アファーマティブ・アクション
出典: Jinkawiki
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アファーマティブ・アクション(Affirmative action 肯定的措置)とは、ポジティブ・アクション(positive action)とも呼ばれている。英語圏ではアファーマティブ・アクションが一般的に使われる。アファーマティブ・アクションとは、人種差別を禁じた1964年成立の公民権法の精神を基本とし、これを実効あらしめるため、主として大統領令に基づき推進されてきた「差別を積極的に是正する措置」をいう。機会の平等を保証するだけでなく、結果の平等を目指し、雇用・教育・住宅や補助金の配分などについて伝統的に不利な立場に置かれてきた黒人・女性・少数民族などを優遇する各種措置の総称を指す。エスニック・マイノリティーや女性、障害者に対する社会的差別を是正するために、雇用や高等教育などにおいて、それらの人々を積極的に登用・選抜することでもある。また、それを推進する計画のことをいう。簡単に言うと、最終的には「強制的」に「結果平等」を目指すものという意味である。マイノリティー優遇措置、半差別政策という意味も含まれる。
外国では、この場合の是正措置とは、差別と貧困に悩む被差別集団の民族や人種・カーストの進学・就職や職場における昇進においての特別な採用枠の設置や、試験点数の割り増しなどの直接の優遇措置を指す。日本においては、このような逆差別は日本国憲法第14条「すべての国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において差別されない」の違反の可能性などから、あくまでも職場環境の改善措置が強調されている。
アファーマティブ・アクションの賛否両論
アファーマティブ・アクションは、一般には「差別撤廃」や「積極的差別是正」の方策として、理念的には特に問題とされない。しかし、その実際的運用や効果測定の場面においては、賛否両論がある。肯定派は、アファーマティブ・アクションは実効的な意味での機会を平等にするという考え方である。それに対して否定派は、アファーマティブ・アクションがもたらす逆差別の弊害を深刻に捉える考えである。
例えば、その地域の人口比が白人は4分の3であり、黒人が4分の1だとする。ある学校の入学者数が100人であったとすると、それを人口比と合わせるために条件を有利にして、マイノリティである黒人を25人入れさせたとする。
肯定派は、これにより学歴が低いために専門的な職に就くことは難しくなり、世帯の収入の差を生み、子女の基礎的な教育機会の差にも繋がり、次世代における進学率の差を再生産されていると主張する。このような自己保存的な問題を解消し、差別されてきた人々の社会的地位の向上を図るために、入学基準や雇用の採用基準で積極的な優遇措置をとる。例えば、マイノリティの民族の生徒を学校に受け入れるため、成績に関わらず、特別枠を設けたり、入学試験において点数のかさ上げを行ったりすることで、彼らの進学率を向上させる。これにより、長期的には差別構造そのものが消滅し、最終的にこの措置を必要としないまでに改善すると期待出来ると肯定派は主張する。
一方で否定派は、マイノリティ(弱者)のための優遇を行う時、入学・就職枠が無限にある訳でないため、この優遇措置が大規模に行われれば当然この優遇措置を受けられないものに対する逆差別となる、という意見である。アファーマティブ・アクションにおいては、進学率や就職率などその手段として、まず結果における数の平等を求めている。ゆえに、場合によっては競争の不公平という弊害が無視出来ないほどに大きくなる危険性もある。また、生活補助などの政策と違い「積極的」差別是正措置は機会の平等を逆転させるものであり、平等の理念に背くという批判も存在する。
日本
日本では、まだ「目標」という段階ではあるが、男女共同参画基本法や女子差別撤廃条約にはアファーマティブ・アクションの推進を肯定する記述がある。実際に、男女共同参画社会基本法の規定による男女共同参画基本計画には、「2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%になるよう期待し、各分野の取組を推進」と定められている。各分野で積極的にアファーマティブ・アクションが実行されているようだ。具体例としては、大学入試において女性優遇入試(女子特別枠)や、雇用において女性優遇採用(千葉県、大阪府、名古屋大学、東横イン、TOTOなど)がなされている。日本においては、一般公務員及び大学では男女格差がそれほど著しくないが、民間企業においての女性の活躍は、途上国と比べても著しく劣っているため、女性の職場の改善措置が強調されている。さらに、日本は政府関連の業務において、実際に障害者や部落民、在日朝鮮韓国人などの集団に優遇措置を行っている。障害者については、「障害者雇用枠」が一般募集枠と別に存在し、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく義務雇用率が定められている。
補助措置としては、明治時代の1899年に松前藩によって弱者となっていた北海道の先住民であるアイヌを救済し、保護するとの名目で、北海道旧土人保護法が制定された。これは、和人とアイヌとの間の格差を是正し、「同じ日本人」となるような同化政策を行っていくために制定された法律であった。1997年にアイヌ文化振興法の成立に伴い、廃止となった。
アメリカ合衆国
アメリカでのアファーマティブ・アクションは、1965年のリンドン・ジョンソン大統領の演説から始まった。しかし、これ以前(1961年3月)に、ケネディ大統領が雇用機会均等委員会を設置すると共に、雇用において人種差別を無くすため、アファーマティブ・アクションを採用するよう連邦政府の事業契約者に求めていたと言われている。
ジョンソン大統領が行政命令を公布する前年の1964年、人種・肌の色・宗教・出身地を理由にした差別を禁止する、公民権法が成立した。しかし、同大統領は、差別を禁止しただけでは、問題が解決するとは考えなかった。なぜなら、差別禁止は外見上平等であるが、実質的には社会の一部分の人に対して、一方的に不利な「機会不平等」状態を与えてしまうからである。現実社会はいくら平等と言っても、簡単に平等は実現しない。不平等を是正する努力は続けつつも、当分の間は不平等な条件のまま競争を続けざるを得ない。このような長年にわたる差別の影響を断ち切るためには、積極的な解消策が必要だというのである。これがアファーマティブ・アクションの基礎になった考えである。
法的議論(ミシガン大学の裁判)
アメリカにおけるアファーマティブ・アクションで有名な判決は、Bakke判決、Weber判決、Paradise判決などである。これらの判決は、それぞれ教育、職業訓練、昇進に関する判決である。最近のアファーマティブ・アクションの判決では、ミシガン大学の入学試験における人種割り当てに関する問題がある。
アファーマティブ・アクションに関して、連邦最高裁は6月23日に2つの判断を示した。ミシガン大学の法科大学院と学部の入学試験における、アファーマティブ・アクションに関する判決である。いずれもアファーマティブ・アクションによって不利益を受けたと主張する、志願者によって起こされた裁判である。判決は、法科大学院については合憲だが、学部に関しては違憲とした。一見、矛盾した判断のように見えるが、2つの判決を総合して検討すると、アファーマティブ・アクションに関する最高裁のガイドラインが示されたと見ることも出来る。今回の判決は、1978年のバッキー裁判以来、4半世紀ぶりに、教育におけるアファーマティブ・アクションの本格的な最高裁判断と言われている。
2つの裁判のうち一方を合憲とし、他方を違憲とした最高裁判決であった。人種を入学基準の一つとすること自体が違憲とされなかったため、アファーマティブ・アクションは存続することになった。最大の当事者である、ミシガン大学の学長は、「今回の判決は、ミシガン大学、高等教育に関わる人々、ならびに大学を支援してきた多数の団体や個人にとって、重要な勝利である」と述べた。最高裁の過半数の判事が、大学の多様性の原則を明確に支持したからであると示されている。
将来
1997年11月にカリフォルニア州で州政府によるアファーマティブ・アクションが禁止され、翌年の12月には、ワシントン州でも同様の提案が成立した。さらに2000年2月には、フロリダ州議会が大学の入試において、アファーマティブ・アクションを採用することを禁止する法律を制定した。しかし、このミシガン大学の最高裁判決により、このような一連のアファーマティブ・アクション廃止の動きにストップをかけたことになった。現在、アファーマティブ・アクションの復活の機運も高まっているようである。
参考文献:広辞苑、ウィキペディア、http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3867/page038.html
http://macska.org/article/117
http://www.co-existing.com/essay/kh5.html