ペスト
出典: Jinkawiki
ペストとは、グラム陰性そう菌の一種であるペスト菌(Yersinia pestis)によって引き起こされる。
野生ゲッシ類とその寄生ノミで維持されている。主にネズミノミ(Xenopsylla cheopis)によって媒介される。人がこのネズミノミに刺されて感染する。もしくは、野生動物からペットにノミが移りヒトに感染することもある。ヒトの世界に入ると、ヒトからヒトへの直接感染、ヒトノミを介した感染が起こりうる。米国における1970年以降のペストに関する疫学調査から、ヒトへのペスト菌感染経路は、 病原体保有ノミ刺咬に基ずく感染(78%) ペットなどを含む感染動物の体液からの感染(20%) がほとんどであることが明らかになっている。
1) 腺ペスト
不定の症状、すなわち発熱、悪寒、倦怠感、筋肉痛、嘔吐、虚脱、咽頭痛、頭痛などで発症する。同日あるいは次の日に、感染ノミ刺咬後、経皮的に感染して、2~8日の潜伏期間をおいてノミ刺咬部位近傍領域のリンパ節炎をみる。さらに鼠径部、腋窩、頸部リンパ節等がクルミないしアヒルの卵大に腫大し、膿瘍にまで至る。この後、腺ペストを経てペスト性敗血症に症状が進行する例もある。菌血症から全身に及ぶ激症型では、2~4日間で敗血症に進展して死亡する。未治療の腺ペストの死亡率は50~60%である。治療すれば、5%に減少する。
2) ペスト性敗血症
腺ペストから進展する場合と、巣症状が先行せず血行性に広がる一次性敗血症ペストがある。ペストせい敗血症に移行した場合、昏睡、四肢の壊疽、紫斑を生じる(黒死病)。敗血症へ移行する以前に、抗生物質などの治療を行わなかった場合、患者は数日以内にショックにより死亡することが多い。ペスト性敗血症の肺ペストへの移行性、および致死率は腺ペストと比較して非常に高い。
3) 肺ペスト
腺ペストおよびペスト性敗血症患者の20%が肺ペストに移行すると考えられている。肺炎を合併したペストは、ヒトからヒトに容易に感染し、一次性咽頭ペスト、肺ペストを引き起こす。咽頭ペストには無症性感染もある。肺ペストは1日で死亡する。したがって、1日治療が遅れると死亡してしまう。
ペストの歴史
[編集] アテナイの疫病 紀元前429年、ペロポネソス戦争の最中ギリシャのアテナイを襲って多数の犠牲者を出した疫病は、「アテナイのペスト」と呼ばれていたが、記録に残る症状の分析により、今日では痘瘡(天然痘)または発疹チフス(あるいはそれらの同時流行)と考えられ、ペスト説は完全に否定されていると言ってよい。
[編集] ローマ帝国での流行
ヨーロッパで最初に記録に残っているペストの流行は、542年から543年にかけてローマ帝国で流行したものである。当時は「ユスティアヌスの斑点」と呼ばれた。
14世紀の大流行
中世ヨーロッパにおけるペストの伝播472年以降、西ヨーロッパから姿を消していたが、14世紀には全ヨーロッパにまたがるペストの大流行が発生した。当時、モンゴル帝国の支配下でユーラシア大陸の東西を結ぶ交易が盛んになったことが、この大流行の背景にあると考えられている。1347年10月(1346年とも)、中央アジアからイタリアのメッシーナに上陸した。ヨーロッパに運ばれた毛皮についていたノミが媒介したとされる。
1348年にはアルプス以北のヨーロッパにも伝わり、14世紀末まで3回の大流行と多くの小流行を繰り返し、猛威を振るった。正確な統計はないが全世界で8,500万人、当時のヨーロッパ人口の三分の一から三分の二、約2,000万から3,000万人が死亡したと推定されている。ヨーロッパの社会、特に農奴不足が続いていた荘園制に大きな影響を及ぼした。
イギリスでは労働者の不足に対処するため、エドワード3世がペスト流行以前の賃金を固定することなどを勅令で定めた(1349年)ほか、リチャード2世の頃までに、労働集約的な穀物の栽培から人手の要らないヒツジの放牧への転換が促進した。
また、ユダヤ教徒の犠牲者が少なかったとされ、迫害や虐殺が行われた(ユダヤ教徒が井戸へ毒を投げ込んだ等のデマが広まった)。ユダヤ教徒に被害が少なかったのはミツワーに則った生活のためにキリスト教徒より衛生的であったという考えがある一方、実際にはキリスト教徒と隔離されたゲットーでの生活もそれほど衛生的ではなかったなどの見解もある。
地中海の商業網にそって、ペストはヨーロッパへ上陸する前後にイスラーム世界にも広がった。当時のエジプトを支配し、紅海と地中海を結ぶ交易をおさえて繁栄していたマムルーク朝では、このペストの大流行が衰退へと向かう一因となった。
2004年に英国で出版された「黒死病の再来」という本によると、当時の黒死病は腺ペストではなく出血熱ウイルス(エボラのような)だったという。北里柴三郎の命をかけた努力により抗血清でペスト等を治す方法はできたがエボラは有効な治し方は無くいまだに脅威があるといえる。
参考:ペストとは何か