人種を理由にした不公正な仕組みで憲法違反だとする見解を表明した。

 この逆差別という観点での反論は必ずしもマジョリティー側の白人からだけではなく、マイノリティー側で優先されているはずの黒人からもでている。成績が低いのに枠の問題として合格できる者(黒人)がおり、合格ラインに達する学力を持っているにも関わらず不合格になる者(白人)がいるのは、社会的正義とはいえない。また、黒人に有利であるように感じられるこの制度だが、実力が足りない状態で大学に入学しても授業についていくことができず、かえってドロップアウトしてしまう結果につながりやすい制度でもある。恵まれない条件を言い訳にせずに、努力して学力をつけたうえで大学に入学すべきであり、そうした姿勢を堅持してこそ、黒人も社会的向上を実現することができるという意見もある。


日本でのアファーマティブ・アクション

 日本では、過去の雇用慣行などから男女労働者間に生じている処遇格差を積極的に是正するための、女性活躍推進の取り組みとして行われることが多く、そうした優遇措置は一般に「ポジティブ・アクション」と呼ばれる。内閣府男女共同参画局では、男女共同参画社会の実現に向け、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標を達成するため、女性の参画を拡大する最も効果的な施策の一つであるポジティブ・アクションを推進し、関係機関への情報提供・働きかけ・連携を行っている。男女雇用機会均等法では、労働者に対し性別を理由として差別的取り扱いをすることを原則禁止しているが、第8条に「特例として女性の優遇を認める場合がある」と明記している。事業主が、職場に事実上生じている男女間格差を是正して、均等な機会・待遇を実質的に確保する目的で、女性のみを対象にした措置や女性を有利に取り扱う措置を行うことは、法違反にあたらない。これが日本における男女格差是正のための「アファーマティブ・アクション」、いわゆるポジティブ・アクション推進の法的根拠である。2002年4月19日の厚生労働省の発表では、日本における女性に対しての積極的改善措置に関して、「単に女性だからという理由だけで女性を「優遇」するためのものではなく、これまでの慣行や固定的な性別の役割分担意識などが原因で、女性は男性よりも能力を発揮しにくい環境に置かれている場合に、こうした状況を「是正」するための取組」といった注釈もなされている。


参考資料

「ポジティブ・アクションの可能性 ―男女共同参画社会の制度デザインのために―」

田村哲樹 金井篤子 編 ナカニシヤ出版(2007)

「ポジティブ・アクション」内閣府男女共同参画社会(2016/07/31閲覧)

http://www.gender.go.jp/policy/positive_act/

「国際教育論」太田和敬 文教大学人間科学部(2016)


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